DX事例

【株式会社スタジアム】公立高校の先生とスタートアップが、二人三脚で実現した就職指導のDX

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するためのコンテストです。自治体や民間企業などが取り組んだDX推進プロジェクトを表彰し、それぞれの部門で大賞を決定します。

2022年6月24日に行われた「官民連携部門」より、公立高校の先生とスタートアップが
二人三脚で実現した就職指導のDXについて、取組内容と成果をご紹介します。

株式会社スタジアムの概要

■法人名:株式会社スタジアム
■事業内容:​​営業代行、ビジネスプロセスアウトソーシング、Webサービス・アプリ・
システムの企画・開発・販売の事業企画・運営
■設立:2012年8月13日
■公式Webサイト:https://handy.school/

高校生の仕事探しは「紙」と「手作業」

はじめに日本の高校生の就職状況についての全体観です。

日本では高校生が卒業後16万人、年間で就職しています。大学生の就職者に対しても40%と非常に大きな規模だと言えます。求人倍率も2.89倍で超売り手市場、内定率は99%、非常に多くの高校生が就職希望の場合は就職できる環境になっております。

その反面、高校生で就職された方が1社目に対して持つ印象というのはそれほど良くはありません。具体的には10段階評価で言うと0点をつけられる方が24%おり、これはかなり大きい数値なのではないかと思っております。

なぜ初めて入社した会社がこれだけ評価が低くなってしまうのかを深掘りしたいと思います。

高校生は1社だけ検討してそのまま入社されるケースが非常に多く、55%の方がそのまま入社されています。また就活中、就職先の会社の情報がうまく取得できないと感じられている方も多いです。

情報の取得がうまくいかないと、初めて働いた会社に対しての印象が悪くなります。
また、早期の離職率も出てくるため、就活中にできるだけ多くの会社の情報に触れることが非常に大切です。 

日本の高校生が就職する場合、 大きく4つのプレイヤーが関わります。
「求人企業」「学校」「ハローワーク」「生徒」です。

ハローワークの職業紹介業務に関して、学校は委託を受けております。学校は、ハローワークに代わって仕事を生徒に紹介することができます。

よって求人企業はまず、高校生を募集する際には求人情報をハローワークに登録する必要があります。登録された情報は全て学校に伝わりますので、生徒が仕事を探す際には学校からいくつか紹介をもらえる形になっております 。

応募に関してはまず学校から斡旋をいただく形、 もう一つは、生徒自身が直接応募する形(自己開拓)です。自己開拓は、全体の就職に対して10%未満と言われており、ほとんどの子供たちは学校からの紹介で企業に就職していきます。 

学校内で高校生の仕事探しは「紙」と「手作業」で行われています。

進路指導室に貼られている求人情報を見て、ファイルから求人票を探し出すという作業を
行っています。生徒達が認識できる求人票の数は100枚くらいと言われており、学校で持っている求人票の数に比べて非常に少ないことが特徴 です。「紙」で検索するので限界があるのではないかと感じます。

この「紙」の求人票を学内公開するのは、すべて先生が行っています。学校に届いた求人票のファイルを仕分けして、Excelに転記して、パンフレットをファイルに全部詰め直す作業のすべてを先生が行っていて、所要時間が50時間ほどかかっています。通常業務に加えてこのような進路指導・就職指導の準備も行なっておりますので「なかなか時間が取れない」というのが先生たちの声です。

高校生の就職活動は就職協定に基づいて動いていますので7月から解禁となります。
求人票も7月から届きます。夏休み前までに何とか高校生に求人票を見て頂かなければいけないので、多くの学校で約3週間以内に、届いた求人票の整理が終えられるという、かなり多忙なスケジュールが組まれています。 

これらの仕組みは70年前に出来上がった「労務調製令」に基づいて作られたものが今なおベースになっています。

当社としては、この70年間変わらない仕組みを変えていきたいと考えました。 

就職DXとは?

私たちが考えているDXにおいては、生徒の皆さんはいつでもどこでも閲覧ができる、先生は手作業の必要が無くなる、企業は求人票以外の情報も自由に発信ができるようになることを目指しています。

プロジェクトは2021年の5月から始まりました。まず重要なのは、協力校を見つけることです。埼玉県立川越初雁高校さんと協働させていただくことになりました。初めての取り組みですので特に公立高校の場合、なかなか決断ができない部分も大きかったかなと思います。埼玉県立川越初雁高校さんの場合、前例の無いことに対しても積極的に取り組むことが特徴でした。校長先生からもその意向は伝わりましたし、進路指導の先生皆さんからも同じような意向が感じられました。新しいDXの取り組みに対して親身になってご相談に乗っていただけたことが非常にありがたかったです。

ただ、取り組みを進めるにあたってはやはり「DX」「IT」といったフレーズはなかなか馴染みが無いので、当社も職員会議や、先生と一緒に求人票の仕分けを行ったり、生徒の皆様に対しても直接登壇させていただくなどして不安解消に努めました。 

最初に行ったことは、実際に先生が行っている業務を知ることでした 。実際に行なった業務を汎用パターンに落とし込み、この汎用パターンから簡易のMVPを作らせていただきました。

作った簡易のMVPを使って実際に就職活動を行っていただいた結果を定量的にアンケートで回収しております。

分かったこととして、生徒の皆さんは「紙」より「デジタル」のほうが良い、そして先生にとっても、デジタル化で業務時間を減らせることが分かりました。具体的に8割の時間を軽減することができ、50時間程度の削減効果がありました。

シンプルなサービス設計 学校の導入負担ゼロを実現

成果を基に、一つでも多くの学校にこの取り組みを進めていきたいと考えました。一校一校でシステム構築するのではなく、全体で支えるようなクラウド型のサービスが非常に重要だと判断し、正式にプロダクト開発に入りました。プロダクトを必要としている学校は全国3500校あると想定しています。

サービス設計のコンセプトは非常にシンプルです。学校に届く紙の求人票を、学校にある
複合機でPDF化していただく。先生に行っていただくのは、そこまでです。 作成したPDF
ファイルを当社のサービスに預けていただければ、あとは学校の中で先生が使う一覧表を作ったり、生徒の皆さんが手元のスマホで見るための管理的なWebサービス構築ができます。
学校には既にICT環境が整いつつあり、インターネット、デバイスもあるので、導入条件はクリアしやすくなっております。

一番大きな課題が導入費用ですが、ビジネスモデルを組み立て直すことでクリアしました。学校側は、導入に当たっては一切費用がかかりません。これをいかに実現したかですが、
企業側は生徒の皆さんにもっと情報を伝えたい意向があります。追加情報掲載にはシステム利用料をいただく、ということでスポンサーになっていただきます。この運営費があることで学校内のDX化は全て無料でできるようになりました。

取り組みの拡大

取り組みをさらに拡大していこうと、複数校、さらに行政を巻き込んだ形での就職指導DXを進めています。リリース後半年間で約300校が導入、多くの学校の先生から応援のメッセージや、毎日新しいご要望もいただいています。

また、全国の高校生には就職活動の楽しさを伝えたいので、各地に訪問して当社のシステムのご案内、そして就職活動の進め方に関してもアドバイスさせていただいています。

これらの取り組みから、大阪府教育委員会様と連携協定の締結まで至りました。この提携連携協定の締結によって今年度、大阪府内の公立高校に対してこの就職指導のDX化の取り組みが今まで以上に加速していきます。

最後に

今後、日本全国で就職指導のDX化ができるのではないかと期待しております。 

求人企業から学校に対しては、遠方であったり、採用実績が無くても求人票が送れるようになるメリットがあります。学校から先生に対しては、担当教員の負担を軽減しながら、
かつ、指導業務に集中できる環境づくりができます。そして学校から生徒に対しては一つでも多くの求人を提供することができるようになります。生徒が探しやすい形なので今までよりも魅力的な会社に気づけるようになりました。生徒から家族に対しては、就職先を一緒に相談しやすくなった側面もあります。

吟味した就職希望先へ就職できるようになりましたので、より強い興味・関心を持って、
よりご活躍いただく機会が増えるのではないかと考えております。

今後も日本全国でこういったサービスが普及するよう、全力で努めてまいります。