自治体DX事例15選 - 住民サービスを変える先進自治体の実践
「どこから始めればよいか」「予算がない」。自治体DXの現場で最も多く聞かれる声です。
本記事では、日本DX大賞で評価された自治体を中心に、一過性ではなく「組織や仕組みの構造が変わった」15の事例を厳選しました。人口3千人の町から924万人の県まで、規模が違っても参考にできる実践を紹介します。
この記事でわかること
- 日本DX大賞で大賞・優秀賞を受賞した自治体の具体的な取り組み内容
- 住民サービスの向上と業務効率化を両立するアプローチ
- 限られた予算で実現する自治体DXの進め方
- デジタルデバイドを乗り越える「誰一人取り残さない」施策
事例1: 都城市 - 3年連続日本DX大賞の自治体DX最先進都市
課題
人口減少と労働力不足が進行する中、自治体業務は婚活、空き家、カーボンニュートラル、定額減税など年々多様化・高度化。公務員の採用難も深刻化し、限られた人員での業務遂行が喫緊の課題でした。
取り組み内容
市長をCDO(最高デジタル責任者)とするデジタル統括本部を設置。デジタル統括課・財政課・総合政策課・各部局が連携する「カルテット体制」で、迅速な意思決定と実行を実現しています。
1. 全国初の自治体専用生成AIプラットフォーム「zevo」:条例や要綱をRAGで参照し、LGWAN環境内で安全に活用。ビジネスチャット「LGTalk」との連携により、普段のチャット画面から生成AIを利用可能にしました。
2. マイナンバーカードのインフラ化:交付率95%を全国に先駆けて達成し、ふるさと納税事務処理の効率化や住民サービスの基盤として活用。
3. DXチャレンジプロジェクト:実証事業のための予算枠を確保し、さまざまなデジタル技術の迅速な実証を可能にする仕組みを構築。
成果
- マイナンバーカード交付率95%達成
- ビジネスチャット+生成AIのセット利用で年間約1,000万円のコスト削減
- ふるさと納税事務処理の大幅な効率化
この事例のポイント
毎年新たな施策を積み重ねる持続力に加え、財政課をプレイヤーとして巻き込む「カルテット体制」と、実証のための予算枠がスピーディーな施策実行を支えています。
事例2: 群馬県 - 「日本最先端クラスのデジタル県」を目指す全庁DX
課題
県民サービスの向上と職員の業務効率化を同時に達成するため、防災・人材育成・行政手続きなど多岐にわたる課題へのデジタル対応が求められていました。
取り組み内容
「ぐんまDX加速化プログラム」を策定し、多角的に展開。LINE上のデジタル避難訓練では、居住地域のハザード情報に基づきパーソナライズされた避難訓練をチャットボットで提供。職員のデジタルリスキリングプログラムを構築し、官民連携プラットフォームも整備しています。
成果
- LINE上のデジタル避難訓練で県民の防災行動を促進
- 職員のデジタルリスキリングプログラムの確立
この事例のポイント
新しいアプリのインストールを県民に求めず、すでに手元にあるLINEを基盤に選んだ実用性。防災・人材育成・官民連携を一体で推進しています。
事例3: 佐賀市 - 住民参加型の公式スーパーアプリで自治体の在り方を変える
課題
「包括性(すべての住民が対象)」「地域づくり(みんなで課題を解決)」「マーケティング(データの活用)」を同時に実現する仕組みが不足していました。
取り組み内容
住民参加型の開発プロセスで佐賀市公式スーパーアプリを開発。年4回以上のバージョンアップで機能改善を継続し、マイナンバーカードの公的個人認証を活用した「デジタル市民証」機能もリリース。住民の声を直接アプリに反映する仕組みを構築しています。
成果
- デジタル市民証登録者の約半数が50代以上
- 住民同士の「教え合い」文化の醸成
- 複数の自治体がデジタル田園都市国家構想交付金を活用して同様のアプリを導入予定
この事例のポイント
デジタル市民証登録者の約半数が50代以上という事実が、「みんなで創る」開発プロセスの効果を物語っています。
事例4: 佐賀県 - 産業DXで人材流出を逆転させる県レベルの挑戦
課題
地方から都市部への人材流出が続く中、県内企業の賃金水準だけでは都市部と競争できず、DX推進による生産性向上と魅力的な企業づくりが急務でした。
取り組み内容
「そのモヤモヤを、明日のワクワクに」をスローガンに、アナログな企業がデジタルで一気に飛躍する「リープフロッグ的発展」の可能性に着目。DX人材の育成・マッチングや導入支援を一体的に展開しています。
成果
- 県内企業のDX推進支援体制の確立
- DX人材育成プログラムの構築
この事例のポイント
個別企業の支援ではなく、県全体のエコシステムとしてDXを「面」で推進。人材流出を逆転させるという明確な目標設定が、施策の一貫性を生んでいます。
事例5: 福島市 - 高齢者にやさしいデジタル化と自治体ビジネスへの展開
課題
デジタル化を推進する一方で、高齢者などデジタルに不慣れな住民が取り残されるリスクが顕在化していました。
取り組み内容
市長就任2週間後に市長・幹部会議のペーパーレス化を断行。「かえるチャレンジ」で職員の改革意識を醸成し、内製化の機運を育成。高齢者にはUI/UX設計とデジタル活用支援員による対面サポートを組み合わせ、医療分野ではオンライン診療を導入して休日小児医療や高齢者施設の負荷軽減に貢献。横展開可能なシステムは他自治体への提供や自治体ビジネスにも展開しています。
成果
- シェアサイクル登録者数・公式LINEシニア登録者率・スマートフォン保有率の上昇
- オンライン診療による医療アクセスの改善
- 自治体ビジネスにつなげたシステムの創出
この事例のポイント
就任2週間でペーパーレス化を断行したトップの推進力と、高齢者向けUI/UXやオンライン診療など具体的な施策の積み重ね。ノウハウを他自治体に展開するビジネスモデルも構築しています。
事例6: 指宿市 - 低コストで職員が自走する「指宿モデル」
課題
小規模自治体として高額なシステム導入は困難。コンビニ交付は費用対効果が合わないと判断しました。
取り組み内容
国の「ぴったりサービス」を窓口業務に転用し、コンビニ交付の100分の1のコストでオンライン申請を実現。QRコード決済も内製で導入。ランニング費用の最小化と職員の自走を両立しています。
成果
- オンライン申請率36.2%を達成
- 年間約405万円の人件費削減
- コンビニ交付と比較して約100分の1のコスト
この事例のポイント
コンビニ交付の100分の1のコストでオンライン申請を実現。「お金がない」は制約であって言い訳ではないことを、数字で証明しました。
事例7: 神奈川県 - コロナ禍で構築した医療DX基盤
課題
ダイヤモンド・プリンセス号対応から始まったコロナ対策において、療養者・医療機関・保健所・県庁をつなぐデジタル基盤が存在しませんでした。
取り組み内容
「新しいシステムを作らず既存パッケージを使う」「民間人材を活用する」の2原則を徹底。kintoneで病床・物資情報を集約、「Team」で在宅療養者の健康観察を一元化、LINE Botによる自動アンケートとAICallで保健所の負荷を軽減。Palantirで複数システムのデータを統合し、ワクチン副作用解析なども実施しました。
成果
- 療養者の健康観察・安否確認の一元化と自動化
- データに基づく迅速な政策判断の実現
この事例のポイント
「新しいシステムを作らず既存パッケージを使う」「民間人材を活用する」の2原則を徹底。危機対応で培った判断力と、その基盤が平時にも活きる設計が特徴です。
事例8: 北見市 - 「書かないワンストップ窓口」で住民と職員の体験を変革
課題
窓口では住民が申請書の書き方に迷い、複数窓口を回る非効率が常態化していました。
取り組み内容
新人職員による体験調査で住民視点の課題を洗い出し、分野別の色分けカウンターサインの手作りなどアナログ改善から着手。手続きチェックシートや様式の標準化を経て、その上にシステムを載せる「アナログ改革+デジタル」のアプローチで書かないワンストップ窓口を実現しました。
成果
- 窓口業務の劇的な改善
- 住民が必要な情報だけを受け取れる仕組みの構築
- 受付データの庁内活用が可能に
この事例のポイント
新人職員の体験調査から始まり、色分けカウンターサインなどアナログ改善を先行。その上にシステムを載せるアプローチは、業務改革の手順として参考になります。
事例9: 南陽市 - 「行かなくても済む市役所」をコンビニ交付の100分の1で実現
課題
コンビニ交付のシステム改修費は数千万円に上り、小規模自治体には費用対効果が合いませんでした。
取り組み内容
住民票・印鑑証明書のオンライン申請を内製で構築し、コンビニ交付の約100分の1のコストで提供。QRコード決済を手数料無料で導入し、公共料金全般に展開。RPAによるワクチン接種予約の自動化では約2,000時間を削減しました。
成果
- コンビニ交付の約100分の1のコストでオンライン申請を実現
- RPAで約2,000時間の作業削減
- QRコード決済を公共料金全般に展開
この事例のポイント
コンビニ交付の100分の1のコストで内製したオンライン申請の経験が、QRコード決済やRPAなど次の施策へとつながりました。一つの成功が次を生む好循環です。
事例10: 加古川市 - 市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」
課題
審議会やパブリックコメントでは参加者が限られ、多様な市民の声を政策に反映する仕組みが不足していました。
取り組み内容
バルセロナ発のオープンソース市民参加プラットフォーム「Decidim」の日本版を導入。住民がオンラインで政策提案や議論に参加でき、行政がその声を政策に反映するデジタルプロセスを構築しました。
成果
- オンラインでの市民参加型合意形成を実現
- 幅広い年齢層からの政策提案を獲得
この事例のポイント
審議会やパブリックコメントでは届かない声がある。DXを「行政の効率化」ではなく「市民参加のハードルを下げる手段」として活用した事例です。
事例11: 愛媛県 - 官民共創プラットフォーム「エールラボえひめ」
課題
県民の地域課題への関心はあるものの、課題解決に取り組むための「場」や「つながり」が不足していました。
取り組み内容
県民・企業・行政がデジタル上で出会い、地域課題の解決に向けたプロジェクトを共創する「エールラボえひめ」を構築。アイデア提案から仲間集め、プロジェクト実行まで、一連のプロセスをプラットフォーム上で完結できます。
成果
- 官民共創プロジェクトのデジタルプラットフォームを確立
- 多数の地域課題解決プロジェクトが始動
この事例のポイント
地域課題への関心はあっても、「場」や「つながり」がなかった。そこにデジタルプラットフォームを置くことで、県民の主体的な参画を後押ししています。
事例12: 磐梯町 - 「旅する公務員」が切り拓く新しい自治体の働き方
課題
人口3,300人の小規模自治体として、縦割り行政の閉塞感を打破する必要がありました。
取り組み内容
MS365を基盤としたセキュアなテレワーク環境を整備し、「旅する公務員」を実現。職員が全国の自治体を訪問しながら先進事例を共有し、自町に持ち帰って実践。CDO補佐官との連携でゴール設定と現場のすり合わせを行い、端末本体にデータを保存しないセキュリティ体制も構築しました。
成果
- テレワーク環境の全庁的な整備
- 他自治体との先進事例の共有と横展開
この事例のポイント
人口3,300人の小規模自治体だからこそ可能な大胆さ。テレワーク環境を活かして職員が全国の先進自治体を訪問し、知見を持ち帰る仕組みを作りました。
事例13: 小国町 - ノーコードアプリで始まった超小規模自治体のDX
アステリア連携事例 | 熊本県 | 人口約6,700人
課題
豪雨災害が頻発する中山間地域で、被災状況の迅速な報告と共有が課題。IT予算も専門人材も限られていました。
取り組み内容
ノーコードアプリ作成ツール「Platio」を活用し、検温アプリの導入からスタート。豪雨災害を機に被災状況報告アプリを開発。アステリア社の企業版ふるさと納税との連携で外部リソースも活用しています。
成果
- 職員がノーコードアプリを作成・運用
- 被災状況のリアルタイム報告体制を構築
- 町役場外にもデジタル化が波及
この事例のポイント
IT予算も専門人材も限られる中、ノーコードツールと企業版ふるさと納税を組み合わせて防災DXを実現。人口6,700人でもできることを実証しました。
事例14: 笠岡市(岡山県) - コロナ禍をシティプロモーションDXの転機に
課題
対面イベントや紙媒体に依存していたシティプロモーションが、コロナ禍で機能停止に陥りました。
取り組み内容
危機を転機と捉え、デジタルを活用したシティプロモーションに転換。SNSやオンラインイベントを組み合わせた新しいコミュニケーション戦略を構築しました。
成果
- デジタルベースのシティプロモーション体制を確立
- コロナ収束後もデジタル施策が定着
この事例のポイント
コロナ禍で対面イベントが止まったことを転機に、デジタルベースのシティプロモーションに転換。コロナ収束後もその体制が定着しています。
事例15: 東北大学 - RPAで年間10万時間の業務削減、ノウハウを全国に公開
課題
高度化する大学業務の中、定常業務に追われて戦略的業務にリソースを割けない状況でした。
取り組み内容
全学展開したRPAで業務自動化を推進。クラウド型デスクトップとPBXの導入で場所を問わない働き方を実現。蓄積したノウハウを「東北地区業務DXチーム」として他大学と共有し、大学の枠を越えた連携を推進しています。
成果
- 年間約10万時間の業務削減
- 東北地区の国立大学との連携チームを発足
- 採用志願者の20%が「東北大学でDXに携わりたい」と回答
この事例のポイント
採用志願者の20%が「東北大学でDXに携わりたい」と回答。10万時間の業務削減に加え、DXの取り組み自体が人材採用力の向上にもつながっています。
まとめ: 自治体DXを成功させるための5つの原則
15の事例に共通するパターンを整理します。
1. トップのコミットメントが推進力を生む
都城市は市長をCDOに、福島市は就任2週間でペーパーレス化を断行。首長自身が旗振り役を担う自治体ほど、変革のスピードが速い傾向があります。
2. 「お金がない」は言い訳にならない
指宿市と南陽市はコンビニ交付の100分の1のコストでオンライン申請を実現。小国町はノーコードツールで防災アプリを構築。予算の制約は、知恵で補えることが複数の事例で示されています。
3. アナログの改善が先、デジタルは後
北見市はまずアナログで窓口を最適化し、その上にシステムを載せました。業務プロセスを見直さずにシステムだけ導入すると、「デジタル化された非効率」が生まれます。
4. 住民を「サービスの受け手」から「共創者」に
佐賀市の住民参加型開発、加古川市のDecidim、愛媛県のエールラボえひめ。住民を「サービスの受け手」ではなく「まちづくりの共創者」として位置づけている自治体が成果を上げています。
5. 成果を横展開する仕組みを組み込む
東北大学のノウハウ公開、福島市の自治体ビジネス展開、佐賀市の横展開。自らの成果を他の自治体に共有する仕組みを組み込んだ事例が、全体の底上げにつながっています。
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