DX事例

【熊本県小国町】小さく始めて大きく育てるこつこつと現場発のDX推進

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。

通常、システムやアプリ開発には「プログラミング」といって、プログラム言語でソースコードを作成する専門的な作業が必要です。この部分を必要としない「ノーコードツール」を使うことで、専門的な知識がなくてもアプリ開発ができます。熊本県小国町では、町長を含めた3人で、予算ゼロから行政のDXを推し進めました。その中心施策になっているのが、
ノーコードツールを使ったさまざまなアプリ開発です。

2022年6月23日に行われた「行政機関部門」より、熊本県小国町の事例をご紹介します。

熊本県小国町(おぐにまち)の概要
■人口:約7,000人
■面積:137 km2(8割以上が山林)
■主な産業:農業・林業・観光業(鍋ヶ滝が有名)
■町長:渡邉誠次
■公式Webサイト:https://www.town.kumamoto-oguni.lg.jp/

Platio(プラティオ)との出会いと検温アプリ

小国町のDX推進体制は3人で、各々が次の役割を担ってスタートしました。

  • 小国町長:町内外とのパイプを作っていく
  • 長谷部(小国町役場政策課 政策課長補佐):アプリ作成
  • 松本(小国町役場総務課 総務課長補佐):法令関係のチェック

ただ、「組織内部の業務効率化を目指すためにDXを推し進めたいけど、DXって何から手をつけたらいいか分からないし、予算もない」っていう悩みがありました。

そんなとき、小国町と関わりがあるIT系企業のアステリア株式会社さんから、アプリ作成
ツールの「Platio(プラティオ)」を紹介していただきました。

ノーコードでアプリが作れるクラウドサービスと聞いたけど、そもそもノーコードってちょっとよく分からない。でも試しに使ってみたところ、プラモデルみたいに一つ一つ組み立てていく感じだったので、これなら自分でもできそうだと気づいたんですね。何かアプリ作ってみたいなと思っていたところにコロナ禍に突入し、Platio(プラティオ)のテンプレートに検温アプリがあったので、試験的に運用してみました。

その際、全職員に検温アプリを使ってもらうことにしましたが、職員からは最初抵抗があったんですよね。「面倒臭い」「なんで自分のスマホを使わないといけないの」という声が上がりました。そこで、自分のスマホを使いたくない人には役場からタブレットを貸し出したり、アプリをなるべく簡単な操作にしたりしました。

その後、検温報告機能とタイムカードをくっつけることを思いつき、検温報告機能を取り込んだ出退勤アプリを作成し、2021(令和3)年春から運用をスタートさせました。
小国町役場のDXはこんな感じで、半ばゴリ押し的に始まったんです。

豪雨災害を機に生まれた被災状況報告アプリ

出退勤アプリの後に、被災状況報告アプリも作りました。

2020(令和2)年7月、熊本県内で豪雨災害が発生しました。小国町でも数多くの被害が出たんですが、どこどこの山が崩壊したとか道が通れないとか家が倒れたとか、町民や職員からひっきりなしに電話などで情報が寄せられました。それを模造紙に書いて対策本部の壁に貼り付けたんですが、情報の更新が追いつかず……。

そこで、Excelに打ち込んだ情報を拡大コピーして貼り付けることにしました。しかし、
これでは電話で聞き取った内容を模造紙に転記するのと変わらないことに気づきました。
災害が起きたとき、県には発生時の正確な緯度経度、被害の状況などを伝えなくてはなりません。そのためには模造紙に書いた情報をファイルに起こす必要がある。これは大変だと。

こうした反省をもとに、報告日時や対象物、写真、位置情報などがクラウド上に送られ、
災害対策本部や避難所でも共有できる、被災状況報告アプリを作成。写真には地図情報や移動経路も紐付けられていますし、町民から聞き取ったことをメモとして残せます。

実際に使ったのは、翌年の8月に再び起きた水害のときでした。職員が現場で写真を撮り送ってきたデータ一覧と地図を、災害対策本部の前にモニターを置いて、みんなで見れるようにしました。災害の初日に町長から「道路の通行止めって非常に重要な情報なんで、こういう機能を追加できないか」という指示を受けて、その日のうちに即改修・追加しました。

また、町内にある複数の避難所から例えば6時とか7時とか、決まった時刻に報告してもらうために、避難者数の報告枠も設けました。外注で頼んでないから、アプリの機能追加や改修もすぐに対応できるんですよね。

被災状況報告アプリは町民の皆さん向けにまだ展開していません。現状でも十分機能してるんですが、消防団と建設業の方のアカウントも追加して、町内の災害発生時に情報共有できるようにすると、より正確で速く多くの情報が得られるのではと思っているところです。
ただ、アカウント数の取得制限がありますので、ここはアステリアさんと現在検討中です。

徐々に浸透し始めるデジタル化

避難所から定期的に人数を報告するという仕組みを活かして作ったのが、投票者数の報告アプリです。各投票所から投票した人数を定期的に報告するもので、従来は電話で実施していました。

最近だと公用車の管理アプリを作りました。4月にアルコール飲酒運転の法律改正があり、公用車使用時のチェック項目が増えたんですよね。それを管理台帳にいちいち手書きで追加しなくてよくなった、楽になったと職員は感じてくれていると思います。

今さまざまなアプリを職員向けに作成・リリースして、業務のデジタル化を図ってるんですが、みんな粛々と使ってくれます。やっぱ慣れていくんですよね、デジタル化に。
すると「こういうアプリもいいんじゃない?」と、職員から提案されるようになりました。

さらに、小国町の森林組合さんは木材の競り市にPlatio(プラティオ)を使ったアプリを
導入したり、小国郷の公立病院さんも、アプリ導入に向けて検討を開始したりと、町役場の外でもデジタル化の動きが活発化しています。

本当に「デジタル化は不要」なのか?

そもそも本当にデジタル化が必要なのか。1回だけとかたまにしか実施しない業務、
それこそ選挙に至っては4年に1回しかないので、デジタル化ってどうなんだろう、このままがいいのではと思う人もいるでしょう。アナログからデジタルに、既存の方法から新しい方法に移行するとき、業務負荷が一時的に発生するので、職員もそうでしたがそこをみんな面倒に感じます。

でも長い目で見たときに、そういった業務でも効率化すると楽になる。だからこそ、複数の地点から人数を報告するみたいな共通点を見つけてカテゴリーにして、アプリを作ってデジタル化していきたい。行政内部の業務効率化を図っていけば、住民サービスの向上につながると信じています。

「デジタル化するんだったら、窓口にロボットを置けばいいじゃん」っていう人も出てくるでしょう。住民の方は、私たち職員に親身になって話を聞いてほしいと思って役場にお越しになります。もちろん対応したいんですけど、私たち職員に時間と心の余裕がないと正直無理なので、行政内部の効率化は絶対必要だと思っています。

アステリア株式会社が小国町と関わる、社会的意義

アステリアさんと小国町は、2015年に「いずれかの自治体に、環境保全や森林保全で何らかの協力をしたい」というお話があって以来のお付き合いです。もともとアステリアさんは、小国町と何かしら縁があるわけではありませんでした。地域貢献、環境保全を会社の方針として非常に重視されているという背景があり、林業が盛んな小国町に共鳴され、ふるさと納税の仕組み以前からご寄付をいただいていました。Platio(プラティオ)をご紹介いただいたのも、「当社が持ってるノウハウや知見を、何らかの形で町の方に活かしたい」
という、アステリアさんの想いからでした。

アプリ作成を小国町とともに手掛けていること、企業版ふるさと納税の取り組みなどが評価され、2022(令和4)年1月にアステリアさんは大臣表彰を受けられました。

まとめ

小国町の場合、DXは予算ゼロで初期投資もなく、3人(現在では4人)で小さくスタートしました。そうするしかなかったのもあるんですけど、DX推進には小さく始めて大きく育てること、こつこつとやっていくことが大切です。

人間は「今までのやり方を何も変えないのが一番楽だ」って思いがちですし、短期的に見れば確かにそれでもいいかもしれません。しかし、長い目で行政の仕事を見たときに、少しずつでも変えていくこと。その結果を積み重ねていけば、住民サービスの向上につながると思っています。