DX事例

地域コミュニティのDX事例:「GOKINJO」が示す新たなつながりの創出|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月20日に行われたUX(ユーザーエクスペリエンス)部門 決勝大会では、デジタルトランスフォーメーションの中心にユーザー体験を置き、顧客体験や従業員体験向上、DX推進によりユーザー満足度とエンゲージメントを高めた事例が発表されました。

この記事ではその中から、マンション入居者限定のSNSプラットフォームを立ち上げ、現代社会のご近所づきあいにリアル×デジタル技術で「つながる」価値を創出している、株式会社コネプラの事例をご紹介します。

株式会社コネプラの概要

■法人名:株式会社コネプラ

■事業内容:コミュニティ醸成支援、マンション運営支援、アプリ開発・OEM受託開発、コンサルティング

■設立:2022年4月1日

■公式Webサイト:https://conepla.co.jp

はじめに

コネプラ 根本:

株式会社コネプラ マーケティングディレクターの根本です。私たちは創業時から自分ごととして課題に向き合うことを大切に、ユーザー体験やユーザー価値の向上に取り組んでいます。

大企業発ベンチャーの立ち位置を活かし、企業のアセットを活用しつつ、ベンチャーと して他社との協業にも積極的に取り組んでいます。

 本日はその戦略や成果、DX /UXへの取り組みについてご紹介いたします。 

ご近所づきあいの障壁を低くするサービス「GOKINJO」

コネプラ 根本:

まず、株式会社コネプラの「GOKINJO」について説明いたします。

私たちコネプラは、「人と人とのちょうど良いつながりを作り、暮らしと社会を豊かにすること」をコンセプトに掲げ、2022年4月に旭化成グループからスピンオフしたベンチャー企業です。私たちは、マンションや地域コミュニティに特化したサービス「GOKINJO」を提供しています。

このサービスの発想の源は、マンションで子育てをしている社員たちの経験にあります。

たとえば、同じ年齢の子どもを持つ人と情報交換したい、あるいは不要だけど捨てるにはもったいないものがある、というような日々の課題を自らが経験していました。また、子育てに関するローカル情報がネットに載っていないこともあり、人付き合いが苦手な人が取り残されることも感じていました。

これらの課題から、「GOKINJO」では交流の障壁を低くし、さまざまなつながりのきっかけを提供することに焦点を当ててプロダクトをデザインしています。デジタルとリアルを組み合わせて、マンションや地域で適度なご近所付き合いができるコミュニティを創出します。住民同士で情報交換したり、モノのシェアリングができるスマートフォンアプリや、交流のきっかけを作るイベントの開催などを通じて、住み心地を向上させ、防災力や資産価値の向上も支援します。

「GOKINJO」は、登録コードを使用した認証システムを開発し、居住者だけが利用できる信頼できる空間を創出しています。代表的な機能は以下の3つです。

1. 居住者間で情報を共有できる「情報交換」機能

2. 不要なものをシェアできる「お譲り」機能

3. 相互支援を促進する「お助け」機能

さらに、理事会運営などをサポートする管理機能も提供しています。

「GOKINJO」の4つの戦略

コネプラ 根本:

「GOKINJO」の戦略を4つに分けて説明いたします。

1つ目は、デジタルとリアルを連動させた戦略的な仕掛けの構築です。世の中には、インストールされても結局使われないアプリが多数存在します。

私たちの目指すところは、デジタルとリアルの連動によって、継続的にアクティブなサービスを展開することです。リアルな世界でイベントを開催し、顔見知りとなるきっかけを提供する一方で、デジタルの世界では、ユーザー自身が活動することを奨励し、持続可能なコミュニティ形成を支援します。例えば、アプリ上で無農薬野菜の共同購入に関するイベントを告知し、現地でのイベント開催を行います。その後、参加者が自分たちの感想や料理の写真をアプリ上で共有するといった連携が取られています。

2つ目の戦略は、自社でアプリを開発すること。ユーザーヒアリングやデータ分析を基に、最適なUI/UXを提供するために、アプリ開発は自社内で行っています。特に、直感的に理解できるUIデザインを心掛けており、シニア向けの機種でも確実に利用できるように、検証と改善を繰り返しています。

3つ目はマネタイズです。コミュニティ領域は収益化が難しいとされていますが、私たちは新築マンションのシステムを開発者向けに展開するモデルを構築し、創業初年度から一定の収益を確保できる体制を整えました。

最後に、4つ目は大企業とベンチャーの融合です。私たちは、旭化成からスピンオフしたという特性を活かし、グループ内のさまざまな資源を利用しています。具体的には、グループ内企業とパートナーシップを組んで実証の場を確保し、収益基盤を構築しました。さらに新たなパートナーを得る際には大企業の信頼性を活かしました。一方で、ベンチャー企業としてのスピード感と柔軟性も重視し、スモールチームで素早い意思決定を行い、アプリのアジャイル開発や開発者・管理会社との連携にも積極的に取り組んでいます。

「GOKINJO」が達成した成果

コネプラ 根本:

私たちが達成した成果についてご紹介します。

創業1年目に設定した目標は、採用棟数と受注金額において、大幅に上回る結果を出すことができました。また、ユーザーアンケートにより、当初の目標を大幅に上回る、89%の満足度を得ることができました。

現在のユーザー数は約2600名で、幅広い年代の方々に利用されています。特に注目すべきは、60代以上のユーザーも全体の24%を占めているという点です。このような多様な年齢層からの利用が実現しているのは、私たちのUI/UX設計の成果を示しています。

そして、導入中の9つの物件において、月間アクティブ率は平均79%を達成しました。これは、ユーザーにとって使い続けられるアクティブなアプリを開発できた証と言えます。

コネプラの組織体制について

コネプラ 根本:

ここでは、私たちの組織と採用について説明します。

当初、私たちは旭化成グループのベンチャー企業としてスタートしましたが、CTOは外部から参加し、新たな組織作りへ挑戦しています。DX、法務、知財などの部門では、旭化成の優秀な人材を活用しています。例えば、知財戦略など、一般的にベンチャー企業が弱みとする部分も強化しています。また、アプリの開発においても、一部のコーディングは海外のオフショアリソースを利用するなど、組織の枠にとらわれず、最適な人員を適切なポジションに配置し、最適な組織体制を整備しています。

次に、私たちが独自にスタートしたユニークな採用の取り組みを紹介します。一つ目は、社内副業制度です。旭化成に対して新たな社内副業制度を提案し、実装しました。これにより、手を挙げて参加したいという意欲的な人材が参画できる仕組みを構築しています。二つ目は、私たちの取り組みやGOKINJOのプロダクトに共感してくれたユーザーが副業としてコネプラに参加するという制度です。これらのユーザーは、エバンジェリストとなり、GOKINJOの市場浸透に寄与しています。

コネプラのビジョンと、今後目指している3つの主要な取り組み

コネプラ 根本:

ここでは、コネプラのビジョンと、私たちが目指している3つの主要な取り組みについてお話します。

1つ目の取り組みは情報のデータベース化です。GOKINJOは、マンションの管理情報だけでなく、コミュニティ活動のデータベース化も進めています。この情報蓄積は、共通の資産として育て上げ、今後の街やマンションの健全な管理、資産価値の維持・向上への取り組みを強化します。

次の取り組みはビッグデータの活用です。利用者のデータを集約し、ユーザーニーズや興味・関心を分析することで、例えば、マンションの設備やメンテナンスに関する顧客ニーズを理解し、適切な提案を行うことで、満足度を向上させます。従来、居住者のニーズの調査は主にアンケートという形で行っていましたが、今後はGOKINJOを通じて、インサイトの把握から新しい価値提供まで行っていきます。既に、この取り組みを始めるための研究機関とのパートナーシップも始まっています。

3つ目の取り組みは、町・地域・自治体への展開です。現在、佐賀県の築30年の戸建て分譲地でトライアルを行っています。60代以上のユーザーが7割を占めていますが、月間アクティブ率は8割以上です。デジタル化された掲示板を通じて、朝市などのタイムリーな情報を共有できるようになりました。1週間あたりの投稿数は約100件で、ニックネームと匿名の使い分けにより、多世代間の交流が盛んに行われています。

これらの取り組みを通じて、街や都市の課題を解決し、デジタル技術を活用して適切なつながりを作り出すことが、私たちの使命です。日本の各地域のつながりの課題を解決することを目指し、GOKINJOは地域社会のデジタル化、デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、引き続き取り組んでいきます。

オンライン場でのつながりだけでなく、リアルでのつながりにも変化が現れた

前刀(審査員):

このGOKINJOを導入した結果、ネット上のつながりが活性化しましたが、このシステムによってリアルの関係性、具体的にはマンション内のイベントなどへの影響について、何か変化はありましたか?

コネプラ  根本:

確かにその影響は見受けられます。一つ目の例として、物の譲り合いを通じて新たなつながりが生まれるケースがあります。例えば、ストライダーのような子供用の三輪車を譲り受けることで、同じ年齢の子供を持つ家族同士が接触し、家族全員での付き合いが始まるといった話も聞きます。

また、先ほど出ていたエバンジェリストの例もあります。彼らが自らイベントを企画し、例えば「来年小学校1年生になる我が子と同じ学年の子供がいる家庭で集まりませんか?」という提案を行い、共有施設のパーティールームで集まりを開くなど、GOKINJOを通じて新たなつながりを築くことができています。

そして最後に、ランニンググループの例があります。本当に些細な話から始まりました。ある方が「自分が走っているおすすめのコースを教えてほしい」と投稿したことから、他の人が「自分が走っているコース」を投稿し、それがきっかけで一緒に走ることになったりという話です。そして、その小さなグループは次第に成長し、年齢や性別を超えたつながりが生まれ、コミュニティが広がっていったのです。

前刀(審査員):

インターネットによるつながりが、リアルのコミュニケーションを容易にし、そのネットワークが広がっていく様子はとても興味深いですね。このような動きが更に広がり、皆さんが住みやすい環境を作る手助けになればと思います。

「GOKINJO」の2つの収益源

鈴木(審査員):

現代の社会で人々のつながりが希薄になっていることを考えると、コネプラさんのサービスは非常に価値があると感じます。さて、ビジネス面についてお聞きしたいのですが、サービスは既に収益化されているのでしょうか?

コネプラ  根本:

はい、私たちのサービスは収益化しております。具体的には二つの収益源があります。一つ目は、新築マンションの開発業者から初期導入費用を頂戴しています。私たちは開発業者に対して、購入者に付加価値を提供する形でマンションの価値を高めるためのサービスを提供しています。例えば、マンションの共用部分を活用したイベントの開催や、屋上ガーデンで取れた野菜を使った料理教室の開催など、物件の共用スペースを最大限に活用する提案を含むことがあります。

二つ目の収益源は、管理組合の全体管理費としてメンテナンス・維持費をいただく形です。これは実際の居住者から頂戴することとなります。

1万ユーザー獲得を目指す

鈴木(審査員):

目標として設定しているアプリの利用者数や、ユーザー獲得数について教えていただけますか?

コネプラ  根本:

年間の目標としては、マンションや自治会を対象として約1万人のユーザーを獲得することを目指しています。これは具体的には物件数で言うと20~30物件に相当します。

鈴木(審査員):

それは素晴らしいですね。サービスが広がれば広がるほど、より多くの情報が集まり、有用性が増すと思います。このサービスのさらなる発展を期待しています。

アプリインストールのハードルへの対処は?

司会:

視聴者からの質問も、読み上げさせていただきます。

「引っ越してきたばかりで、近隣にどのような人々が住んでいるのか、近い年齢の子供を持つ家庭があるのか、児童館があるのか、地域のイベントや通わせる予定の学校の情報など、不明なことが多い状況でコミュニケーションを取る難しさを感じています。そんなときにこのアプリが非常に助けになると思いますが、一方でアプリのインストールを断られる、またはそれをしないユーザーへの対応はどのように行われているのか?」という質問です。コネプラさん、この点について何かお答えできますか?

コネプラ  根本:

はい、ありがとうございます。私自身も中古マンションを購入してから入居したため、地域情報を得るのに困難を感じていました。まさに私たちのサービスが解決しようとしている課題ですね。

アプリのインストールを断るケースはあまり多くはありませんが、使っていただけていない方の理由は大きく2つに分けられると思います。

一つ目は、シニア世代の方でスマートフォンを持っていないか、アプリのインストールに技術的・スキル的な難しさを感じている方がいます。この点については、パソコンでも使えるWEB版の開発を進めています。

もう一つは、近所との交流を煩わしいと感じ、そうしたコミュニケーションを避けたいと考える方がいるということです。これに対しては、我々のサービスが提供する管理機能や、防災情報、理事会や管理会社からの連絡など、コミュニティ以外の機能を活用いただくことを提案しています。

また、シニアの方々へのサポートとして、私たちが現地でサポートデスクを設け、使い方を説明するなど、できるだけ多くの方に使っていただける環境を整えることに努めています。