DX事例

建設業界の課題を世界への解決策に:ArentのDX事例から学ぶ新時代のプロダクト開発|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月19日に行われたBX(ビジネストランスフォーメーション)部門 決勝大会では、デジタル化の波がビジネスのあり方を大きく変えている現代において、既存のビジネスモデルを根本から見直し、革新的な形で事業を展開している企業や組織による事例が発表されました。

この記事ではその中から、建設業界のコア技術のシステム化に成功した株式会社Arentの事例をご紹介します。

日本DX大賞Webサイト:https://dx-awards.jp/

株式会社Arentの概要

■法人名:株式会社Arent
■事業内容:クライアント企業のコア技術を見極めるDXコンサルティング及び新規事業創出、自社プロダクト開発・販売
■設立:2012年7月2日
■公式Webサイト:https://arent.co.jp/

千代田化工建設とジョイントベンチャーを設立。
その目的は「暗黙知の民主化」

Arent鴨林氏:Arentは、建設業界のDXを行う会社です。

ミッションは「暗黙知を民主化する」というものです。つまり、建築業界におけるベテラン技術者の知見やノウハウをシステム化し、デジタル事業化するということです。

これはどういうことか、具体的な事例をプラントエンジニアリング業界大手の千代田化工建設株式会社様とArentで設立したジョイントベンチャー「株式会社PlantStream」の事例でご紹介します。

これは非常に重要な取り組みで、大規模プラントの自動設計を実現し、プラント設計における世界的課題を解決していくプロジェクトです。

「PlantStream」のプロジェクトは千代田化工建設様からArentへ「工数のかかる大規模プラントの設計業務を効率化したい」という、社内の業務効率化のご相談から始まりました。

まずは、ノウハウをもったベテラン技術者に対するヒアリングを通じてシステム開発に取り組んでいきました。

開発は日本企業の多くが行っている、開発前にすべての機能設計・計画を作ってから開発するスタイルではなく、シリコンバレーで実践されている「開発途中に仕様や設計の変更があることは当たり前」という前提で、計画段階では厳密な仕様を決めずに、開発途中での変更に臨機応変に対応するアジャイル開発という方式で行われました。

プロトタイプが出来ると、千代田化工建設様社内のベテラン技術者さんに実際に使ってもらい、「これは充分使えるし、販売できるレベルだね」となったことからデジタル新規事業として外販することを検討し始めました。

デジタル事業の重要性とAmazonの成功例

Arent鴨林氏:このようなデジタル事業の立ち上げには経験・知見が必要であり、Arentから千代田化工建設様にジョイントベンチャーという形を提案させていただきましたが、それは、「PlantStream」を社内の業務効率化システムに留めることなく、共にプロダクトを作ることによって、世界に向けて販売する取り組みにつなげたかったからです。

といいますのも、我々が考えるDXの本質とは、「まずは自社の課題を解決し、その解決の決め手となったプロダクト(社内のコア技術の結晶)を世界中で販売して多くの人に使っていただくこと」だと確信しているからです。

例えば、海外企業のデジタル事業の例で考えてみましょう。Amazonは、自社の課題(EC事業におけるサーバー負荷)を解決するためにクラウドサービスを開発し、AWSとして世界中に販売しています。このAWS事業は世界的な大成功を収め、AWSはAmazonの時価総額の7〜8割を占めるほどの事業成長を遂げており、AWSは、IT・ソフトウェア開発を手掛ける企業にとっては無くてはならないサービスとなっています。

GAFAMですらこのようなDXの手法を使っているわけで、これこそまさに、DXの王道だと思っています。

建設業界における課題と「Lightning BIM 自動配筋」

Arent鴨林氏:日本には、技術力の高い会社は多いのですが、残念なことに海外の会社に技術が採用されたあと、そのナレッジが吸収されてしまうケースが多いことを、私は非常に懸念しています。

そこでArentは日本の技術力をシステム化し、世界中に販売して国力を守ることを目指しています。そのような想いも背景にあり、ソフトウェア「Lightning BIM 自動配筋」の開発に至りました。

このソフトウェアは、建設業界の人材不足とBIM対応の課題を解決するソフトウェアであり、建築分野の構造設計における配筋モデリングの部分を自動化し、工数を削減することができる製品です。

躯体の配筋情報から自動で3Dモデルを作成し、パネルゾーンの複雑な納まり検討も簡単に行うことができます。配筋検討のプロセスを自動化し、納まり検討を楽にすることができます。

「Lightning BIM」で新たな価値創造を

奥谷(審査員):建設業界は本当にナレッジ属人型だと思いますので、これからのDXの取り組みが非常に大事だと思いますが、今の仕組みは、他の建設業界や、他の建築物などにも展開可能なのでしょうか?

Arent鴨林氏:Arentは、建設業界のナレッジをデジタル化し、世界中で活用していただくことで、「自信を持って働ける日本」を目指すビジョンを掲げています。

「Lightning BIM自動配筋」を活用することで配筋業務を効率化し、効率化できた時間でビジネスにおける新たな価値を創出することこそが重要だと考えています。

また、建物の自動配筋だけでなく、土木技術の底上げなど、他の建設業界にも応用可能です。「JR東日本スタートアッププログラム2022春」に採択されたのですが、その際、「鉄道の線路には、太い配筋が数多くあります。建物の自動配筋ができるのならば、高架橋鉄筋モデルの自動化と設計業務効率化の検証をできませんか?」というお話しをいただきました。このような技術転用については、まずはJRグループ内での活用を目標としており、外販はさらに先の課題であると位置づけています。

建設業界におけるデータ活用と今後のプロダクト改善

横山(審査員):配筋業務の効率化によって、新しい価値創造のきっかけになった、というのは非常に重要ですね。ベテランの職人の方々が別のところに頭を使ってイノベーションが起きる、もしくは、ベテランでなくても、職人でなくても、若手も同質の仕事ができるようになった、など「削減・効率化」ではなくて、何か「向上」したことがあれば教えてください。

Arent鴨林氏:配筋業務の効率化、データ化、システム化により、ベテランの職人だけでなく、若手の人々もナレッジを活用して同質な仕事ができるようになり、新たなイノベーションや、価値創造が生まれる可能性も大いにあると見込んでいます。

例えば設計プロセスと施工プロセスとを比較してみると、施工の方がより多くの人手が必要であり、人材のマネジメントやリスク管理も難しいと言えます。そういった、よりリソースが必要なところに工数を割けるようになります。

また、配筋プロセスの自動化により、複数の設計案を作成してお客様に提案することも可能になりました。お客様に向けて、より数多くの選択肢を提供できるようになったと言えます。

今後も、データの活用や、ドメインエキスパートと言われる方々と共に議論しながら、プロダクトをどんどん改善していくことに、引き続き取り組んでまいります。