DX事例

【兵庫県加古川市】加古川市版「Decidim」~新しい市民参加型合意形成のカタチ~

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。

都市課題を解決するためにICTなどの先端技術を活用し、持続可能な都市の実現に向けてさまざまな取り組みが世界各地で行われています。そうした中で、コロナ禍以前からある、
パブリックコメントの募集やワークショップの開催に加え、都市に住まう人などが感じる課題を拾い上げるためのプラットフォームを整備しようとする自治体の動きが活発化しています。

住んでよかった、住み続けたいと思ってもらえる街の実現に向けて、兵庫県加古川市は「Decidim(デシディム)」を導入。多様な市民の意見を集めながらさまざまな取り組みを実施しています。

2022年6月23日に行われた「行政機関部門」より、兵庫県加古川市の事例をご紹介します。

兵庫県加古川市の概要
■人口:258,273人( 2022年7月1日 現在 )
■面積:138.48 km2
■主な産業:製造業(靴下・建具・鉄鋼など)
■市長:岡田 康裕
■公式Webサイト:https://www.city.kakogawa.lg.jp/

Decidim(デシディム)とは

Decidimは、カタルーニャ語で「自分たちで決める」という意味を持つ、スペインのバルセロナで誕生したオープンソース(※)の市民参加型合意形成プラットフォームです。パブリックコメントなどと異なり、意見に対し、フィードバックや、徐々に議論を活性化させていくことが可能です。

また、オンラインに慣れている市民だけを対象とするのではなく、オフラインでのワークショップを積極的に活用することで、より広く市民参加を促し、議論を活性化させることに加え、デジタルデバイドの解消、幅広い世代の政治参画の実現も期待できます。

また、GitHubを使ってDecidimのコードの再利用、改修を実施しており、他の自治体が参考にできるようにしています。

従来、オフラインでのワークショップを開催する際は、市民の方への告知も必要ですが、Decidimだと新たに別の議論の場を立ち上げたときなどにニュースレターを配信しているので、ユーザ登録しておけば自動で通知が受け取れ、いつでも参加可能です。

※オープンソース(OSS(Open Source Software)とも):ソフトウェア開発の発展や成果の共有を目的として、公開されているソースコードを商用・非商用を問わず誰でも自由に改良や再配布できる、ソフトウェアの総称

加古川市におけるDecidim導入の経緯

加古川市は2020年10月、一般社団法人Code for Japan「加古川市におけるスマートシティの推進に関する協定」を締結し、その一環としてDecidimを全国に先駆けて導入しました。加古川市の導入以降、岩手県釜石市や福島県西会津町、京都府与謝野町といった市区町村レベル、兵庫県や滋賀県といった都道府県レベルのプロジェクトに導入された他、国のスマートシティガイドブック策定にも用いられており、民間部門での取り組みも進んでいるようです。加古川市版Decidimのユーザーの内訳としては、10代から20代の参加者が非常に多いことが特徴です。

Code for Japanの代表理事の関さんと意見交換をした際、「先進技術の導入がスマートシティの目的になってるのではないか」と、スマートシティの推進にあたり感じていた課題ををぶつけたところ、加古川市のスマートシティ構想を策定する意見収集ツールとしてDecidimを紹介していただきました。折よくCode for JapanもDecidimのプロジェクトを進めようとされていたこと、市長からの後押しなどもあり、導入に至りました。

ちなみに稼働前、Decidimはまだ日本語化されていなかったので、Code for Japanと加古川市で意見交換しながら日本語化を進めました。

Decidimを使った事例〜加古川市スマートシティ構想策定への活用〜

見守りカメラ・見守りサービス(官民協働事業)の実施

本市では加古川スマートシティ構想の策定以前から、安全・安心のまちづくりを掲げ、2017年から先行して「ICT(情報通信技術)を活用した安全・安心のまちづくり推進事業」に取り組んできました。小学校の通学路や学校周辺を中心に1,475台の見守りカメラを設置した他、官民協働事業として加古川警察署や民間企業と協働し、見守りサービスを実施しました。

加古川スマートシティ構想

本市は2021年3月に「加古川市スマートシティ構想」を公表しました。策定の際、スマートシティの主役である市民の声を構想に反映するためDecidimを活用。2020年10月から2021年1月まで、オフラインでのワークショップを2回実施し、Decidimでは196名の方から261件のご意見やアイデアをいただき、「加古川市スマートシティ構想」の素案に反映しました。

この素案を元に2021年2月にパブリックコメントを実施し、翌月に策定。これまで拾い上げることが難しかった若い世代や子育て世代の方々の意見も取り入れ、「加古川市スマートシティ構想」は完成しました。

かこてらす

2022年4月にオープンした公民館と子育てプラザの複合施設の愛称募集にもDecidimを活用しました。最初にクラウドソーシングサービスを用いて愛称を募集したところ、約400件集まりました。そこから事務局で9案に絞り込み、その後Decidimの投票機能を活用して9案から3案を選定しました。そして、投票ボード、回覧板、LINE、ホームページを用いて市民投票を実施し「かこてらす」という愛称に決定しました。

地元の高校生の活用事例

兵庫県立加古川東高校では、STEAM特別講座の一つとして、RESAS(※)を用いて加古川市の地域デザインを考え提案する講座を開講しています。その中で、民間企業協力のもとアイデア磨き、企画立案の検討にDecidimを活用しました。2022年2月には市長・市議会議長をはじめとする市の関係者向けに発表会を開き、地域活性化へのアイデアを示しました。

彼らのアイディアの実現に向け、市の担当課、地元企業が協力し、家族へ感謝の心を伝えつつ加古川の靴下をPRするポスターを作成。つい最近まで、母の日と父の日の販促ポスターが地元の靴下販売店に掲示されていました。次は敬老の日を機会と捉え、それに向けたPRポスターを作ろうとしているようです。

※RESAS(リーサス、Regional Economy and Society Analyzing System):産業構造、人口動態、人の流れなどの官民ビッグデータを集約し、可視化するシステム。地方創生のさまざまな取り組みを情報面から支援することを目的としており、内閣府のまち・ひと・しごと創生本部事務局と経済産業省が提供。

かわまちづくり

本市では、一級河川・加古川の豊かな水辺空間を地域資源として捉え、「かわ」空間と
「まち」空間の魅力を活かし、加古川の河川敷に賑わいを創出する「かわまちづくり」を進めているところです。このプロジェクトでも、市民の方から意見・アイデアをワークショップやDecidimで募集し、「加古川市かわまちづくり計画」に反映しています。

脱炭素まちづくり

加古川駅周辺のさらなる賑わいの創出に向け、2021年10月に図書館を駅前に移転し、
リニューアル。環境省と協力し、図書館の移転前と移転後の駅周辺における人流データの変化を分析し、脱炭素に向けた検討を行う実証実験を実施しました。この実証実験結果をもとに、ウォーカブルかつ脱炭素を目指すまちづくりに向けたアイデアや意見を、ワークショップやDecidimで募集しました。ワークショップでは駅周辺の地図を模造紙に印刷し、参加した方から脱炭素の取り組みのアイデアを書いて付箋に貼っていただきました。

Decidimはあくまで意見集約のツールの一つである

加古川市版Decidimはバルセロナ版と異なり、身分証明書を付けて実名登録する形を取っていません(現在はFacebookのアカウントも利用できる)。ここは導入のときCode for Japanとかなり議論しました。もちろんアカウントを複数取ろうと思えば取れますが、住民投票するわけではありませんし、街をよくする方法を議論するのがコンセプトなので、市民の方と市外の方とを区別する必要はなく、いろんな方の意見を広く集めたいと思っています。そのため、日本全国、海外からでも加古川市に関心がある方であればコメントできる状態にしており、実際に市外や海外からご参加されている方もいます。

オフラインでのワークショップとオンラインでは雰囲気が異なりますし、あくまでDecidimは市民の声を集約するツールの一つにすぎないので、オフラインでのワークショップの開催は今後も続けていく予定です。ただ、職員の人数は限られており、開催時間やコロナ禍でのイベント開催などに制約もあるので、ワークショップなどでDecidimを積極的に広報し、
ワークショップに参加した方が「議論し足りないからDecidimを使う」という形になっていくのが理想です。

加古川市版Decidimの評価すべき点

良かった点

Decidimは、コメントを募集している期間内であれば24時間意見を書けるので、今まで拾い上げられなかった若い世代や子育て世代の声をキャッチアップすることができます。
その方々の書き込みが政策に反映されることで、地域への興味や市政への参画意欲の向上につながっていると考えています。参加者からは「誰かからレスポンスをもらえるので発信しがいがあります。それにコメントやいいねがつくことで読んでもらえているといった安心感が芽生えました」などのコメントをいただいています。

また、ワークショップに参加した職員からも「街を良くしたいと考える市民の方々からの生の声を聞けて、モチベーション向上につながった」との声もあり、行政と市民が課題を共有することで、市民の方々のまちづくりに参画できるきっかけにつながっていると思っています。

改善すべき点

「オープンなまちづくり」について、市長からも職員の研修の場でさまざまなメッセージを発信してますので、情報発信し続けてもいいと思える職員文化の醸成に関しては、引き続き取り組む必要があると考えています。それには「行政は絶対に間違わない」といった、行政内部における改革が必要だと考えています。また、市民の方々からのご意見やコメントへの金銭的インセンティブは発生していないため、モチベーションの維持や参加者増加のためにも、参加するメリットをより明確にしていく必要があると考えています。

認知度に関しても、加古川市の人口約26万人に対して、Decidimのユーザーはまだ1,000人ほどです。Decidimに参加いただける方を増やしていく努力を、これからも続けていきます。

まとめ

Decidimを導入するだけでは、市民と行政との協働はできません。引き続き街の将来、
街を良くしたいと主体的に考えていただける方々の育成が大切です。

Code for Japanのプロジェクト「Make our City」の理念に共感し、加古川市版Decidimも「Make our Kakogawa」というコンセプトにしました。社会環境が大きく変わり、行政課題が複雑化・多様化かつ今までの常識が通用しなくなってきている中、Decidimのような市民参加型のプラットフォームが今後は必要とされるでしょう。加古川市では、これからもDecidimを積極的に活用していきます。