DX事例

【神奈川県】新型コロナウイルス感染症対策の神奈川モデル

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。

神奈川県は2020年1月から新型コロナウイルス感染症への対応に県を挙げて、いち早く取り組んできました。ダイヤモンド・プリンセス号で発生した感染者を全国へ搬送するオペレーション、神奈川県の新型コロナウイルス感染症対策チームの拡大と積極的なデジタルツールの導入により、療養者と医療機関、保健所、県庁などをつなげるDX基盤を築いてきました。

2022年6月23日に行われた「行政機関部門」より、神奈川県の事例をご紹介します。

神奈川県の概要
■人口:9,237,824人
■面積:2,416.11 km2
■主な産業:農業・商工業・観光業
■知事:黒岩 祐治
■公式Webサイト:https://www.pref.kanagawa.jp/

ダイヤモンド・プリンセス号からスタートした、コロナとの戦い

2020年2月、ダイヤモンド・プリンセス号内で700人にも上る新型コロナ感染者が発生しました。当時、県内で感染症に対応できる病床は74床しかなかったので、全国の自治体のご協力のもと、患者を他県に搬送するオペレーションを実施しました。このとき、県内で受入病床が足りなくなる「医療崩壊」が発生し、無症状者・軽症者、酸素吸入が必要である中等症の患者が大量に発生する新型コロナウイルス感染症の大変さを思い知ることになりました。

翌3月初めには、医療機関での軽症者の受け入れ体制の整備、ECMOや人工呼吸器の手配をものすごいスピードかつ大規模に進める必要がありました。この時、神奈川県ではダイヤモンド・プリンセス号での経験を踏まえ、「重点医療機関に中等症の患者さんをできるだけ受け入れ、無症状・軽症者の方は自宅療養や宿泊療養に」という緊急時の医療提供体制「神奈川モデル」を作り上げました。

2020年3月当時、県庁内で感染症対策に従事しているメンバーは20人ぐらいでした。
それを4月頃からコロナ対策本部として一気に広げていって、現在550人ほどのメンバーが在籍する大規模な組織になりました。コロナ対策本部は私も含めた民間人材が配置されているグループがあり、それぞれ民間人材と県庁職員が共同で運営しています。

デジタルツールの力を借りるが、既存のパッケージシステムを使うことを徹底

3月初頭、イタリアなどの海外での感染動向等を踏まえると、医療提供体制を構築するために我々に与えられた猶予は14日間しかありませんでした。非常に短期間で医療提供体制を
構築し、柔軟・大規模に展開するため、神奈川県ではさまざまなデジタルツールの力を借りることにしました。kintone(キントーン)やTeam(チーム)、Palantir(パランティア)に加えて、backlog(バックログ)やDialpad(ダイヤルパッド)などのデジタルツールを導入しながら多様な変化に柔軟に応えられる医療体制の構築を進めました。

新型コロナウイルスという未曾有の事態に対応する際に、当初我々が使えそうなツールは
ありませんでした。しかし、この限られた期間で大規模な仕組みを構築するために、新しいシステムを作らず、標準的な機能が備わっているパッケージシステムを使うこと、導入にあたっては民間の人材を活用すること、この2点を徹底しました。

kintone

まず、kintone(キントーン)の導入によって、コロナに関わる全ての医療機関から病床状況や、当時不足していたマスクやアルコール、人工呼吸器などの物資に関する情報を収集し、医療機関と県が収集した情報を保健所や国にタイムリーに共有する仕組みを構築しました。この仕組みにより、迅速な意思決定と新型コロナ対策への政策展開を実現してきました。

地域包括ケアクラウドシステム「Team」とLINE Botの連携

また、病院以外で療養する方のために、地域包括ケアクラウドシステム「Team」を導入しました。

保健所は非常に限られた人数で運営していることから、療養患者の増加に伴い、日々の療養患者の健康観察等について保健所だけでは電話対応しきれませんでした。そこで「Team」で取り込んだ情報に基づき、療養者に対してLINE Botによる健康観察のアンケートを毎日実施しました。また、LINE社が提供するサービスの一つ「AiCall」を活用し、療養者にAIが電話をかけて聞き取りを行うようにし、それも難しい方に関しては、保健師含めたオペレーターチームが電話で聞き取るという形にしました。こうして、療養者の健康観察・安否確認の一元化かつ自動化を進めました。

Palantir(パランティア)

感染動向等を踏まえた感染症対策の検討に当たって、収集した医療機関からの情報と患者情報を組み合わせ、解析する必要がありました。これらを統合するための基盤として神奈川県は「Palantir(パランティア)」を導入・活用しました。患者の予後の観察以外にも、ワクチンを打った人が接種後に副作用が悪化しなかったかなど、複数のシステムを組み合わせたデータ解析を日常的に実施しています。

神奈川県の新型コロナウイルス対策のポイント~人材とデジタル~

医療機関の皆さんとフラットな関係で協定を結び、緊急時の医療提供体制「神奈川モデル」を地域とともに構築し、「DMAT(ディーマット、Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)」の運営に人材が加わるなど、エンジニアのプロや外部の民間人材に活躍いただいています。

平時は少人数で行政の仕事をこなしていますが、コロナのような有事となると人出が足らず回らなくなるので、デジタル基盤を整え、デジタルツールに仕事をしてもらうことが必要です。一方で、医療機関や療養者、県民の皆さん、高齢者施設などにいらっしゃる方々とも
デジタルでつながることで、意思決定に必要な情報収集や、意思決定した結果をお伝えしたり、政策に反映していくことが実現します。

まとめ

神奈川県はコロナ禍で、デジタルに仕事をタスクシフトしていくことと、つながる基盤を
平時から持っておくという教訓を得ました。これまでさまざまな中間団体を挟んで各方面とコミュニケーションを取ってきましたが、デジタルツールの積極的な導入で民間の人材に
頼る方向に舵を切り、医療機関、患者、県民、福祉施設、一般事業者と直接つながる基盤を作ることができました。

コロナがなければ、現在のような姿まで一気に作れなかったかもしれません。これを平時に有効なDXにつなげていき、本当に価値を出せる基盤にしていくところに向けて歩を進めようとしています。数多くの方の協力のもと、沢山の苦労を経て生まれたこの仕組みを、今後もしっかりと育てていきたいと考えております。