DX事例

マイナンバーカードを活用したふるさと納税の煩雑な事務処理の効率化|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月23日に行われた行政機関・公的機関部門 決勝大会では、自治体などの行政機関や公的機関が、デジタル技術を活用し住民サービス向上や新しい価値創造、顧客体験の創造に取り組んだプロジェクト事例が発表されました。

この記事では、マイナンバーカードの利点を徹底活用することで、ふるさと納税後の煩雑な事務処理をデジタル化した都城市の事例をご紹介します。

都城市の2つの強み 「マイナンバーカード交付率」と「ふるさと納税額」

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

都城市は宮崎県の一部で、人口は約16万人、宮崎県と鹿児島県の県境に位置しています。特に注目すべきは、都城市が牛、豚、鶏の生産で日本一であるという点です。また、焼酎の「黒霧島」を製造している都城市の酒造所の売上が日本一であることも特筆すべき事項です。そのため、我々はこの「肉と焼酎」をコンセプトにふるさと納税の推進を進めています。

次に、都城市の2つの強みを説明します。

一つ目は、マイナンバーカードの交付率です。令和5年5月末時点で交付率は96%に達しました。人口規模が小さい自治体が有利とされる中で、都城市が人口16万人で96%を超えているというのは驚異的な数字であると自負しています。我々は、国が本格的に取り組む前から、マイナンバーカード制度の普及・促進に取り組んできました。民間企業のオンライン化が進行する中で、マイナンバーカードがオンラインでの本人確認に有効なインフラとなると考え、この推進活動を続けてきました。

二つ目の強みは、先ほども触れたふるさと納税です。令和3年度の納税額は146億円に達し、過去には3度の全国一位を獲得しました。

今回は、これら2つの「日本一」を組み合わせたソリューションをご紹介したいと思います。

ふるさと納税後の煩雑な事務作業を効率化

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

ソリューション開発の背景にある課題、それは、ふるさと納税のワンストップ特例申請の増加への対応です。

ワンストップ特例申請とは、寄付後に申告特例申請書を寄付先の自治体に郵送し、確定申告を行わずに寄付金控除が受けられるシステムのことです。ふるさと納税の広がりと共に、利用者が増加しています。

寄付者は申請書類の記入や本人確認書類のコピーといった作業を行わなければならず、これらの作業をコンビニエンスストアで行う人も多いです。コンビニエンスストアのスタッフからは、マイナンバーカードの忘れ物が多いという意見をよく聞きます。さらに、切手の貼付やポストへの投函といった作業も必要でした。

一方、自治体では、開封作業、入力作業、本人確認書類の確認、大量の書類の保管など、時間と手間がかかるアナログな対応を強いられてきました。さらに、ふるさと納税の繁忙期は年末から年始にかけてとなります。つまり、職員の年末年始休暇と重なる時期に大量の作業と場所が必要となり、これが非効率的であるという問題も生じていました。

ワンストップ特例のデジタル化 公的個人認証アプリ「IAM」を開発

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

このような課題に対処するため、我々はシフトプラス株式会社をはじめとする民間企業と連携し、ワンストップ特例のデジタル化を実現する公的個人認証アプリ「IAM」を共同開発しました。もしかすると、一部の方はすでにこのアプリを利用した経験があるかもしれません。

このアプリを利用したワンストップ特例申請の流れは次の通りです。まず、ポータルサイトから返礼品を選択し、「ワンストップ特例申請を利用する」とチェックして、寄付を申し込みます。我々が送付するQRコード付きのワンストップ特例申請書が、その申請の起点となります。

しかし、この方法ではまだ書類発行プロセスが介在します。そのため、現在は寄付申請後に自治体からの書類の送付を待たずに、サイト上から「IAM」を利用したワンストップ特例申請が可能である、としています。我々の目指す方向性は、この手続きをさらに拡大し、完全にデジタル化、ペーパーレス化を達成することです。

マイナンバーカードを読み取り可能なスマートフォンは、非常に多く存在します。このスマートフォンをご用意いただき、アプリで個人に割り当てられたQRコードを読み取り、内容を確認します。その後、4桁の減免事項入力補助という機能と、英数字6桁以上の署名用電子証明書を入力して、マイナンバーカードをかざします。

氏名等を含めて手入力が一切発生しないように、利用者に分かりやすい設計になっています。

アプリ導入で作業コストと負荷を大きく軽減

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

​​アプリの導入効果について説明します。まず、先述した課題は大幅に解消されています。本人確認書類のコピー、切手貼り付け、投函などの一連の作業が全く不要になりました。

そして、自治体にとってもワンストップ特例申請に伴う大量の開封やチェック作業など、作業コストと負荷が大きく軽減されました。 

価値創造のためのデジタル活用のポイント

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

デジタル活用による価値創造のポイントについて説明します。

まず、個々の申請を識別するために、IDなどを手動で入力する代わりに、個々のQRコードを送付しています。これにより、寄付者が手間をかけて自分のIDを入力する必要がなくなり、同時に間違いの可能性も減ります。

さらに、カードの情報入力補助機能を活用し、手入力は一切必要なく、2回の暗証番号の入力だけで済むようになりました。

そして何よりも重要なのは、高いセキュリティを保ちつつ、正確な本人確認が可能となるマイナンバーカードの署名用電子証明書を活用している点です。

プロジェクト実施体制と人材組織マネジメント

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

このプロジェクトの実施体制と人材組織マネジメントについてお話します。今回、我々は官民共創の形で、課題の共有からソリューションの開発までを一連の協議を通じて進めてきました。具体的には、市役所、システム会社、通信会社などが連携し、さらに国とも協力しながらこのプロジェクトを進めてきました。市役所内部では、市長をCDOとして、企画財政部門と連携した「カルテット推進体制」を活用しています。内部の連携と共に、官民間の共創を進める体制が整っています。

デジタルは目的ではなく手段

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

重要なポイントなので、改めて強調させていただきたいのですが、デジタルは目的ではなく手段です。これはよく唱えられている大原則ではあるものの、我々が忘れがちな点です。実際、自治体のデジタル施策は住民に利用されていない現状も存在します。それ故に、手段としてデジタルを捉えることが大切で、多くの人がそれを利用し、その恩恵を受けることが最も重要だと考えています。そして、それが施策の評価に繋がると考えています。

自治体アプリとしては圧倒的なダウンロード数を記録

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

ソリューション開発の影響についてお伝えします。

自治体アプリとしては圧倒的なダウンロード数を記録しており、半年で130万を超えるダウンロードを達成しました。Facebookが100万ユーザー到達に10ヶ月、Twitterが2年、Netflixが3年半かかったのに対し、特に利用ハードルが高いとされるマイナンバーカードが必要な当アプリのダウンロード状況は、異次元と言ってもいいほどです。

都城市では、目標利用率の1.5倍以上を記録し、特に今年になってからは、本年分で50%を超える利用率を誇っています。現在携帯のオンライン機種変更の割合は約30%となっていますが、その数字を超えることができたのは我々にとって大きな自信に繋がっています。

そして、利用者からも大変ありがたい声が多く寄せられています。例えば、「ふるさと納税のワンストップを『IAM』でやってみたら感動した」、「役所系にしてはかなり満足度が高い」、「コピーと投函が面倒なワンストップ特例が1枚1分で簡単に解決」、「『IAM』導入自治体に寄付を集中しよう」、「メディアでマイナンバー推進が注目されていますが、これはあると良いですよ」など、非常にありがたい反響を得ています。

このプロジェクトの意義は、官民共創という形で、課題の設定段階から国と協力しつつ、企業との競争を進めてきたことにあります。その結果、課題に対して利用者も自治体もメリットを享受できるWin-WinのDXが実現できています。しばしば自治体の施策は自治体職員が困難を伴う場合もありますが、今回の取り組みは双方にメリットがあるものとなりました。

そして、マイナンバーカードの有効活用が普及促進につながっている好例だと考えています。マイナンバーカードの利活用は国家課題となっており、普及のフェーズは一段落し、次はカードを持っている人々にどのように価値を提供するかというフェーズに入っていると思います。

その中で、マイナンバーカードの2つのコア機能を活用し、カードの潜在能力を引き出した好例となっています。これはカード普及促進にも寄与しています。実際、「IAM」を使うためにマイナンバーカードを取得した人々も多くいらっしゃいます。マイナンバーカードのインシデントなどにより、国民に不安を与える現状もありますが、本来の目的であるオンライン上での本人確認に関しては、非常に正確で安心・安全な仕組みであると言えます。それを活用したソリューションが今回の取り組みの大きな魅力であると考えています。

全国の250以上の自治体に横展開

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

このソリューションは、全国の250以上の自治体に展開されています。まだ1年しか経っていませんが、開発段階から複数自治体での利用を想定しており、都城市独自の機能は含まれていません。その代わりに、汎用的な機能を提供しているため、1年も経たないうちに250を超える自治体での展開が可能となり、非常に大きな成果を上げることができました。

ふるさと納税はほぼ全ての自治体で取り組まれている共通の課題ですので、さらなる展開の可能性を秘めていると考えています。また、現在のダウンロード数は130万を超えており、民間のサービスを含めて考えてみても、大ヒットに匹敵するレベルの利用がされていると自負しています。これは、デジタル活用の具体例として素晴らしい成果を示しています。

市民の課題を起点に94のデジタル事業を立案

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

最後に、私たちはマイナンバーカードを国民や市民から信頼される存在に育て上げるために、本来の機能と強みを活用したいと考えています。マイナンバーカードは、デジタル化を含めて、市民や国民のためになる課題から生まれたものです。この3年間で、私たちは94の新規デジタル関連事業を立案しており、それらはすべて課題に基づいています。また、官民共創というアプローチも大いに活用しています。先ほどのセッションでも、企業版ふるさと納税を活用した仕組みについて話しがありましたが、それは私たちの新規事業の立案の中で活用しているものです。

ぜひ、このセッションを聞いている企業の皆さんも、一緒に取り組むことができればと考えています。本市との共創を検討いただけると嬉しいです。

アプリ導入でふるさと納税の成果も伸びた

中尾(審査員):

導入自治体数、アプリダウンロード数、いずれも素晴らしい成果だと思います。では、都城のふるさと納税は「IAM」を導入していなかった時と比較して、どのような変化があったのでしょうか?

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

まだ今年の結果は、公式に総務省から発表されていない部分もありますが、確実に成果が伸びています。

ふるさと納税対応職員の事務作業効率化

平野(審査員):

最初の課題であった自治体の年末年始の煩雑な作業量は、どの程度削減されたのでしょうか?

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

まだ1年を通して使用していない部分もあり、全体の寄付額も若干増加しているという要素もあるため、単純に前年度と比較することができない部分があります。ただ、昨年度ではほぼ前の年と同じ体制で対応し、ふるさと納税の件数が伸びていることが確認できました。既存の人員と手狭なスペースで管理を行いながら、かなりの効果が現れていると考えています。特に今年は1年間を通じて利用される予定ですので、我々側の作業量に対する効果もしっかりと示せるようにしたいと考えています。

DX施策のファーストペンギンとなっていくマインド

谷畑(審査員):

開発段階から汎用システムとして取り組んできた点や、デジタルと財政、そして企画が一体となって進められたとおっしゃっていました。

マイナンバーカードに対する世間一般の反対意見もある中で、しっかりと作り上げられたことは素晴らしいと思います。

ただ、一つ気になったのは、都城市が独自の機能を一切入れずに汎用システムとして開発された点です。

この開発には都城市民の税金が使われているわけですが、そういった点から言うと、都城市ではなぜ、市民の税金で国民全体を支えるようなシステムを作っていくというマインドが生み出されたのでしょうか?

普通であれば、議会や住民から「なぜそんな他の自治体に広げなければならないのか」というような意見が出ると思いますが、それを抑えつつ汎用システムとして打ち出していくマインドを、市長を中心に各部署が持っていたのだろうと思います。

その合意形成や議会との理解を求める過程での苦労などは、ありましたか?それを教えてください。

都城市 総合政策部デジタル統括課 佐藤:

例えば、避難所への入所の仕組みや避難物資の管理ができるシステムなど、我々が開発するものは他の自治体でも横展開できるように、開発段階から他の自治体の担当者の意見を取り入れながら作っています。

このアプローチの意義は、単独でシステムを組み上げて他の自治体に展開できない場合、システムを作る会社として単独でマネタイズしなければならないという課題が生じることです。一方で、横展開が可能な仕組みであれば、多くの自治体を想定しながらマネタイズをすることが可能になります。

そのため、我々としては、我々の財政にも寄与しながら「ファーストユーザー」として自分たちがやりたいことをシステムに込めることができ、さらに市職員の意識変革や変革に繋がる施策にも影響を与えると考えています。市長を含め、庁内の合意形成の中でこの取り組みを進めています。

谷畑(審査員):

確かに、財政資源をどこに当てていくのかということは非常に重要です。

自治体が行っている様々な政策は、自治体だけでは完結しないことが多いため、単独の自治体が最初に「ファーストペンギン」として飛び込んでも、その後、他の自治体への展開が非常に重要になってきます。

実は、そういった点こそ国がしっかりと支えていかなければならないということだと思いますし、国が本気でDXを進めるならば、そのような自治体こそが支えとなっていかなければなりませんね。ありがとうございました。