DX事例

自動車事故からの復旧を早期化 -画像認識AIを現場で駆使する全社トランスフォーメーションと保険業界エコシステムの革新への道筋-|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月19日に行われたBX(ビジネストランスフォーメーション)部門 決勝大会では、デジタル化の波がビジネスのあり方を大きく変えている現代において、既存のビジネスモデルを根本から見直し、革新的な形で事業を展開している企業や組織による事例が発表されました。

この記事ではその中から、画像認識AIを現場で駆使し、自動車事故からの復旧の早期化に取り組んでいる損害保険ジャパン株式会社とTractable株式会社の事例をご紹介します。

損害保険ジャパン株式会社の概要

■法人名:損害保険ジャパン株式会社
■事業内容:損害保険事業、生命保険事業
■設立:1944年 2月12日
■公式Webサイト:https://www.sompo-japan.co.jp/

Tractable株式会社の概要

■法人名:Tractable株式会社
■事業内容:画像認識AIソリューション
■設立:2014年
■公式Webサイト:https://tractable.ai/ja

自動車事故からの復旧を早期化する画像認識AIの活用

損害保険ジャパン株式会社 酒井氏:

損保ジャパンとTractableで取り組んでいる、自動車事故からの復旧を早期化する、画像認識AIを現場で駆使した全社トランスフォーメーションについてご紹介させていただきます。

損保ジャパンとTractableは、自動車事故からの復旧を早めるために、画像認識AIを活用するプロジェクトを推進しています。

AIの導入により、車の価値と損傷具合を瞬時に把握できるため、技術アジャスター(損害保険の加入者が事故に遭遇した際に、事故車両の損傷状態、損害額、事故の原因や状況などの調査を行い、ときには示談交渉にも加わって、迅速かつ円満な解決をサポートする仕事)の見積もり作成時間の削減に貢献しています。

事故に遭われた方に対する早期の保険金支払いが可能になり、お客さまや担当者、技術アジャスターからいずれも好評の声を得ています。

また、このAIソリューションを体験した現場担当者からは、さらなる利用を希望する声が上がっているという状況にあります。

AIで、ビジネスプロセスが大きく変革

損害保険ジャパン株式会社 酒井氏:

従来の自動車事故対応プロセスでは、修理工場に車を入庫してから損傷状況を確認し、全損の連絡を行っていましたが、AIソリューション導入後は即日全損判定が可能になり、お客さまを保険金の支払いまで長らくお待たせする必要がなくなりました。

Tractableの画像認識AIを使用することで、修理工場のスタッフがスマートフォンで写真を撮影し、わずか1分で全損の判定ができます。

このような技術により、数年前では全く想像すらできなかったエフォートレスな顧客体験を提供することができるようになりました。

弊社の担当者はTractableのシステムに登録をして、AIによる判定結果に基づいて迅速にお客さま対応を行うことが可能となり、ビジネスプロセスが大きく変革されました。

Tractable株式会社 山本氏:

弊社のプロジェクトでは、本社ロンドンのプロダクトマネージャーが損保ジャパンの南東北拠点など、現場にどんどん足を運んで、ユーザーの声を直接お伺いすることを重視しています。現場訪問におけるユーザーとの対話を通じて、継続的にプロダクトへ改善を反映させるようにしています。

また、損保ジャパンの全社トランスフォーメーションを目指し、プロモーションビデオの作成やデータ活用に関する講義も実施しています。

先進技術の導入・全国展開に向けた体制づくりの工夫

損害保険ジャパン株式会社 酒井氏:

AI判定アプリ開発にあたっては、他国向けの既存アプリを転用することで、早期にパイロット開始にこぎ着けることができました。

現在では損保ジャパンの7拠点においてパイロット運用を行っており、2023年5月末時点で640件の事案で、AIによる全損判定が行われています。

このような先進技術が、全国一律で浸透するということは、残念ながら現実的ではありません。実際、パイロット運用スタートの際には一つの現場拠点(損保ジャパンの南東北拠点)が牽引し、そこから他の拠点も追随する状況になっています。

このような新しい取り組みを現場に定着させ、全社トランスフォーメーションを実現するには、このAIソリューションのファンとなるユーザーや拠点を見つけることが非常に大切だと考えています。

パイロット運用完了後は、7拠点から20拠点へ、およそ30倍の規模に拡大する予定でおります。

我々は、このAIソリューションを通じて、弊社の2000万人のお客さまに、最高の商品価値とブランドを体験していただきたいと考えています。

今後も 損保ジャパンとTractableはお客さまを第一に考え、自動車事故や自然災害という社会 課題を解決すべく新たな価値創造に邁進してまいります。

AIの判定精度は損保ジャパンの技術アジャスターと同等水準に。今後の展開は?

横山(審査員):

デジタル技術を使ってどのように新しい価値を生み出すか、が大事ですね。そのためには絶対人間が動かなくてはなりませんよね。社内に先端技術を導入すること、理解、浸透、啓蒙のプロセスはいかがでしたか?

酒井(審査員):

1年で640件の成果が出てるとのことですが、AIによる判定とは、どれくらい精度が高いものなのでしょうか?

損害保険ジャパン株式会社 酒井氏:

パイロット運用開始以降、AIソリューションの利点が明確になり、社内に安心感が広がっていると感じています。AIの判定精度は損保ジャパンの技術アジャスターと同等の水準に達しています。

Tractable株式会社 山本氏:

AIによる判断はいつどのような状況でも常に一貫しており、そのうえで、もしも人間の判断と異なる場合には専門家に相談する仕組みも構築しています。

損害保険ジャパン株式会社 酒井氏:

AIの利用により、作業スピードは大幅に向上し、1日に処理できる件数を増やすことにも繋がっています。AIの活用範囲はまだまだ限定的だと言えるものの、全国の200以上の拠点で利用できるようになれば、お客さまへのサービス提供が迅速になります。

正能(審査員):

​​ヒトが事故車両の全損判定を行う以上に、DX化した方がいい、質として深く活用できる、といったケースに当てはまった、ということでしょうか。

Tractable株式会社 山本氏:

自動車事故の全損判定というユースケースは、本当に世界最先端の事例であり、日本を皮切りに始めている取り組みとなります。

弊社Tractableは、他国でも保険会社様とお付き合いさせていただいており、同様に画像から車の損傷判断をAI判定していく、といった事例もあります。ただし、その国々によって保険の使われ方や、保険会社のオペレーションの方法によって、ユースケースはかなり異なってきます。

日本においてはこの全損判定という活用方法が最もフィットしていて、そのビジョンにおいて損保ジャパンと認識が合致しています。

奥谷(審査員):

Tractable株式会社さんのAI判定サービスは、今後他社さんへも展開可能なのでしょうか?

Tractable株式会社 山本氏:

今後他社さんに対しても同じようにサービス展開していくことも可能ではないかと考えております。

我々と損保ジャパンさんとで認識しているビジョンとしては、このソリューションから業界全体、例えば、修理工場、自動車ディーラー、レッカー業者など、これらを一括りにしたエコシステム全体をしっかりと巻き込んでいきながら、最終的にはお客さまのお支払いへの早期化というところにつなげていきたいと思っています。

よって、やはり他社さまに対してもサービス展開をしていくことも、非常に有意義なのではないかと思っております。