DX事例

【株式会社フジワラテクノアート】「微生物インダストリーの共創」に向けて「フルオーダーメイドの高度化」と「新たな価値創造」を推進するためのDX

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。2022年6月21日に行われた「中小規模法人部門」より、株式会社フジワラテクノアートの事例をご紹介します。

株式会社フジワラテクノアートは、岡山市に本社を置き、日本酒、焼酎、味噌、醤油などの醸造食品を製造するための「醸造機械メーカー」です。醸造において品質・生産性に最も
大きく影響を与える麹造りの自動化への道を1970年代から切り拓き、事業を拡大させてきました。主要製品である、麹造りを自動化した装置は、国内トップシェアを占めています。

そのバックグラウンドを活かしながらも、新たな価値を創造するためのDXの取り組みを紹介します。

株式会社フジワラテクノアートの概要

■法人名:株式会社フジワラテクノアート
■事業内容:醸造機械・食品機械・バイオ関連機器の開発、設計、製造、据付、
販売およびプラントエンジニアリング
■設立:1933年6月15日
■公式Webサイト:https://www.fujiwara-jp.com/

微生物インダストリーとは?

当社は、日本酒、焼酎、味噌、醤油などの醸造食品を製造するための機械プラントメーカーで、従業員数149名、今年で89年目を迎えます。

醸造において品質や生産性に最も大きく影響を与える麹造りの自動化への道を1970年代から切り拓き、事業を拡大してまいりました。

主要製品である、麹造りを自動化した装置は、国内トップシェアを占めています。
国内大手醸造食品メーカーをはじめ1500社と取引を展開、時代とともに日本の醸造生産技術が海外でも注目されるようになり、27カ国に納入実績があります。

​​当社のものづくりは完全受注生産で、お客様ごとに異なる様々なニーズを実現する設備を
提供しています。お客様の案件ごとに都度柔軟に技術進化を取り入れて採用してきたことで技術力の向上につながったと考え、それこそが当社の提供価値の一つです。

また、安定稼働や、トラブル時の対応など設備導入後のアフターフォロープロセスに踏み
込んだビジネス展開を早い時期から進めており、お客様第一を実現する現場対応力も当社の提供価値だと言えます。 

お客様の案件ごとに都度柔軟に技術進化を取り入れることで、様々な技術が蓄積されました。微生物と機械における様々な要素技術と基盤技術で成り立っていることが当社の特徴です。

2050年ビジョン「心豊かな循環型社会への貢献」

2000年代に入りトップシェア企業になりましたが、シェアの高さに満足し「技術進化の
努力を怠ってしまうのでは?」と逆に危機感を抱くようになりました。

さらにイノベーションに果敢に挑戦する会社を目指していくには、長期ビジョンが必要だと考え、開発の具体的な方向性を指し示した「2050年ビジョン」を策定しました。

人口問題、環境問題、食糧問題などの社会問題が深刻化していく2050年の未来に向けて、
技術革新に全力で取り組むという、新しい挑戦です。

ビジョンの目的は「心豊かな循環型社会への貢献」であり、2050年の具体的企業イメージは、醸造を原点に世界で「微生物インダストリー」を共創する企業です。

「微生物インダストリー」とは、微生物の潜在能力を引き出して高度に応用利用する産業分野のことで、主力の醸造の他にも、食料、飼料、エネルギー、バイオ素材など多様なパートナーとともに世界が直面する数多くの課題克服に貢献していきたいと考えています。

長期ビジョンを掲げることで見えてきた課題

長期ビジョンを掲げることで、様々な課題が見えてきました。

「微生物インダストリー」を実現しようと思うと、醸造業界のみならず、社会的課題まで
含めたますます多様な要望に応えていかなければ なりません。

そのためには今までのように個人の経験や現場対応力に依存した体質から脱却し、仕組みの構築、デジタル活用を進めていく必要があることに気づきました。

90年近く続く会社の体質を変えていくのは容易なことではなく、会社全体のビジョン実現のみならず、各部署の「あるべき姿」にまで落とし込む必要があると考えました。 

当社の提供価値を「喜びと感動の価値」と表現し、営業部門は「喜びと感動の価値を提案する」、設計部門は「提供価値をデザインする」など、各部門のあるべき姿を明確にしていきました 。現在は社員一人ひとりの「5か年ビジョン」を作成し、個人にまで落とし込んでいます。

「あるべき姿」に基づいて各部門を有機的に連携させながら、当社の提供価値の一つである「フルオーダーメイドのものづくり」をさらに高度化していくための仕組みづくり、
そして、「新たな価値を創造する開発体制」の仕組みを構築していくことが、ビジョン実現のためには欠かせません。

その実現のために、当社のDX推進の取り組みが始まりました。

DX推進の取り組み

DX推進のため、2019年に全社部門横断の委員会を立ち上げました。各部門からメンバーを募り、最初は私(副社長)が責任者となりトップダウンで進めました。自分たちの業務のことは自分たちが一番よく分かっているので、内製でのDXにこだわりました。 

この委員会で「あるべき姿」に向けた全社最適、全社一気通貫の業務フローや、仕組みの
検討、データ基盤の整備や、システム選定・導入、ルール策定、定着、活用、セキュリティ対策まで、この委員会メンバーで行いました。

役員も必ず毎月の定例会に参加し、常にビジョン に立ち返りながら、スピーディーに意思決定を行う努力をしました。 

2018年の当社のシステム状況は当社用に作り込まれた販売管理システムと、営業活動記録システムのみで、情報伝達の手段はほとんど「紙」でした。また、アクセス権が細かく設定できず、セキュリティ確保のためにデータ活用が進まないなど、さまざまな課題を抱えてい ました。

そのためまず現状業務を畳2畳分にもなる大判の紙に図式化し、社員の皆に、現場で抱えている課題を付箋に書き出してもらいました。すると約100項目の課題が洗い出されました。これらを分類整理し、開発ビジョンや、フルオーダーメイド高度化に向けたDXという観点から、優先づけを行いました。 

その後、全社最適の観点から、システム全体構想を立案し、実行していきました。

当社はベテラン社員が多く、決してデジタルリテラシーの高い状態ではなかったので、
最初はコミュニケーションツールを導入し、ITの便利さ・効果を全社に理解してもらうようにしました。

その後、基幹システムとして生産管理システムの導入に至りましたが、あらかじめ大枠で
みんなでイメージを持ちながら進めたことは、良かった点の一つだと思います。

2021年には、詳細なデジタル化計画を立てて実行しました。

3年で21個のITツール・システムを導入

新システムの導入検討の流れとして、「生産管理システム」を例にあげます。

従前は当社用に作り込まれた管理システムを使用していましたが、業務をシステムに合わせて改善する為、パッケージを選定することにしました。 目的・要件がITベンダーとずれないよう、提案依頼書を5社に提出して、期間を集中して各社より提案いただき委員会で比較検討を行いました。

「生産管理システム」選定の際、重視した項目は主にこの3つです 。

・必要十分な機能とサポート
・検討期間の短さ
・データ活用の自由度

システム決定プロセスに委員会メンバーが全員参加し、納得しての導入なので製品決定後の構築に向けた動きが円滑に進みました。

システム立ち上げ後も、浸透に向けて様々な工夫を行いました。社内説明会を何度も開催し目的を繰り返し丁寧に伝えました。 

委員会メンバーも、自分たちが選んだシステムなので、自分ごととして各部内で進んでサポートしてくれました。ベテランの方には何度同じことを聞かれても面倒臭がらず優しく対応してくれました 。

導入したシステムごとにPDCAサイクルを徹底することが大切だと考えます。
その結果3年という短期間で、21のITツールやシステムを導入、活用を通じて成果を実感しています。 

専門部署を置かず、日々の業務をこなしながら全社で推進できたことは大きな成果だと考えています 。セキュリティ対策も「ツール」と「人の意識」の両面で並行して推進していきました 。

しかし、システム導入はあくまで手段にすぎない、と認識しています。現在も日々改善しながら目的達成に向けて全社でさらなる活用に向けて取り組んでいます。

デジタル人材の増加

ツール・システムの導入で、デジタル人材も大幅に育成されました 。
当初はトップダウンでスタートした委員会でしたが、各システムが浸透するうちに徐々にデジタルリテラシーが高まり、各現場から「協力会社各社との受発注にこのシステムを導入したい」「在庫管理にRFIDを活用したい」など ボトムアップでアイデアが上がってくるようになりました。 

現在は委員会メンバー以外からもアイディアを募集し、誰もがこの委員会に参加できる開かれたものとなっています。 

営業、設計、生産管理、調達、在庫管理、検査などあらゆる工程で工数や紙の削減、
見える化、データ活用などの成果が出てきて、各部の「あるべき姿」に向けて進化していきました。 

また、社内のみならず、協力会社各社にオンライン受発注システムを導入することでサプライ チェーン全体でDXに取り組むきっかけもできました。

人材スキルも向上しました。2018年にはデジタル人材は一人しかいませんでしたが、
現在では ITストラテジスト、ネットワークスペシャリスト、データサイエンティストなど
デジタル人材が大幅に増えました。RPAのシナリオが組める社員も増え、雑務や定型業務が削減されることで、挑戦の幅が広がっています。

人材スキル向上の一例を紹介します。

一番上の女性はもともとネットワーク技術の知識はありましたが、経営企画に身を置き、
委員会事務局として実戦を積むことで経営とITがつながり、子育てしながら難関のITストラテジストと情報処理安全確保支援士の資格を自発的に取得、現在はDX推進委員長として活躍 しています。

2番目の女性は、もともとは IT・DXなど未知の世界にいましたが複数のシステムやRPAを
使いこなし、現在は資格取得に向けて、そしてRPAの社内インストラクターとして人材を
育成しています。

3番目の開発の男性は40代後半ですが、Pythonを一から勉強し、トライアンドエラーを
繰り返しながら麹造りの支援システムを自社開発してくれました。デジタル技術で既存事業の付加価値をさらに高めていく取り組みです。その後、さらに体系的に学びたいとデータサイエンティスト検定などさまざまな資格 取得に向けて勉強しており、若手社員のデータサイエンティスト育成も行っています。 

フルオーダーメイドの高度化と、新たな価値創造へ

DX推進で、新たな価値創造に向けて果敢にイノベーションに挑戦するための経営基盤が構築されました。

当社の競争力・提供価値をさらに強固なものにしていくための開発、そして、食糧問題や
環境問題の解決に向けた新事業モデル挑戦のための開発が進んでいます。

今後もさらに、経営基盤であるフルオーダーメイドの高度化と、新たな価値を創造する開発体制を強固なものに進化させながら、イノベーションを加速させ、多様なパートナーと共に世界が直面する数多くの課題克服に、そして心豊かな循環型社会のために貢献していきたいと考えています。