DX事例

【株式会社PlantStream】PlantStream®︎ 〜プラント設計の世界的課題をDXで解決〜

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。2022年6月21日に行われた「中小規模法人部門」より、株式会社PlantStreamの事例をご紹介します。

株式会社PlantStreamは大手コントラクターである千代田化工建設株式会社とスタートアップ企業・株式会社Arentによる合弁事業であり、業務負荷の高い「プラント設計」業界のDXに挑んでいます。

取り組みの背景や、成果についてご紹介します。

株式会社PlantStreamの概要

■法人名:株式会社PlantStream
■事業内容:空間自動設計システム「PlantStream」の開発、販売
■設立:2020年7月1日
■公式Webサイト:https://plantstream3d.com/jp/

プラント設計のデジタル化で大企業のビジネスモデルを変革

「プラント」や「配管」と聞いて、何かイメージが湧くでしょうか?石油プラントや化学プラントには、高い塔や煙突、タンク、無数の配管があり、外から見ると巨大で複雑な鉄の塊です。例えば、京浜工業地帯や四日市にあるコンビナートを思い浮かべてみてください。

この写真のような製油所には中東からタンカーで原油が輸入されてきます。灯油・ガソリン等の製品になるまでさまざまな機器を通って化学反応を行っています。その過程で「液体」「気体」「粉体」等の流体が配管の中を流れます。人間に例えれば「臓器=機器」そして「臓器をつなぐ無数の血管=配管」といったイメージです。地味かもしれませんが、プラントの配管とは決して無くてはならない存在です。

1つのプラントで数千本の配管が必要であり、コンビナートでは数万〜数十万本にも及びます。「タンクからポンプをつなぐ」等、流体の流れに沿ってスタートとゴールが決まっています。設計の制約はあるものの、3次元でルートするので無限のパターンが生まれます。
その配管が数千本、互いにぶつかったりしないように調整しながら設計を進めるのが「配管設計」です。

配管設計は、プラント設計において最も時間がかかります。プラント業界では「配管設計を制するものがプロジェクト遂行を制す」とも言われています。そんなニッチな世界のデジタル化を進めた結果、大企業のビジネスモデルを変革させたDX事例をご紹介します。

人海戦術、多忙を極めるプラント設計

配管設計業務は非常に激務で、「残業に次ぐ残業」が常態化しています。

(当社CEOは)設立前、大手コントラクターである千代田化工建設株式会社に所属し、
設計に従事していましたが「家庭と仕事を両立できない」という自身の経験・想いから、
配管設計業務の効率化に挑みたいという思いを強くしました。

配管技師、設計者、皆が人並みの生活が送れるようにしたい…そのような思いから、ソフトウェア「PlantStream」の開発に至りました。

プラントエンジニアリング業界の課題についてお話します。

製造業は、90年代中盤からロボットやオートメーション投入で生産性が大幅に向上しました。その一方で、建設業は横ばいで、やり方が全く変わっていないと言えます。

大型プラント建設では、スケジュール遅延、コストのオーバーランなどさまざまな問題が
表面化しており、巨額の損失を被ってしまう会社もあります。資材調達や、建設の問題など、さまざま要因が積み重なった結果とは言え、遂行の基礎となる設計に時間がかかることは、業界の喫緊の課題として認識されています。

プラント配管設計は、熟練の技術者が設計ルールと、経験、ノウハウに基づいて全体調整を行いながら3Dモデルを作成していきます。現時点ではとてもアナログな作業です。巨大な
エネルギープラントでは、なんと数十万時間かかる場合もあり、1人でやろうとすると10年かかってしまう計算になります。

下図は、プラントのごく一部の設計モデルです。すべて手作業で込み入ったモデルを作成していきます。実際にはこの何十倍もの敷地があり、納期を守るには何百人という設計組織で業務やエリアを分けて人海戦術で対応しています。

近年では安全性や保守保全要求が高まり、それに伴って配管設計業務は更に負荷が高くなっています。現場は多忙を極め、遅延発生も問題となっています。

精度、スピードを兼ね備えた世界で唯一無二のソフトウェアを開発

そこで当社では業界の課題を解決するために、デジタル技術を使い、既存のアナログ人海戦術による設計の遂行を革新したいと考えました。単純作業から開放され、設計者、エンジニアがより創造性のある業務に注力できる世界を作りたいと考えたのです。

次世代型CAD「PlantStream®️」という、プラントエンジニアリング業界に特化した業界特化型SaaSを開発しました。この製品には3つの特徴があります。

①熟練エンジニアたちの膨大なノウハウをデジタル化

人間の作業をアルゴリズム化、自動化しました。
従来の手作業では、配管1本の設計に「2時間」かかっていたものを、自動化により、
1000本を「1分」でルーティング(設計)できるようになりました。

精度、スピードを兼ね備えた世界で唯一無二のソフトウェアであり、労働人口減少に対する解決にも寄与できます。

②業界全体のDXに貢献

業界の同業他社に利用が広がっており、業界全体のデジタル化に貢献しています。

③スタートアップと協業、共同出資

株式会社PlantStreamは、大手コントラクターである千代田化工建設株式会社とスタート
アップ企業・株式会社Arentによる合弁事業です。経産省では数年前からスタートアップと事業会社の対等な連携を強く推進しており、本事例はその先端を行く事例として歩み続けています。

技術大国日本を再び世界へ

PlantStreamの成果や、今後の展望についてお話します。

①プラントエンジニアリング工数の大幅削減。業務遂行の改革

ソフトウェアのユーザーからは設計工数を大幅に削減できたという声が寄せられています。以前は「プロセス設計」→「機器設計」→「3D設計」とウォーターフォール型で進めるほかありませんでしたが、PlantStream®︎により3点を同時進行でできるようになりました。

②業界プレイヤーの協業

以前は、発注者(プラントオーナー)と受注者(コントラクター)の業務は完全に分担されており、互いの業務を理解できずブラックボックス、いざ設計で問題が発生すると受注者(コントラクター)がすべての責任を負い、巨額の損失を被ってしまうという問題がありました。

しかしこれからは、PlantStream®︎の導入により誰でも容易に3Dモデルを設計でき、発注者(プラントオーナー)も設計に参加できるようになるため、同じ立場でプロジェクト遂行をできます。リスク・コストを共有し、早めに協力し合う…そのような世界を実現していきたいです。

③SDGs貢献

鉄精製には膨大なCO2が排出されますが、設計の最適化によって、鉄資源の削減が可能になり、SDGsに貢献できます。

2021年4月のソフトウェアリリースから1年で30ライセンスを販売しました。
ARR(Annual Recurring Revenue、毎年決まって得ることができる売り上げ)は1.5億円です。

ソフトウェアの海外販売の成功事例の先駆けとなれるよう販路を拡大中であり、
「強い日本」「技術大国日本」を再び世界へと導いてまいります。