日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。
多くの自治体では、紙の文書にさまざまな部署の長がハンコを押す作業を積み重ねながら
意思決定するという文化が根深く定着しています。こうした文化を大きく変えるために、
デジタルツールを導入してはみたものの、日常業務の中に本格的に浸透していない業務環境では、上手く定着せずに終わってしまうケースもあるようです。
そうした自治体でDXを推進するためには、人材育成と職員のマインドチェンジが非常に大切で、一般社団法人シビックテック・ラボではDXに取り組む自治体を伴走支援しています。
2022年6月22日に行われた「支援機関部門」より、一般社団法人シビックテック・ラボの事例をご紹介します。
一般社団法人シビックテック・ラボの概要
■代表理事:市川 博之
■設⽴:2018年
■事業内容:
・自治体やNPOに向けた、ICT支援、コンサルティング、サービスデザイン
・実践型の業務改革/DX
・学生が地域のデザインをすることへの場づくり、活動の支援(Design for Local)
・ICTやまちづくりの各種計画の策定、支援
・市民との合意形成の場作り
■公式Webサイト:https://civictech-lab.jp/
自治体変革プロジェクトDXをはじめたきっかけ
シビックテック・ラボが提供している「自治体変革プロジェクトDX」とは、自治体職員が
自らDXプロジェクトリーダーとなるためのマインドチェンジを促す、伴走型かつプロジェクト実践型の研修です。このプロジェクトのきっかけは、2019年に袋井市さんから「研修の形でサービスデザインを取り入れた実践型の研修を作れませんか?」ってお話が来たことでした。
2020年度になってすぐにコロナ禍に突入したので、「集合研修難しいのでは」って話も
出てきてしまったんですが、設備も端末も用意してもらって、フルオンラインで半年間研修しました。結果的にこの期間で良い気づきや経験が得られました。
自治体変革プロジェクトDXの3つの特徴
研修の特徴1:マインドチェンジ
自治体変革プロジェクトDXは、実際の課題を利用した伴走型アクティブラーニングであり、DXとBPR(Business Process Re-engineering、業務改革)を行う際の観点・考え方・方法を身につけるスキルと、DXとBPRを行う際に必要なマインドチェンジとそれに気がつくマインド、チャレンジする人材を、実際の課題を使って育成しています。
例えば「その仕事、令和の時代に初めて作ったとしたらどうする、どんな目標と価値を出していきますか」などと、プロジェクトの参加者に徹底的に考えさせてます。デジタルツールだけ渡しても、単なるツール導入事業になってしまうからです。あと、いつもと違う方法で素早く仕事すること。今ある方法や場所、時間、業務を正しく理解し直し、価値を最大化する方法を考え、徹底的にいろいろ変えてみる。そういったことを恐れないマインドを育てています。
経営層・管理者・担当者、それぞれに研修の方法があり、庁内のプロジェクトに研修で学んだ内容を使ってもらっています。自治体のDXを加速させるために、DXマインドを持ったプロジェクトリーダーになりうる人材を育てていくことが凄く大事だと思っています。
研修の特徴2:提案力・定着力を鍛える
プロジェクトの実現には予算と利用の壁を越えなければいけません。予算の壁を突破するには企画を通すための提案力、利用の壁には使ってもらうための定着力が必要です。要求定義を自治体職員自ら行えるよう、提案力・定着力を鍛えます。指標には地域全体のQOLという考え方を持ち、効果の対象も数値で明らかにしていきます。
研修の特徴3:プロジェクトは本物の課題を使って
職員さんには、研修だけに使える時間はあまりありません。なので、施策や行政サービスにつながるイメージで実際の課題を使ってDXのプロジェクトを作ります。研修をただ見るだけではなく、自分で作って講師に評価してもらったり、参加者同士がディスカッションすることで考えを深めたりするといった内容です。グループ研修で、1回で終わるものもあればだいたい5〜6回くらいになるものもあります。
研修を重ねる中で、素案から何度もブラッシュアップを繰り返しながら課題解決していく
方法を見つけていく。DXの内容をしっかり作り込んでいき、首長や庁内の職員にプレゼンと提案ができるまで、ワークショップでとことん考えさせます。
自治体変革プロジェクトDXの研修の基本的な方針
ツール導入に失敗している自治体が結構多いので、DXを推進するプロジェクトリーダーになるための人材育成とセットで、導入後きちんとツールを使える人材育成もセットでなければなりません。
マインドチェンジと「できる・やれる」をはっきりさせて効果を出しながら自走すること。できる範囲内でかっこよくまとめたプロジェクトではなく、積極的に課題をプロジェクト化し、複数年度でプロジェクトをどこまで進めるかを考えさせる。ちゃんと庁内で広報して、変革を促していく。この3つを基本方針としています。
気づきノート・eラーニングの導入
自治体内の暗黙知を集合知に変える「気づきノート」をつけてもらい、研修の成果や気づいたこと、どの時点でモヤモヤが解決したかを参加者にしっかり考えてもらうようにしています。これがまとまっていくと、あのときそういえばこんなこと思ったとか、次の年に強化していかなきゃいけないチェックポイントが分かるようになります。
藤沢市や浜松市では、eラーニングで業務フロー作成講座を作り、個別で好きな時間に学んでもらえるようにLMS(Learning Management System:学習管理システム)を実装・
提供しています。
シビックテックギルド
シビックテックギルドというコミュニティを作り、講師を派遣してます。伴走型の研修は
自分で覚えて使ってカスタマイズしていく必要があるので、実際にできる場所がないといつまでも使える人が増えません。
地域で何かを始めようと思った時、実績がないとだいたいさせてもらえないんですよね。
他の地域で課題解決などの実績を積んでから、自らの地域の課題解決に臨むことが大事だと思っています。
地域に人を定着させるために、必要な仕事をシェアしながら負荷分散していくことが必要です。講師の候補になりそうな人を見つけて、自治体変革プロジェクトDXを導入してる地域でサブ講師としてノウハウを学んでいただいて、各地域で講師となったりリモートでサブ講師になっていただいたり各エリアで業務をシェアしていただいたりしています。
初年度、シビックテックラボは2名でしたが、3年経った今6人に講師が増えました。自治体さんからのニーズの増加に伴い、人材が必要なので、絶賛協力者を求めています。
チームビルド・場づくり・ファシリテーションとグラフィックレコーディングを総合力で
DXのプロジェクトは多部門参加型なので、自治体変革プロジェクトDXでは、チームビルドに最も時間を割いています。参加者を1つの目標に向けてチームビルドし、プロジェクトワークをチームで進めていくことを覚えていきます。チームビルド後は、DXを実践するチームとして自分たちのプロジェクトを進めてもらっています。
ファシリテーションは参加者の状態を見ながら答えを教えるのではなく、ワークシートを
使い、どんなところで詰まるかなど含めて自分で確認して気づかせ、自らの考え方を人に
伝えることに重きを置いています。グラフィックレコーディング、グラレコは研修のたびに完成させて、当日の振り返りや最後の確認の時にも凄く役立っています。全体研修のグラレコは総務部長の後ろや市長室に貼ってもらって、庁内の広報につなげてます。
自治体変革プロジェクトDXを導入した自治体の事例
都庁からスタートした管理職研修は現在、豊中市・大仙市・神戸市でも実施していて、
管理職のマインドチェンジにもひと役買っています。
袋井市
3年目に入った袋井市では現在、複数のプロジェクトを実際に社会実装まで進めています。BPRの研修では、若手の研修の様子を庁内で広報していただいています。
藤沢市
藤沢市も、自治体変革プロジェクトに参加したチームの課題が全てプロジェクト化しました。今年の3月まで要件定義とロードマップを作成して、継続できる状態にまで進化してます。
東京都庁
東京都庁も3年目に入りました。特性に合わせた外部講師を毎回投入しています。
他の自治体DXの研修でもそうなんですけど、初回にDXへの意気込みを首長とか経営層から語ってもらう(都庁では宮坂さん(副知事))ことで、研修のモチベーションもさらにアップしていきます。
墨田区・浜松市
墨田区や浜松市では、マインドチェンジを促す研修を通して課長補佐級の人たちを対象にした伴走型研修を実施しています。
墨田区ではその模様をYouTubeで配信して、ロゴチャット含めた非同期の質疑応答を公開しています。
浜松市の場合、BPR・DXのプロセス、サービスデザインの実務での適応、業務要求を何度もアジャイルに変えていく3つのスキル、変革とメンターのマインドを育てながら業務要求の提案、変革の推進、コア人材育成を一緒に手掛けています。
まとめ
研修で習ったことをすぐに実装できるわけではないし、研修で習った自走が成功っていうわけでもありません。研修で学んだ内容を採り入れた後、実務に合わなかった部分を見つけて、改善点をブラッシュアップし続ける。実践で走りながら地域で育てて、地域DXに繋げるところまでを、自治体変革プロジェクトDXでは伴走支援しています。
ここで学んだ人が研修のリーダー、プロジェクトリーダーとなってプロジェクトを牽引していくので、その人たちが次の人たちに方法を教え、でその次……と、このサイクルが私たちの伴走支援が終わっても組織の中に根づいていくことを狙っています。