DX事例

エン・ジャパン株式会社のDX推進事例:非エンジニアのメンバーによるノーコード開発と組織変革の成功

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2023年6月22日に開催された人と組織部門では、組織および従業員の成長とデジタルへの適応のために取り組んだリスキリングや組織の変革、人材育成などの事例から優れたプロジェクトを選んで表彰しています。

この記事ではその中から、5年で売上を4倍にするという事業目標を掲げ、非エンジニアのメンバーからDX人材の発掘と育成を行ったエン・ジャパン株式会社の事例をご紹介します。

概要

■法人名:エン・ジャパン株式会社

■事業内容:インターネットを活用したHR Techプロダクト、求人/求職メディア、人材紹介サービス、活躍/定着支援サービスの提供

■設立:2000年1月14日

■公式Webサイト:https://corp.en-japan.com/

事業部の中に設けたDX推進組織がノーコードツールを使うことで生まれた、さまざまな成果

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:私は現場の叩き上げの人材です。2016年に企画職に 異動し、ゼロからデジタルを学びました。私自身をリスキリングしながら、事務職や営業職といったメンバーを業務変更や異動、社内公募で募り、DX組織を作りました。私含めメンバー全員非エンジニアです。育成の型ができたので、現在は未経験者を採用・育成しています。

エン・ジャパンではリーマンショック以降かなり長い期間売上が低迷しました。ここから脱するためにメイン事業であるエン転職をリニューアルし、5年で売上を4倍にするという事業目標を掲げました。当時はフロントオフィス側とバックオフィス側とのやり取りに時間がかかっていました。そこで事業部の中に「ミドルオフィス(DX組織)」を作り、フロントオフィス側がやりたいことを高速でカタチにする。加えて、DX組織が、バックオフィスや情シスの翻訳を担う。そうすれば、皆さんの実現したいことができるのではないか。ここを組織のデザインとして考えました。

多くの業務改革を進めるには、企画人材がたくさん必要でした。改革初期に非エンジニアの抜擢を事業部長が決定しました。では、どういう人材をピックアップして、どう育成するか。まず弊社で開発・運用している「適性テスト」を使って、主体的に動いて論理的に仮説検証を繰り返していける人材を抜擢していきました。

次に育成です。DX人材に求めるスキルの定義を決めました。問題解決のスキル、現場との対話スキル、専門スキルという3つのスキルのうち、特に重視したのが「問題解決」や「現場と対話する能力」です。DXではどれだけ優れたテクノロジーを入れても、現場が動いてくれないと変わりません。またツールはどんどん変わっていきます。ChatGPTをはじめいろんなツールが出てくるので、どんなツールでも使える人材を育てたい。研修を内製化し、しっかり基礎の「問題解決」を鍛える。これも、誰でも使えて習得期間も短い「ノーコード」を使うことによって、上流工程の能力開発にフォーカスできたのです。

ノーコード開発できる組織ができたことで、事業戦略に必要な仕組みを高速で作れるようになりました。弊社では現在、kintoneの開発アプリが延べ3,500以上、稼働アプリで800以上動いており、年間26,000時間の削減に成功しています。また、ノーコード活用でコロナ禍には1ヶ月で完全在宅勤務にシフトしました。同じタイミングでクラウドサインに切り替え、使用を徹底。利用率は97%に上り顧客との締結時間を5営業日から2時間に短縮できました。今年に入ってからkintoneとクラウドサインの連携をさらに深めたことで、年間8,100時間も削減できております。こういったことができているのも、人材育成が型化されているからです。

DX推進における私たちの独自性は「事業部の中にいること」です。「こういうシステムをつくりたい」という声が事業部門からでると、「なぜやりたいのか?」「そのシステムをつくるとどう売上が上がるのか?」を議論しました。これにより、まず業務をシンプルにする。そうするとシンプルな開発ができて、ノーコードで対応できる。カタチにできるのです。結果、ノーコードによるシンプルな開発ができて、ノーコード開発可能な人材と組織が育ち、成果がたくさん出てきました。

DX推進グループの取り組みが全社的に広がり、会社の変革が加速

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:もともとは岩崎という取締役のもと私が責任者として事業部内の業務改善、DX推進を進めていました。私たちの取り組みが成果を出していって、それが社内に知れ渡るようになると、他の部署でも「ノーコード使ってみたい」「自分たちで動かしたい」という声がどんどん上がってきました。そこで、DXラボというコミュニティを作りました。この中で自分たちが失敗したことや成功したことや、業務改善・DX推進に必要なスキルをみんなで共有しながら勉強していったんですね。そうすると、部内にノーコード開発組織を作ったり、ノーコードツールを導入したりする事業部が出てきて、会社全体の変革が加速していったんです。

ノーコード人材は情シスとの大きなプロジェクトでも活躍しています。ノーコード開発はいくらでもトライアンドエラーができます。そうするとデータとは何かって分かってくるし、情シスと共通言語ができる。ノーコード人材が情シスとのスクラッチ開発PJTに参加すると、多くのことを学んで帰ってくる。結果、ノーコード開発が高度化する。このサイクルがぐるぐるぐるぐる回ることによって、事業部と情シスをつなぐミドルオフィスの人材が全社的に増えていきました。

変化の速度が上がったことで得られた、たくさんの副産物

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:変化の速度が早くなったことで思わぬ副産物を得ました。働く社員の会社へのロイヤリティが上がっていきました。それから情シス側、経営陣も現場の困りごとに気づいていたけどなかなか手が出せなかったんですが、DX組織ができて私たちノーコード側と情シスと連携することによって、費用対効果の高い施策を動かせるようになってきました。経営陣としてもこれはすごくポジティブだったんです。

それと私たちの頑張りが社会にも影響を与えることを感じました。同時に自社の成功だけで満足するのではなく、自分たちの試行錯誤を、イベント登壇や取材記事、SNSでたくさんアウトプットしてきました。その中で「ヒントが欲しい人と企業」がたくさんいることに気づき、外部発信を通じて市場探索とサービスを企画。kintoneをはじめとしたノーコードツールを活用した「伴走型の育成コンサルティングサービス」を、今年1月にリリースしています。受注いただいたある企業様の事例だと、2ヶ月で顧客管理と営業管理の仕組みができました。このアプリ開発で、私たちは手を動かしていません。営業の方と事務の方が自分たちで手を動かしてもらい、私たちが「先生」として見守り、アプリが完成したのです。

私たちはなぜDXに取り組んできたか。その裏側には誰かのために懸命に働く人を増やしたい、人が人にしかできないことをやってほしい。生産性を高めて顧客への価値を最大化したいといった思いがあるからです。これは私たちが掲げるパーパスにリンクしています。私たちが試行錯誤してきたこのDX人材戦略を広め、懸命に働く人と組織を今後もご支援していきたいと考えております。

営業の仕事を分業化し、従業員のワークライフバランスや離職率が改善

岩本(審査員):よくDXっていうと割と効率化みたいなイメージつくんですけど、他にいくつかポイントだけで構わないので、DXを通して売り上げが上がっていったメカニズムみたいなところを教えていただければと思います。

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:順番としては逆なんですよね。先に売上目標を立てます。従業員の営業人数×生産性で売り上げが上がっていくので、「1人あたりの売り上げをどれだけ増やすか?」を考えました。そうなると営業人員を増やす必要がある。増やさないんだったら営業の仕事を分業化し、アシスタントに業務を切り出し、営業は「商談」に集中してもらうようにしていったんですね。そうすると、分業化のワークフローを作らなければいけない。人を増やすにも育成角度を急角度にしなきゃいけなくて、ベテランの頭の中にある営業ノウハウやナレッジを公開するサイトが必要でした。こうしたワークフローやナレッジサイトを、すべてノーコードで全部作ったんですよ。つまり、売上計画から逆算すると作らなきゃいけないワークフローなどがたくさんあった。だから、簡単に作れて高速回転できるノーコードツールを使い倒した、というのが弊社の事例です。

志水(審査員):実際この業界は非常に退職率も高くてエンゲージメントも他業種に比べると割と低いはずなんですが、もし共有できる数値で御社のエンゲージメントがどのように向上したのか。もしサーベイなどやってらっしゃったら退職率にどういういい影響が出るのか、ファクトみたいなものがあったらシェアしていただきたいです。

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:成果のところは気になるかもしれません。退職率は改善しています。数字は公表しておりません。ご了承ください。営業職の一番大変だったところが「探客」だったんですよね。アポイント獲得する探客プロセスです。商談のところは、顧客と会話しながらディスカッションするので楽しいんです。この商談まで、なかなかたどり着けなかったですし、時間を奪われていた。この営業プロセスを「The Model」のように分業化する。正社員がやらなきゃいけない、成果がでるところに集中する。そうすると売上も上がるし、ムダな時間というか、「なんでこれ私たちがやってるんだろう」みたいな葛藤が減るのです。結果、大変だけど楽しいっていう状態を作れましたね。

志水(審査員):どういうところに一番変化を感じられますか。

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:一番分かりやすいのは1日あたりの商談件数がすごく増えたことです。もともとコロナ以前からリモートで商談を推奨していて、コロナのタイミングで一気に切り替えました。これで移動時間が減るので、結果的にすべてがデジタルで完結する。商談時間も増えますし、完全在宅でできるので家庭と仕事の両立がしやすくなった。

それは男性・女性問わず、子育てとかいろんなライフバランスとかを考えながらも働きやすい環境になった。「正しい仕事」に頑張れるようになったところに、変化を感じますね。

野水(審査員):今事業部って全部で何人いらっしゃるんですか。

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:人数もちょっと答えにくいんですが、弊社の従業員の中で大部分を占める事業になっております。

野水(審査員):その中でノーコード開発ができる人間って何人ぐらいだったんですか。

エン・ジャパン株式会社 高橋氏:私の部署で言うと10名ぐらい、それ以外のところだと今半分作っていた人とか兼務で作っていた人とか含めると30名ぐらいですかね。

野水(審査員):ほとんど誰もいなかった状態から1割ぐらいの人数に増やす時って、どんな感じで増やしたんですか。


エン・ジャパン株式会社 高橋氏:やっぱり成功事例を出すのが一番大事かなと思うんですよね。成果が出ればみんなついてくるんです。なので「ノーコードで確実に成果が出るところ」だけを選んで、最初に取り組みました。絶対に成功させる。成功事例は社内表彰に自ら立候補してアピールする。成果を出すことで「DX人材を増やしたいです」と上司に伝え、組織を拡大する。戦略的に「負けない戦い」を進めました。