DX事例

株式会社源/コストサイエンス株式会社「従業員の心と時間の負担を軽減する需要予測DX」

発表者:株式会社源  代表取締役  源 和之様/コストサイエンス株式会社 代表取締役CEO小倉 朗様

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。

需要予測とは、自社が提供する商品やサービスが今後どの程度求められるのか、さまざまな方法で予測することです。食品、特に日持ちのしないものを販売する店が製造元に発注するとき、その日の天気や気温、イベント、過去の販売実績のデータなどから予測を立てます。ただ、需要予測に従って多く注文しても余ってしまったり、少なく発注したら意外に早く売り切れてしまったりすることも。需要予測を正確に行うことで、機会損失や過剰在庫を抱えるリスクとそれに伴って発生するコストを減らせます。

ますのすしを扱う株式会社源では、発注作業を担当するスタッフの心理的負担を軽くするため、AI(人工知能)を使った需要予測システムをコストサイエンス株式会社と構築しました。

2022年6月22日に行われた「支援機関部門」より、株式会社源とコストサイエンス株式会社の事例をご紹介します。

株式会社源の概要
■代表:代表取締役 源 和之
■設⽴:1908年
■事業内容:食品製造、販売(ますのすしなどの駅弁)
■公式Webサイト:https://www.minamoto.co.jp/

コストサイエンス株式会社の概要
■代表:代表取締役 小倉 朗
■設⽴:2018年
■事業内容:コンサルティング事業(コスト削減、新規事業開発、デジタルトランスフォーメーション)
■公式Webサイト:https://costscience.com/

株式会社源・源様
「弊社のトップ商品は、富山の郷土料理でもあるます(鱒)のすしです。商品は販売する店舗ごとに主に店長が発注しますが、ますのすしを含めた弊社が扱うものは全て日持ちのする商品ではないので、その日のうちに売り切らなければロスが出てしまいます。そこで、発注にかかる店長の心の負担を軽減できる第3の仕組みがあったら、とても面白いんじゃないかと考えました」

これまで源では、現場担当者が過去の売上などの社内の情報、天気予報や人通り、交通機関利用情報のヒアリングなどの情報を調べてから発注業務を行っていました。2020年より現在まで続くコロナ禍で、商品の発注数の予測が難しくなり、発注業務が現場発注担当者の心理的な負担となっていました。また、社内外の情報の取得方法や利用方法が店長次第で異なることも課題でした。

ますのすし・磯井店長
「この仕事をしていて長いので、私はそんなに負担ではないんですけれども、私が休んでいるときに発注してもらう新しい方やパートさんにとって発注作業は凄く負担になるんですよね。ご飯・お米を捨てるのは凄くショックですが、足りなかったら売上が落ちてしまいますし、多かったら捨てないといけないわけですから」

コストサイエンス株式会社・小倉様
「源様からお話を伺ったとき、従業員様や自社の商品への熱い想いを感じて、コストサイエンスの持ってるノウハウやテクノロジーで何とか貢献したい、発注にかかる従業員様の心の負担を下げる取り組みをぜひ一緒にやっていきたいと思ったのがきっかけです」

発注支援システム「MINA(ミーナ)」

「発注支援システムMINA(ミーナ)」は、予測値を用いた発注数確定作業の支援と、
発注作業をシステムで担えるようにするペーパーレス化を同時に実現できるシステムです。

具体的には、店舗ごとの販売実績、飲食・見学施設への予約状況、天気予報、周辺イベントや交通機関の利用情報など社外の情報を「発注支援システムMINA(ミーナ)」にインプットすることで予測値を出し、発注数を決める作業時間と心理的負担の軽減を支援します。

また、これまでFAXと手入力で行っていた店舗から本社への発注確定や発注数修正の作業を改善し、CSVのダウンロード・アップロードのみで作業が完結するようにしました。実際の画面はお見せできませんが、発注する商品一覧の横にAI予想数値が全て出るようになってるイメージです。

「発注支援システムMINA(ミーナ)」構築の際には店長にも積極的に携わってもらい、
属人的だった部分を見える化しました。その上でチャンスロス削減と廃棄ロス削減について社内外の情報に基づき、会社の方針を踏まえて、柔軟な切り替えが可能な経営視点を持った需要予測アルゴリズムを導入したシステムにしました。

アルゴリズムを作る上で重要視したこと

コストサイエンス株式会社・高橋様
「精度が良いアルゴリズムを作ることはもちろん、AI(人工知能)が弾き出した予測値が
現場で使えることが重要だと我々は思ってます。そのために今回重要視したのは以下の2点です」

(1)良いデータを取り込むためにはどのような方法が最適か
良いデータとは、データそのものの品質が高くて予測値に意味があることです。発注の際にどのような情報を普段参考にされているのか、売り上げにどの情報が関係していそうなのかを店長さんたちに徹底的にヒアリングを実施。その上でどのようなデータを取得できるのか検討しました。

(2)店長さんたちが安心して予測値を使うための最適な方法
店長さんからすれば、AI(人工知能)が出してきた数字を信頼していいのか分からないので、なぜアルゴリズムはそのように予測をしたのか、アルゴリズムの説明性・透明性を担保しました。これによって店長さんが安心して予測値を使えるし、また外れた場合でも原因が分かるようにしたのです。

コストサイエンス株式会社・小倉様
「データの選定に関しては、店長様へのヒアリング内容からさまざまな仮説を立てて、最初のベースラインみたいなものを作ってはいたんですけども、なかなか上手くいかないところも多くて。CDO(Chief Digital Officer:チーフ・デジタル・オフィサー)の高橋を中心に、源様からのフィードバックと、ヒアリングだけでは見えてこなかったところを、データサイエンスの力を借りて、どの要素を入れるとより精度が上がるかなどを時間かけて影響分析していきました」

「発注支援システムMINA(ミーナ)」における、アルゴリズムの役割

アルゴリズムはシステムを作った後も常に改善し続けるものです。例えば、コロナ前でしたら前の同じ曜日、1年前の同じ日の売り上げが予測に大きく影響していますけれども、コロナ禍の今では、直近1週間の売上やその地域でコロナの深刻度に関連する数値が予測にとって重要になってきます。こういったことをモデル(AI)が自動的に導き出してくれるわけですけれども、今後経済や人の動きがコロナから回復していく中で、そういうところをアルゴリズム・運用両面で対応できるようにしております。

アルゴリズムは、上振れのエラーと下振れのエラーを区別しません。できるだけ同等に両方のエラーを小さくするのが予測の基本です。ただ、上振れも下振れもロスであることは同じなんですけれども、人間から見るとこれは大きく違う意味を持つかと思います。上振れは廃棄ロス、企業のコストだけでなく食材の無駄や環境を意味し、下振れはチャンスロス、お土産を買いたい方、その楽しみを提供できないということを意味しています。

そこで、上振れのエラーと下振れのエラーを調整できるアルゴリズムも導入しました。
これによってその時々の状況とか経営戦略によってチャンスロスを許容しながら廃棄ロス、あるいは逆に多少の廃棄ロスを許容しながらもチャンスロスを下げていくのかを調整できるようにしています。このような戦略立案はあくまで人間の役割で、高度にサポートしていくのがアルゴリズムの役割だと思っております。

最後に

北陸で、弊社と同じようなサービスを提供している方々に、「発注支援システムMINA
(ミーナ)」を利用していただきたい。サービス業に従事するスタッフの皆さんの体と心の負担軽減、ひいては会社として成長するための経営の助け、一つの手法としてたくさんの方に使っていただけると嬉しく思います。

今実際に使い始めて2週間ほどになるんですけども、新しいプロジェクトに生き生きと取り組んでる店長たちの姿が印象的に映っております。

需要予測はしっかりと当たる時もあれば当然ブレてしまうときもあるんですけども、AI
(人工知能)という第三者に伴走してもらうことによって安心感が担保され、自分の出す
数字に対して自信を持てるようになったことは、大変嬉しく思っています。今後もどんなふうに発展していくのか、成長の過程が非常に楽しみです。