DX事例

【株式会社つばさ公益社】お葬式DXで実現する生産性向上と誰も取り残さないオペレーション開発

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。2022年6月21日に行われた「中小規模法人部門」より、株式会社つばさ公益社の事例をご紹介します。

つばさ公益社ではDXにより、「お葬式体験」のDX、そして働き方改革を実現しています。「葬儀会社のDX」とは、一体どのような取り組みなのでしょうか?サービス開発の背景や、葬祭業に従事するスタッフにもたらされた大きな変化をご紹介します。

株式会社つばさ公益社の概要

■法人名:株式会社つばさ公益社
■事業内容:サービス業(葬祭業)
■設立:2017年4月
■公式Webサイト:https://so-gi.com/

デジタルで生産性を上げることで事業を成立させ、短期間で成長

つばさ公益社では「弔い」をアップデートして、安心して旅立てる社会を目指しています。2017年に、お金の痛みのない家族葬専門の葬儀場をオープンし、「カバンひとつで一泊二日のお葬式」というコンセプトでサービスを開始しました。

お葬式費用は全国平均156万ほどだと言われていますが、当社では「6万8千円」や「14万8千円」といった金額で、「亡くなった」という状況から、2日間のご安置費用、火葬、葬儀
までをセットで提供しています。

お葬式は遠方に離れていると利用できない特徴がありますが、離れている人にも安心を届けられるようにと、通信販売のお葬式キット「DIY葬」も開発し、25,800円で提供しています。組み立て式の棺が届き、他に布団や枕、骨壷、骨箱、風呂敷と、法律に沿ってお葬式をするためのガイドブックをセットにしてお届けしています。

また、従来のお葬式では多額の現金を直後に一括払いという形でしたが、先程の25,000円や6万円のお葬式などを24回までの分割払いに対応し、月々数千円の負担でご利用いただけます。

事前に葬儀費用を備えておきたい方に向けた提案もあります。月々450円お支払いいただければ、もしものときには30万円受け取れる葬儀保険もご用意しており、非対面・非接触で
スマホ1つあれば加入できます。

このように当社では、「お葬式は不透明で高い」という状況を改善していきたいという思いで事業展開をしています。また、多くの方が「お墓」の問題で悩みを抱えている現状もあります。その問題とは、大きく3つに集約されます。

①一度作ると、永久に後継者が必要
②容易に移動できない
③新規で買い求める際、今の法律では買い切ることができない

そして、お墓購入費用は全国平均174万と高額である点も挙げられます。
そこで我々は樹木葬や海洋散骨などの自然葬という、そもそもお墓を作らない提案を5万円ほどから行っています。

また全国で初めて「ゼロ葬」というものを社会実装しました。火葬後の遺骨を持ち帰らない、もしくは一部だけを持ち帰ることを「0円」で利用できます。

「3万円のお葬式」「5万円のお墓」「0円のお墓」とご紹介しましたが、「これで事業が
成立するんだろうか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。我々はデジタルの力を活用し、生産性を上げることで事業の成立はもとより、短期間での事業成長を実現しています。

「お葬式体験」のDX

当社では2017年12月の開業から3年9ヶ月の期間で実店舗を5店舗まで拡大しました。

当社のデジタルトランスフォーメーションの取り組みについて、

①お葬式体験
②働き方改革

この2つの側面からご紹介します。

お葬式の業界はコロナ禍で大きな変化に見舞われました。しかし、それをきっかけに当社ではDXが大きく前進しました。対面で販売されてきた霊園を、非対面・非接触のオンライン
霊園ツアーから販売まで完結できるようにしました。

また自宅でのお葬式が増えたことから「DIY葬」を支援するオンラインストアを整備し、
非対面販売をより推し進めました。

ホールへお越しになる方の安全性担保のために、「ホールが混み合っているかどうか?」を来館前に知ることが出来る「三密回避メーター」を導入し、加えて店舗の無人化にも踏み切りました。駐車場への来場をセンサーで感知し、お待たせしないプッシュ型ビデオ配信で
遠隔接客ができる仕組みを導入、高齢者の方にも優しいユーザー体験を提供しています。

5店舗あれば5チーム運営するのが一般的ですが、クラウド型遠隔接客により、1チームで
5店舗の接客を可能にし、カメラや、センサー、スイッチボットを同時に活用し、遅延のない接客を行っています。この遠隔接客の実現により、副次的に社員の働く場所も自由化されました。

コロナ禍の緊急事態宣言では長野県外(当社ホール所在地)からのお葬式参加ができなくなったため「お葬式ライブ」の提供も開始しました。ライブ配信のほか、離れた場所から参加する人向けに香典やお花、電報を手配できる「オンライン弔問」を提供しています。

「その日」「その場所」「その時間」から解放されて、遅れてお葬式にアクセスすることもできるようになり「弔い」の体験が大きく変化しました。このようなお葬式体験は、すべてのお葬式利用者に向けて2021年から無料開放しています。

「オンライン弔問」機能の無料開放の背景には、自社開発アプリがあります。

当社内では以前より、オペレーションにおいて顧客情報を何度も転記している、という課題を抱えていました。「受注書」「FAX発注書」「日程表」「カレンダー」「火葬場予約」
など毎回何度も転記が必要で、各拠点ごとでバラバラにたくさんの書類があることも管理上の問題でした。

そこで、課題解決のために自社アプリの開発を行いました。

顧客の基礎情報をアプリに入力すると、自動でLINEに通知が届きます。火葬場予約に必要な情報だけが抜き出されて送られ、火葬予約を簡単にできます。同時にGoogleカレンダーに葬儀、告別、火葬、通夜、安置日程が自動登録されます。

アプリは社内の基幹システムとも連携しており、アプリに入力した顧客情報は基幹システムに自動転記されます。そこから街の酒屋や花屋、料理屋にFAX送信やメール発注ができます。葬儀の日程表(親族向け)もアプリとGoogle Workspaceの連携で自動作成できます。その際に「オンライン弔問」情報(アクセス用QRコード)も自動生成され、遠方に離れている親族はそのQRコードから容易にアクセスできます。

自社アプリ開発により、「オンライン弔問」が全自動化されたことで、サービス提供の無料開放につながりました。拠点ごとに大量発生する書類や、その転記作業からも解放され、
社内の利便性も大きく向上しました。

デジタルで変わった社内の働き方

葬儀業界が持つ構造的課題は、3つあります。

①24時間365日対応
②シニアビジネスのため幅広い年代が働いており、デジタル化の断絶が起きやすい職場環境③企業成長とともに拠点数が増え、スタッフ同士が離れて働くことが常態化

この3つの課題を、オペレーションのスマホ集約化で乗り越えました。

シニアスタッフが業務において直面していた壁とは「キーボードとマウス操作」です。
必要な情報にアクセスできず、スタッフ間で情報格差が生まれていました。そこでこれを
取り払い、スマホ1つで情報にアクセス、受発注、顧客対応まで出来るようにしました。

例えば「通販注文が来た」といった社内連絡の際にも、極力入力を減らせるよう、専用の
スタンプを開発し、連絡をスタンプを押すだけの簡単オペレーションにしました。

基幹システムに関しても、スマホだけで顧客管理、発注管理ができるようにし、出退勤やPOSレジ、見積もり、請求、労務も、すべてスマホ完結です。

また、当社ではスタッフがシフトで働くため日報作成が欠かせない業務のひとつですが、
日報にはNotionや、Zoho、Slackなど外部ツールを駆使し、いずれもスマホ完結でおこなえるようになっています。データはクラウド管理とし、社内に情報を置かない体制を取っています。

また、「電話」は葬儀社にとっては中心業務です。クラウドPBX(クラウド電話)を導入、CTI(クラウド連携)を活用しています。スマホ片手に「どこから掛かってきたのか」
「何度目のコールか」「以前はどんな問い合わせ内容だったか」などを確認しながら対応できるようになり、対応品質が向上しました。

スマホ1台で店舗管理ができるようになったことで、かつてと比べて管理コストを10分の1以下に低減することができ、クラウド活用で、固定費を43%削減できました。店舗拡大の
うえで重要な人材育成期間も75%削減できました。

葬祭業では稀な働き方改革を実現

当社ではデジタルの力で「お葬式体験」を変え、働き方を変えてきました。DXにより、
働く場所も自由になりました。創業間もない小規模企業ではありますが、クラウド上に
仮想本社も構築しました。

現在では週休3日が定着、有給消化率100%、全体の30%以上がテレワークなど自由出勤化し、葬祭業においてはかなり稀なケースを実現しています。

信州ベンチャーサミット、信州アクセラレーションプログラムで最優秀グランプリをいただき2冠を達成、全国中小企業クラウド実践大賞では日本商工会議所会頭賞を受賞しました。

その後も経済産業省関東経済産業局や、東京都などからの支援もいただきながら、事業成長に努めています。これからも「弔い」をアップデートして、安心して旅立てる社会づくりに取り組んでまいります。