DX事例

ユーザーエクスペリエンスを中心に:鈴花が取り組む着物屋のDX|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月20日に行われたUX(ユーザーエクスペリエンス)部門 決勝大会では、デジタルトランスフォーメーションの中心にユーザー体験を置き、顧客体験や従業員体験向上、DX推進によりユーザー満足度とエンゲージメントを高めた事例が発表されました。

この記事ではその中から、モノを売る企業から体験を提供する企業に進化を遂げた、株式会社鈴花の事例をご紹介します。

株式会社鈴花の概要

■法人名:株式会社鈴花

■事業内容:呉服・宝石などの仕入れ・販売

■設立:1975年(昭和50年)

■公式Webサイト:https://www.suzuhana.co.jp/

鈴花グループの歴史 – 創業から現在まで

株式会社鈴花 有田: 

皆さんは着物屋さんにどんなイメージをお持ちでしょうか?

私たち鈴花グループは、明治33年に森呉服店として創業、今年で123年目を迎え、佐賀市をグループ本社として西日本全体で直営店舗を約80軒展開し、着物の販売を中心に宝石やバッグなども取り扱っています。

近年、私たちは着物販売にとどまらず、着物の魅力を広めるために、自社でイベントを企画し、多くのお客様に着物を着る体験を提供しています。

さらに、「いい和服の日」として設定した10月29日は、日本記念日協会の認定を受け、毎年多くの方々に和服を楽しんでいただくイベントを推進しています。

社員の平均年齢が61歳、お客様の平均年齢が69歳という中で、ITとは一見関係が浅いように見える私たちの業界でも、DX(デジタルトランスフォーメーション)が可能であることをお伝えしたいと思います。

DX実現のために行ったプロジェクトの3つの柱

株式会社鈴花 井上:

DX実現のために、当社は3つの主要プロジェクトに取り組んでいます。1つ目が新たな顧客体験を創出するデジタル活用、2つ目が顧客ニーズに寄り添うコミュニケーション設計、そして3つ目が社内でのアプリ開発とデータ分析に向けた内製化です。

新たな顧客体験のためのデジタル活用

株式会社鈴花 有田:

1つ目のプロジェクトとして、私たちは「和服らいふ」というアプリを開発・リリースしました。

デジタルクローゼット機能を通じて、顧客は自分が所有する着物を簡単に確認できます。更に、着物や帯の写真を撮りカテゴリ分けして登録することができ、自分好みのコーディネートも保存可能です。さらに、コーディネートに悩んだときは、LINEを使って相談することもできます。

また、2023年6月からは、アプリで着物を登録し、同時にクリーニングと保管サービスを提供する新規事業を開始しました。これにより、どの着物を預けているのかわからなくて不安だった顧客の声に応えることができるようになりました。今後、この新規事業をさらに拡大していく予定です。

顧客に寄り添うためのコミュニケーション設計

株式会社鈴花 有田:

次に、鈴花公式LINEアカウントを開設し、顧客との直接的な関係を構築しました。これにより、店舗やスタッフが変わったときでも運用が止まることなく、全ての顧客に情報を正確かつタイムリーに提供できるようになりました。

内製による社内アプリ開発とデータ分析

株式会社鈴花 井上:

そして最後に、内製による社内アプリ開発とデータ分析についてです。Microsoft Power Platformを活用して、お客様情報のデジタル化を進めています。これにより、お客様情報が営業社員の手帳や記憶の中に閉じ込められることなく、会社の資産として活用できるようになりました。

また、データ分析にはPowerBIを使用し、お客様により良い体験を提供し、離反を防ぐための策を講じています。売上分析だけでなく、社内アプリでの登録情報やオンライン接点情報の分析を加えることで、より具体的な提案をお客様に提供することができるようになりました。

株式会社鈴花 有田:

プロジェクト運営体制としては、DX推進室を設立しました。組織全体を横断する形で情報を共有し、協力しながらプロジェクトを進めています。さらに、DX推進室の主導でITツールの社内勉強会を定期的に開催。これにより社内のITリテラシーを向上させ、DX人材の育成にも力を入れています。

DXの本格運用開始後、売上が上昇

株式会社鈴花 有田:

2023年1月からDXの本格運用を開始した成果として、売上が上昇しました。2020年3月のコロナ第1波以降、年々売り上げが減少していましたが、今年の1月から4月の売上は前年比を上回ることができました。お客様とのオンラインでの接点を強化した結果、特にLINEでのコミュニケーションが増加し、LINE顧客の売上前年比は113%に。

私たちは、DXの社会的な意義として、高齢の社員やお客様がデジタルツールに対する抵抗感を克服し、デジタルライフを楽しむ手助けをすることを重要な役割と捉えています。

今回のDX推進を通じて、社会全体のDXへの貢献を目指してまいります。

全体で業績アップ、各販売員の固定給アップも目指す

前刀(審査員):

非常に興味深い取り組みですね。ビジネスのやり方として、合理化されていると感じますが、ベテランの販売員の方々の給与は歩合制なのでしょうか?その辺りの工夫があるのか教えていただけますか?

株式会社鈴花 有田:

はい、確かに、固定給とは別に売り上げによる給与の変動はあります。

ですが、担当販売員が休む、あるいは退職すると、その顧客データが失われ、顧客も離れていく問題がありました。そこで、顧客情報をデジタル化し、店舗の従業員全員で情報を共有できるような「顧客電子カルテ」を考えました。

前刀(審査員):

なるほど、それで情報が共有化され、売り上げの偏りがなくなるわけですね。しかし、歩合制の部分で収入が減る人が出てくるのではないかと思うのですが、どうでしょうか?

株式会社鈴花 有田:

確かにその点は考えられますが、販売員が担当する顧客は変わらず、売上も大きく減ることはありません。今回のシステムでは、お店全体で売り上げをみんなで作るという方向性を目指しています。

前刀(審査員):

なるほど、だとすると、全体の業績が上がれば、それぞれの固定給も上がるわけですね。そうすれば、販売員も結果的には満足するということですか?

株式会社鈴花 有田:

はい、その通りです。

前刀(審査員):

それは面白いですね。それについて、お客様側のデジタルリテラシーはどうなのでしょうか?特に高齢のお客様にも使いやすいインターフェース等、何か工夫があるのでしょうか?

株式会社鈴花 有田:

当社のアプリは、お客様の年代を意識しています。文字の大きさや画面遷移の使いやすさなどを、ベンダーと共に工夫しています。

前刀(審査員):

それは素晴らしいですね。店頭で販売員が新システムの使い方を教える、というようなケースもあるのでしょうか?

株式会社鈴花 有田:

はい、それが現在ではほとんどのケースですね。それが新たな接点となり、お客様との関係作りに利用しています。

オンライン顧客体験のさらなる充実を目指す

鈴木(審査員):

今後の展開として、どのようなことを考えているのか、お聞かせいただければと思います。

株式会社鈴花 有田:

これからさまざまなアプリやLINEを通じてお客様のデータ蓄積が進む見込みです。それまでは、顧客が何を買ったかという売上データだけでしたが、これからは顧客の興味や嗜好などもアンケートを通じてデータ化します。その情報を基に、例えば、特定の趣味を持っているお客様には関連する通知を送るなど、オンラインならではの活動を目指しています。

鈴木(審査員):

その仕組みは非常に有用ですね。デジタルトランスフォーメーション(DX)に困っている他の企業にも適用できると思いますが、この仕組み自体を他社に提供するという考えはありますか?

株式会社鈴花 有田:

現状ではまずは自社での成功事例を作ることを考えています。この仕組みは小売業界で、販売員がお客様を持つという業種には適用できると思います。ただ、それをいつから他社に展開するかという具体的な計画はまだまとまっていません。

DXによって顧客層は変わったのか?それとも顧客自身が進化したのか?

司会:

視聴者からのご質問も紹介いたします。「DXによって顧客層は変わりましたか?それとも顧客自身が進化したということでしょうか?お教えいただければ幸いです」とのことです。いかがでしょうか?

株式会社鈴花 有田:

実は両方とも当てはまります。以前からの長年のお客様には継続的にお付き合いしていただいています。そういったお客様がスマートフォンにアプリをダウンロードしたり、初めてLINEをダウンロードして友達になったりする例もあります。また、新たなツールの存在によって、若い世代のお客様が増えるという現象も確認しています。データからもその傾向が見えています。ですので、答えとしては、顧客層が変わったとも、顧客が進化したとも言えるでしょう。

司会:

ありがとうございました。