DX事例

【北見市】市役所の窓口業務をシンプルにし、ユーザー体験、職員体験が向上|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月23日に行われた行政機関・公的機関部門 決勝大会では、自治体などの行政機関や公的機関が、デジタル技術を活用し住民サービス向上や新しい価値創造、顧客体験の創造に取り組んだプロジェクト事例が発表されました。

この記事では、市役所の窓口業務をシンプルにし、ユーザー体験、職員体験を向上させ、そこへシステムを上乗せして理想の窓口業務のあり方を築いた北見市の事例をご紹介します。

窓口業務をワンストップでシンプルに

北見市長 辻:

北海道北見市の市長、辻と申します。

北見市では「書かないワンストップ窓口」を導入しており、住民の皆様だけでなく、職員にも使いやすい窓口を実現しています。具体的にそれがどういうことなのか、その秘密をお伝えしましょう。この取り組みに奮闘していただいている窓口課の吉田係長から、詳しい説明をさせていただきます。

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

今日、日本DX大賞の舞台で「アナログから始める窓口業務DX」というタイトルでプレゼンテーションをさせていただきます。DXといえばデジタルが重要と思われがちですが、私たちはこの「X」こそが重要だと考えています。DXの中にはアナログの要素も多くありますので、今日はそのお話をさせていただきたいと思います。

北見市では「書かないワンストップ窓口」を実施しております。もうご存知の方もいらっしゃるかもしれません。実際に、窓口へ来られた市民の方から「もう手続きが終わったんですか!?」、「本当に回らなくていいんですか!?」といった言葉をいただくことがあります。

役所の窓口業務は厳しく、怒られることは多くても、褒められることは少ないと思います。しかし、今窓口では職員同士で褒められたことを自慢し、「今日はこんなことを言われたんだよ」「今日こんなこと褒められたんだよ」といった言葉が飛び交い、モチベーションを高め合いながら業務に当たっています。

北見市のワンストップサービスは、ライフイベントに関するワンストップサービスで、住所変更や戸籍の届出に伴う様々な手続きを一カ所で受付を行うものです。以前は様々な課やカウンターを回って手続きを行っていたものが、今は一カ所で多くの手続きが受けられるようになりました。つまり、複数の窓口を回らなくて、いいんです!

この「書かないワンストップ窓口」について、システムを入れればできると思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その裏にはアナログな業務の見直しがたくさんありました。

ユーザー視点で課題を掘り出し・抽出

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

最初に取り組んだのは、ユーザー視点での課題を抽出することでした。新人職員が窓口で住民票と所得証明を取得するという体験調査を行いました。このカスタマージャーニー調査(体験調査)を行った結果、多くの課題が明らかになりました。例として、申請書の書き方や証明書の中身が分からない、といった問題がありました。

住民にとってやりにくい窓口は、職員にとってもやりにくかったのです。カスタマージャーニー調査で、窓口を回らなければならない不便さが明らかになりました。それを踏まえ、手続きの漏れをなくし、分かりやすく、ワンストップ対応を目指しました。

具体的な対策として、まずアナログでできることから始めました。手続き案内書を見直し、課の名前ではなくライフイベントに合わせて7種類を用意し直しました。内容も分野から条件を当てはめることで、手続きにたどり着ける作りに変更しました。

課や業務の順番を優先しない設計にしました。そして、チェックシートを使うことで、住民自身でセルフチェックも可能になりました。また、申請書のレイアウトを統一し、目で見て分かりやすくしました。

次に、人や書類の動線を研究しました。課の名前が前面に出るレイアウトではなく、分野別に色を分けてカウンターサインを手作りしました。これも職員ができることから、アナログでできることから改善してきました。

このように、手続きチェックシートの用意や様式の標準化など、様々なアナログな課題を解決してきました。そして、この作成した手続きチェックシートを基に、アナログでワンストップ対応を進めることにしました。

アナログ改革にシステム上乗せで、理想の仕事の流れが実現

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

業務改革の進展について深く考察していくうちに、窓口業務は基本的に情報処理であることに気づきました。申請書、住所、名前、必要な証明書、システム入力内容、マニュアルの内容など、これら全てがデータでした。分厚いマニュアルも30cm以上になることがありましたが、このデータをシステム化することで仕事が楽になるのではないかと考え、システム導入への道を探り始めました。

最初は職員自身が小さなシステムを作成しましたが、これに申請書作成機能を追加し、さらには分厚いマニュアルの内容を取り込むために、事業者に委託して共同開発を進めました。

アナログな業務にシステムを組み合わせることで、理想的な業務の流れが形成されました。このプロセスでは、住民とのコミュニケーションを円滑にするため、アナログなツールも活用しました。

このプロセスを経て、北見市の「書かないワンストップ窓口」が完成しました。

現在では、来庁者がフロアマネージャーから案内を受け、カウンターで手続きを進めます。システムを使い、職員がサポートすることで、住民の不安が解消し、手続きも署名だけで済むようになりました。

役所が保有するデータを利用して、住民に対して手続きの案内が上手くできるようになりました。住民は必要な情報だけを手に入れて手続きが進んでいきます。また、受付にシステムを導入したことで、そのデータを庁内で活用することも可能になりました。システムとアナログなツールを組み合わせることで、窓口業務が劇的に改善されました。

フロント業務改革と合わせてバックオフィス改革も

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

我々はフロントの業務改革だけでなく、バックオフィス改革にも努めています。書類の流れや作業の役割に応じてレイアウトを設計し、書類は動くが職員が移動の手間が発生しにくいような工夫をしています。さらに、先ほどのデータを使ってRPAが自動入力を行うことで、職員の手作業を大幅に削減しています。

ボトムアップで課題解決に取り組んでおり、住民にとってはカウンター来訪回数が減り、受付時間も削減できました。職員の対応にかかる工数も減少し、庁内の業務がスリム化しています。

このような取り組みが続けられた理由は、理想の窓口業務の追求と、課題の繰り返しの検討です。住民サービスの向上は重要ですが、職員の手間や負担が増えないようなバランスの取り組みも行っています。DXの取り組みでは、まずアナログから窓口の理想像を描き、システムは最後のピースとして導入していきました。手続きのチェックシートやワンストップサービスの調整など、アナログな要素も多く取り入れています。

ノウハウを全国へ共有

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

現在、北見市の取り組みのノウハウを全国で共有しています。窓口業務改革の取り組みの手順書を共創プラットフォームで公開し、業務改革を進めたい自治体の後押しを行っております。昨年度の視察件数が70件という数値は、皆様の期待を強く感じます。

北見市が独自で作成したシステムは、現在までに14の自治体で導入されています。先ほど作成したチェックシートや窓口の説明ガイドなどは、配布数が多すぎて正確な数はわかりませんが、多くの方々に活用いただいています。

このように自治体間で協力を高め、業務改革が進展しています。新たな業務改革の取り組みが、大きな連携の輪を広げていると感じます。

最後に

北見市 市民環境部窓口課吉田:

窓口業務改革の取り組みは非常に楽しいと感じています。今までの努力によって、窓口の職員たちが楽しそうに仕事をしている姿を見ることができて、本当に楽しいと感じています。

北見市長 辻:

この「書かないワンストップ窓口」の取り組みは、現場の職員が悩み、どうあるべきかを試行錯誤しながら形作ってきたものです。これはボトムアップの取り組みであり、職員の話を聞き、最終決断をする私のリーダーとしての責任で、この取り組みを後押ししてきました。この取り組みを進めて、本当に良かったと心から思います。

ボトムアップ改革成功の背景

谷畑(審査員):

バックヤード改革が一番大事だと思うんですよね。デジタルを導入しようとしても、役所の仕事の流れや職員の考えがデジタルを拒否する状態があるので、そこをどうクリアするかが重要だと思います。システムを入れるほど職員が苦しむ現状を、ボトムアップでしっかり改革していくことは先進的な事例だと思います。職場風土を作る過程には何かコツがあったんでしょうか?新しいことをやるのは嫌がるものだと思うんですけれども。

北見市長 辻:

コツも何もありません。ただ、職員の仕事に向き合う気持ちが大きな力を果たすと思っています。私自身は非常に心配していましたが、心配以上に良い形でワンストップの関係で仕事ができる状況になり、大変嬉しく思っています。

システム開発コストについて

平野(審査員):

「書かない」と「ワンストップ」のコンセプトは素晴らしいと思います。全国の自治体に導入して欲しいと思います。システムと変更、外注のコスト捻出はどうされたのでしょうか?

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

システム開発は一般財源で行いました。議会での審議を経て承認をいただきました。当時の市長や議会の方々も、初めは疑問を持っていましたが、未来への投資として取り組んできました。現在はシステム事業者と著作権を共有し、一部、市にも歳入が入る仕組みを取り入れています。

現場の職員を動かす小さな工夫

毛塚(審査員):

窓口の部署で改革に取り組んだことは素晴らしいと思います。改革を進める際に工夫された点、例えば窓口業務を改革するときの適切な時期など、現場の職員さんを動かすための小さな工夫について教えていただけますでしょうか?

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

繁忙期を避けることは大切ですが、特に時期は関係ありません。スモールスタートをモットーに、やってみてダメだったら戻ることも可能として精神的な後ろ盾を用意して、業務改革が進みやすい風土を作り上げました。

「書かない」はデジタル化以前から存在するコンセプト

中尾(審査員):

この「書かないワンストップ」というコンセプトがどの段階で出てきたのか教えていただきたいです。

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

「書かない」は平成23年頃に職員提案から始まりました。北見市ではワンストップ対応を行っていて、システム導入でさらに広げていきました。システムが導入された平成28年10月から手続き範囲を広げ、取り組みを進めています。

中尾(審査員):

「書かない」というのはデジタル化よりも前の段階でのコンセプトなのですね。

北見市 市民環境部窓口課 吉田:

はい、最初に考えられた「書かない」は、住民と職員の手間を省き、双方が楽になる仕組みでした。

中尾(審査員):

ありがとうございます。