日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2023年6月22日に開催された人と組織部門では、組織および従業員の成長とデジタルへの適応のために取り組んだリスキリングや組織の変革、人材育成などの事例から優れたプロジェクトを選んで表彰しています。
この記事ではその中から、人材をコアに据えてDXに取り組んでいる都城市の事例をご紹介します。
全国でも類を見ない、カルテット体制によるDX推進
都城市 佐藤氏:都城市では、デジタルを司る専門部署として企画部門にデジタル統括課を、全部局が同じベクトルを向いてデジタル化推進を図る体制として、全部局長級で構成しているデジタル統括本部をそれぞれ設置しています。デジタル統括本部では市長からのメッセージを部局長に対して繰り返し発信している他、専門部会やワーキンググループにおいては実務者で実務的な課題を検討しており、上からも下からもデジタル化を推進する体制が出来上がっています。
各部局の中心を担う総括担当は、デジタル化推進担当という形で任命をしました。企画全般を担う総合政策課にも、各部局に政策企画担当という形で人員が配置されています。この総括担当と政策企画担当に、デジタル統括課、一般的には政策推進に加わることがないと言われる財政課を加えたカルテット体制を構築して強力にデジタル化を推進しています。
カルテット体制は事業を高質化する役割も担っています。具体的には進捗が芳しくない部局の個別フォローの実施、企業などからの実証事業の検討、交付金等の申請書作成などを行っています。なかでも、2023年度のデジタル田園都市国家構想に関しては、全6事業合計9億円ほどの交付金を獲得しております。
デジタル統括課には、技術職員(土木技師)を配置しています。この職員の現場経験をもとに、さまざまなデジタル事業が立案されています。
市長がCDOになることで、デジタル化への強力なメッセージを発信
都城市 佐藤氏:都城市人材育成基本方針と都城デジタル化推進宣言2.0が連動し、都城市DX推進計画に大きく寄与しています。デジタル化を推進するにあたり、デジタル化の指針として次の項目を定めています。他の政策推進においても、参考になる考え方として全庁的に広がっています。
- デジタル化は目的ではなく手段
- デジタル化は市民目線で
- 非効率をデジタル化しない
- ルール変更を前提で取り組む
- 完璧を求めない
令和3年度にこのプロジェクトが始まったとき、5年間で新規のデジタル関連100事業を実施する計画を立ててましたが、約半分の期間で94事業を達成しました。マイナンバーカードを使ったオンライン申請、国のマイナポータルを利用した手続きは約300あり、都城市DX推進計画実現の大きな後押しとなっています。
市長がCDO(最高デジタル責任者)になることで、デジタル化を推進するという強いメッセージを発出するとともに、公務員という文化の中でトップ自らトライアンドエラーの考え方を示し、組織全体のチャレンジ精神を育てることでデジタル化を推進してくれています。また、補正予算なども含めて年間を通した新規事業へのチャレンジができています。
京セラの稲盛和夫さんが作られたフィロソフィという考え方を、「都城フィロソフィ」として策定し、人材育成の指針に導入しています。公務員は「地域や市民に貢献したい」という強い思いを持って入庁しても、失敗してはいけないという思いから前例踏襲に閉じこもってしまいがちです。地域のため、市民のためにという入庁時点の姿勢を思い出す心のリカレント教育、公務員が新しいことにチャレンジすることで心のリスキリングにもそれぞれつながっていると考えています。
デジタル推進体制を活かすための人材育成にも取り組んでいます。デジタルに関連した階層別研修、外部講師研修だけでなく、ナッジやサービスデザイン、ロジカルシンキング、ソーシャルマーケティングなど、デジタルと直接関係ないけれども知っているとデジタルが進む研修に関してもデジタル統括課主催で行っています。PR TIMESなどの活用により積極的な広報を実施したり、DX大賞のようなコンテストへ応募したりして、庁内のデジタルに関する機運醸成を図っています。
地方が元気になる一助として、デジタル化へのチャレンジを継続
都城市 佐藤氏:やはり縦だけ横だけというのはどこかで限界が来るので、縦軸と横軸、両串を刺すところも非常に重要です。実施主体はあくまでも職員なので、推進のコアに職員を位置付けることによって継続してデジタル化を推進できていますし、新規事業などで育った人材がデジタル以外の分野でも活躍する好循環も生まれています。
財政課は市の財政部門を担っているだけでなく、事業主体の部局の次に事業内容をよく知っている課です。そういった課の知識と能力ある人材を政策推進に活かしていこうというのが本プロジェクトの肝で、実際に非常によい効果を生んでいます。またこの取り組みは大きな予算を要するものではないため、横展開が容易です。実際に他の自治体から我々の取組を視察いただいており、自治体DX推進の道標として他の自治体にもノウハウを提供しています。
都城市はただデジタルだけ、マイナンバーカードだけの自治体を目指しているわけではございません。DX推進のためのプロジェクトが組織全体に影響を与え、都城市の成長につながると考えているので、デジタル化へのチャレンジで組織を強化していきたい。我々のような地方の自治体でできたので他の自治体でもぜひ挑戦していただきたい。地方から日本を元気にする一助として、地方発の好事例として今後も積極的に情報発信していきます。
デジタル化は市民とともに進む姿勢を大切に
岩本(審査員):住民の声ってどんなのが上がってるんでしょうか。
都城市 佐藤氏:課題を中心にデジタル化を進めていこうとしているので、デジタル化の事業を作るために市民からの声を聞くことをかなり意識しております。デジタルを市役所が使う事例を広報誌などで紹介したり、特にご高齢の方が抱くデジタルへの不安感に対しては世界最高齢プログラマーの若宮先生の特集などを組んだりして、市民の皆さんにご理解いただけるよう意識して伝えていますので、デジタルに対して比較的市民の期待も高いと考えております。
野水(審査員):市民向けの事業で、一番の成功事例があったら教えていただきたいです。
都城市 佐藤氏:最近のスマッシュヒットでいうと、ふるさと納税とマイナンバーカードを組み合わせたワンストップ特例申請のデジタル化の一環としてリリースした、「IAM(アイアム)」というアプリがご紹介できるかと思っております。今までマイナンバーカードのコピーなどを入れて投函していただいたものをマイナンバーカードで2回暗証番号を入れていただくだけで完了できるアプリで、半年ちょっとで130万ダウンロード、他の自治体へも今250ぐらい横展開しており、どちらかというと市民以外への提供が多いところではあります。
野水(審査員):市長さんってデジタルに詳しいですか。
都城市 佐藤氏:これは市長自らデジタルには詳しくないと申し上げています。その分、本当に市民のためになるのか、本当に市民が使いやすいものになるのかをデジタル化の判断の際に自ら触って最終判断を下しています。デジタル化を進めたいというよりも、市民のための施策を打ちたいという強い思いからデジタル化を後押ししていただいているようです。
志水(審査員):研修をして終わりっていう組織が非常に多い中で、研修の時間をどう確保したのか。研修を受けた後にこの土木技師さんのように新しい職種に異動したであるとか処遇が変わったとか、その後の人材マネジメントに育成をした成果みたいなのを繋げていかれているのでしょうか。
都城市 佐藤氏:研修は基本時間内で実施していて、可能な限り職員の負担が少ない形での実施を模索しています。デジタル以外にも研修はありますし、消防署や支所、水道局などの機関に出向くことも多いので、できる限りPowerPointや動画を時間内に観ていただくようにしていますが、ワークショップが必要なサービスデザイン研修、意識醸成やマインドアップに関しては実地で行っています。研修後の人事処遇に関しては、デジタルに関して土木技師以外に実際に他の職種からの鞍替えが出てきてるわけではないんですけれども、各部局に置いている総括担当に関してはデジタルについて学んでいく体制も整えており、研修の受講履歴も残るようにしているので、人事考課に活かされていくと思っております。