DX事例

株式会社セラクの青果集出荷業務のDX事例|日本DX大賞2023

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2023年6月21日に開催されたSX・GX部門では、社会課題解決のためにSX(サステナビリティトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組む企業や団体から優れた事例を選び、表彰しています。

この記事ではその中から、みどりクラウドらくらく出荷で、青果物を集出荷するJAの業務のDXに成功した株式会社セラクの事例をご紹介します。

株式会社セラクの概要

■法人名:株式会社セラク
■設立:1987年12月
■公式Webサイト:https://www.seraku.co.jp/

農業流通における集出荷業務とは

株式会社セラク 持田氏:農業を持続可能なものにするために、生産と流通という2つの要素が欠かせません。生産ではスマート農業が普及してきていて、労働生産性の向上により収量を増加させる取り組みが盛んに行われています。一方で、流通に関してはまだまだできてない部分がたくさんあります。特に需給の最適化、価値を高めていくサプライチェーンの実現が必要です。野菜の流通のほとんどはJAによる共同販売が担っています。青果流通におけるJAの役割は規格による品質を定義し、荷物を集約することで販売しやすくすること、もう一つは事前に情報収集して取引先と交渉を行ってできるだけ有利な条件で取引をすることです。

野菜を販売先に卸すまでに、荷物を集めて販売先などに出荷する集出荷業務が行なわれています。集出荷業務はまず生産者が目視で数を数えて手書きで伝票を起こしたら、規格や生産者番号を箱に書き、スタンプを押します。この作業を1品目でだいたい10規格分行わないといけません。一見簡単そうですけど、実はすごく負担になる作業をされています。

生産者がJAに荷物を持ち込むと、JAの職員がもう1回数えて確認して、生産者が作った伝票をExcelに打ち込んで、荷物をどの程度販売先に割り当てるかという分荷(ぶんか)の作業をして、その後また手書きで起こした伝票をFAXで1枚ずつ、全農の本部などに送ってます。だいたい同じタイミングで他所もFAXを送ってるので話し中になってしまうし、FAXが止まってしまったらもう一度送り直ししないといけません。しかも複写式になっているので、伝票を書くときには筆圧が必要なんです。

集出荷業務は、JA広島様の広島中央地域本部の場合営農指導員という方が担われていて、毎日2~3時間、前後の移動時間も含めると3~4時間拘束されており、本来の営農(栽培)指導がなかなかできないのが現状です。営農指導員の数は年々減少する一方で、JA広島中央地域本部での取扱量の増加に伴い、営農指導員一人あたりの業務負担が増えてきています。

こういうことが毎日行われていて、非常に大きな負担になっていました。

出荷する箱に個体識別番号を与えることで、集出荷業務を簡単に

株式会社セラク 持田氏:このままでは、集出荷業務を続けていくことが非常に難しくなってしまいます。そこで、農家がスマートフォンを使いながら荷物情報をデジタル化し、野菜を入れる箱に個体識別番号を付与して、自動的に数を数えられるようにしようと考えたのです。

規格の情報が組み込まれた個体識別番号のラベルを箱に貼った後、スマートフォンで撮影します。箱ごとに個体識別番号が異なるので、荷物の中身を自動的に判断して数えてくれるし、自動的に伝票が出来上がるので、伝票をわざわざ手書きで起こす必要がなくなります。こうして作られた伝票がJA側に共有され、荷物が届いたらJAの職員はタブレットを使って数を確認後仕分けを行います。そうすると販売先と販売数量が確定しますので、自動的に伝票を生成してインターネットやFAXで取引先にデータを送っていました。

農業流通のトレーサビリティを実現

株式会社セラク 持田氏:私どもはこの取り組みを今年の3月に実運用開始しました。まず作業時間に関して、生産者は24%、JA側(営農指導員)は85%とそれぞれ時間を削減できました。続いて、集出荷業務作業工程の中で間違いが起きやすいフローを洗い出したリスクポイントに関しては、生産者・営農指導員ともに70%ぐらいリスク減少に成功。正しい情報が入ってくることで、作業される方の負担も大きく減ってきているのが分かります。

ほうれん草と白ネギから始めたこの取り組みを、今年度はさらにナス、ピーマン、ブロッコリーと品目を増やしていき、最終的にはJA全体で取り扱う品目に広げていこうとしています。JA全体がデジタル化することによって、販売先に販売数量をより早く伝えることができます。これが意外と重要で、販売単価が上がる効果が期待できます。30分早くなったことで、ナスの袋単価が実際に11円上がったという実績があります。

野菜を出荷・販売したら、農家に売上金を払う精算業務というのがあります。それまで、売上確定後に伝票同士を目視で突き合わせをしてから農家に支払っていました。この仕組みを導入すると、自動で突合作業を行ってくれるし、これまでよりも早く入金できます。それから、出荷した野菜の売上は、意外と後にならないと分からないんですよね。売上が分かれば、すぐに農家に売上と入金日をお知らせできるようになり、出荷した実績データに基づいた収量の増加と、畑の収支をすぐに可視化することで農家の資金繰りの改善に繋げていけるようになります。

こうした取り組みを進めていく中で、農家、JAさん、取引先である実需にとっても有益かつ新たな農業ビジネスとして組み立てていければなと思ってます。JAに関しては、省力化によって営農指導員が本来の業務に専念できるだけでなく、生産量の拡大が見込まれます。何か問題が起きた時に、段ボール単位で持っている個体識別番号から荷物の状況を追えるようにしたことで、トレーサビリティが実現できました。品質拡大が改善してより有利販売に繋げていけるだろう。データを使って取引先ごとの最適な数量を分析することで、より有利販売を広げていけるだろうなと考えています。トレーサビリティによって流通も品質も安定すれば、実需も非常に大きなメリットを得られると考えております。

青果集出荷業務のDXが秘める、ポテンシャルの高さ

市川(審査員):広島以外のJAさん、もしくは似たようなところでのこの仕組みの再現性とポテンシャルはどのぐらいあるのでしょうか。

株式会社セラク 持田氏:今まさにこの事例を他の地域にも広げようという活動をしているところです。品目によってはJA側で選別をし、数を数えて出荷をしていますが、農家が箱詰めをして出荷する個選共販は、ほうれん草や白ネギ、ナス、ピーマン、キャベツなど多くの品目で行われてます。こうした品目に対しても私たちのこの仕組みは十分応用できると考えております。

市川(審査員):青果の集出荷事業を選んだのは非常に大きなマーケット、有望な市場があると考えてもよろしいでしょうか。

株式会社セラク 持田氏:確かにデータを使いこなせば、収量を上げることはできるかもしれません。しかしそのためにはどうしても経費がかかってきますし、大きな価格変動もあるわけですよね。せっかく頑張ってたくさん作っても農家の方が報われないので、やっぱり収量を上げることとデータを使いこなすことはセットで取り組まなきゃいけないと思ってます。

八子(審査員):QRコードへのデータの登録はどこで誰が行うのか。あとは生産者さんのデータがこの仕組みの中にどんどん溜まってくると思うんですけれども、そのデータの所有権や利用権がどうなっているのか、この仕組みの利用料はどういう形で誰が負担をして運営されていくのか、教えていただければと思います。

株式会社セラク 持田氏:まずQRコードへの情報の登録は、発券時に行っております。ラベルプリンターで出力をする時に生産者名を選んで品目規格を選んで発券をしていただくので、もう発券した時にはその情報が紐づいています。データの所有権に関しては、私どもの契約先であるJAさんの所有物と認識しておりますし、この情報は生産者にも同時に共有されるものですので、生産者とJAさんで活用していっていただきたいと思ってます。コストの話は、1個あたりの荷物に対して課金をすると流通量に対して課金をする形で進めていきたい、それによって初期費用を抑えた形で導入していただこうと思ってます。広島の事例ではJAさんが負担をされて導入いただきましたけれども、他の地域ですと同じようにJAさんが負担される場合もあれば、農家さんの販売金額から控除している部分に依存してるのはありますので、やはり生産者の方にご理解をいただいて費用を負担いただくというのが今後必要になってくるかなと思っています。

進行:視聴者の方からもご質問いただいております。お話の中でありました有利取引、有利販売の顧客側のメリットを教えていただけると嬉しいです。

株式会社セラク 持田氏:有利販売すると販売単価が上がるんじゃないかっていう懸念があるかもしれませんけども、やっぱりニーズがあるところにより速く荷物を配送することが需給の最適化であろうと捉えています。そのためにも早く情報が必要で、それを一つの起点として今回の仕組みが使えると考えています。

市川(審査員):DXとはいかなくても、部分的に似たようなサービスを提供している競合他社はあるのか、あればその差異も教えていただけますでしょうか。

株式会社セラク 持田氏:集出荷のDX、JAと市場のDX化を進めている会社は何社かあります。そこと違うのは、荷物に与えた個体識別番号をスマートフォンのカメラで撮影すると、自動的に荷物の数を数え終えているという点です。実際他社のシステムですと農家さんがスマホを使って数を入力されてるんですけども、その以前の数えるという行為が非常に負担になってますし、間違えやすいポイントなので、それを防げるのが私たちの仕組みだと思ってます。それと副産物的に生まれたトレーサビリティ含め、いろんなメリットがある点が異なるかなと思います。


参考書籍:「改革・改善のための戦略デザイン 農業DX」片平 光彦・中村 恵二・榎木 由紀子 著 2022年 秀和システム