DX事例

LINE上のデジタル避難訓練ツールによる防災意識向上|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月23日に行われた行政機関・公的機関部門 決勝大会では、自治体などの行政機関や公的機関が、デジタル技術を活用し住民サービス向上や新しい価値創造、顧客体験の創造に取り組んだプロジェクト事例が発表されました。

この記事では、LINE上で「デジタル避難訓練」の仕組みを構築することで、県民の防災意識向上を実現した群馬県の事例をご紹介します。

デジタル避難訓練ツール「デジひな」とは

群馬県デジタルトランスフォーメーション戦略課 小林:

プロジェクトチームを構成する課を代表して、また本県のDXを推進する旗振り役として、ぐんま大雨時デジタル避難訓練、通称「デジひな」をご紹介します。

「デジひな」は、大雨時の避難行動を支援する水先案内人です。

これはLINEを使った避難訓練ツールで、都道府県のLINE公式アカウント上での実装は全国初です。昨年の6月1日にリリースし、9月からの4ヶ月間は、一部リニューアルして「台風編」として運用しました。

本県のLINE公式アカウント「群馬県デジタル窓口」は、昨年6月時点の登録者数が約75万人、現在は約80万人(県内成年人口の約半分)が登録する、県民と県をつなぐ重要な媒体の一つです。

「デジひな」などの一部コンテンツは、Bot Express社のGovTech Expressというサービスの中に構築しています。このサービスは、LINE上で行政窓口を実現するプラットフォームです。

コロナ禍でリアル避難訓練が困難に。県民の防災意識低下を懸念

群馬県デジタルトランスフォーメーション戦略課 小林:

「デジひな」に取り組んだきっかけをお話しします。

新型コロナの流行により、リアルの避難訓練が難しくなり、県民の防災意識の低下が懸念されました。この問題を解決するため、withコロナを見据え、継続的に防災意識を持ってもらえるツールとして検討を始めました。

一方、県民の防災意識に関して、本県にはコロナ前から抱えていた課題があります。

それは、県民が「群馬県は災害が少ない」と思っていることです。県の調査では、県民の8割以上が本県の良いところを「災害が少なく安心して暮らせるところ」と答えています。しかし現実は、大雨や台風による水害、土砂災害が数年に一度程度起きています。そのため、県民の防災意識向上は今すぐ取り組むべき課題でした。

大雨時の情報収集から避難までの流れをいつでもどこでも5分で確認

群馬県デジタルトランスフォーメーション戦略課 小林:

次に「デジひな」の内容について説明します。

「デジひな」では、大雨時の情報収集から避難までの流れを順番に確認できます。全体が5分程度で終わるように構成しており、訓練の最後には防災クイズを設けて、楽しみながら知識が定着できるようにしました。

「デジひな」による訓練の流れは、以下の通りです。

1. 住んでいる市町村を選択

2. 大雨注意報発令を契機とした情報収集(雨雲の動き、防災用語、持ち出し品リストの確認)

3. ハザードマップの確認(GPS機能により、現在地を中心とした地図を表示)

4. 避難先の候補を確認。自宅に留まる場合の注意点も合わせて確認

5. 自分にとって最適な避難先を検討

6. 避難のタイミングを確認

7. 大雨警報発令を契機に早めの避難を検討。最新の防災情報、土砂災害危険度、川の水位を確認

8. 県の防災ポータルサイトで最新情報を確認後、安全に避難

9. 防災クイズに答えて訓練完了証を表示、訓練終了

職員がDIYで構築

群馬県デジタルトランスフォーメーション戦略課 小林:

「デジひな」がどのようにできたのかを紹介します。

プロジェクトの始まりは、発案者である砂防課・和田の行動でした。LINEを使った避難訓練ツールを作りたいと考えた和田は、関係する課の職員に声をかけ、自発的にグループを作りました。後にこのグループが3部局5課で構成する正式なチームになりました。和田は当初から「各課が持つそれぞれの強みに横串を刺し、その力を最大化させたい」と考えていました。

「デジひな」は、LINEのフレックスメッセージを活用して構築しました。このカード形式のメッセージは、レイアウトを自由に編集できるのが特長です。この自由度を生かし、チームメンバー自身がイラストや文章にこだわり、利用者目線でUIを作り上げました。

また、構築の多くを職員がDIYで行いました。特にフレックスメッセージの構築は、LINE社の無償提供ツールを利用して、すべてチーム員が行いました。このツールのおかげで、コードの知識なしで思いどおりのメッセージを作ることができました。その結果、3ヶ月後に公開した台風編では、完全DIYでの運用を実現しました。

「デジひな」の公開後、想像をはるかに超えた反響をいただきました。延べ参加回数が15万回に達し、訓練参加後に防災意識が高まったと答えた人の割合が93%、参加者から約8000件のコメントが寄せられました。

参加者コメントの中には、「日頃から確認しようと思っていたけどなかなかできずにいた」「我が家は絶対大丈夫と過信していたが、ハザードマップに色がついているのを見て驚いた」などの声がありました。ご年配の方からは「こうやってどんどんデジタルに馴染んでいくのですね」という感想もいただきました。

デジひなの4つの価値

群馬県デジタルトランスフォーメーション戦略課 小林:

 「デジひな」の価値は主に次の4点だと考えています。 

  • 県民の防災情報の活用力向上: 防災情報へのスムーズなアクセスが可能になり、県民が情報を活用しやすくなりました。またチャットツールの特長を活かし、情報の確認順序が自然に分かるようにしました。
  • 県内全35市町村への対応: 通常、避難訓練の実施やハザードマップ作成の主体は市町村ですが、県が県内全市町村に対応した取り組みをしたことで、生活圏を複数持つ県民などにとって利便性が向上しました。市町村も「デジひな」の周知に積極的に協力してくれました。
  • 他の自治体への横展開: 「デジひな」の横展開はすでに始まっており、大阪府藤井寺市など7自治体が同様の訓練ツールを公開しています。またデジタル避難訓練がGovTech Expressの標準機能に追加されているため、同サービスを利用している約150の自治体ではすぐに構築できる状況にあります。今後、全国的な広がりが期待されます。
  • 庁内における意義: 「デジひな」は庁内における意義も大きいです。それは、本県がDX推進で心がけている3点(職員が主体的に取り組む、利用者視点で親しまれるサービスを提供する、自分たちでできることは自分たちでやる)を全て満たしているからです。今後はデジひなを手本にして、DXマインドのさらなる浸透、定着に取り組みたいと思います。

まとめ

群馬県デジタルトランスフォーメーション戦略課 小林:

「デジひな」は、県民自らが訓練に参加し、防災情報に触れたという点で、行動変容を起こすことができました。

成功の要因として、積極的に参加したチームメンバー、後押ししてくれた上司、多数のメディア露出などが挙げられます。

5月に新型コロナの感染症法上の分類が変わり、本格的なwithコロナの時代になりました。

今後は「デジひな」で大雨時の一連の行動をイメージし、リアルの避難訓練で危険がありそうな場所を自分の目で確認することで、県民の防災意識の底上げが期待できます。県全体が一体となり、災害の脅威にしっかり対応できる群馬県を目指していきます。

利用者の属性把握について

毛塚(審査員):

事業の立ち上げ方に感銘を受けました。利用者の属性を把握して活用することができるのか、例えばどのエリアの方々がこのサービスの利用率が低いから、そのエリアはさらに周知をプッシュする等できるのか、教えてください。

群馬県 県土整備部砂防課和田:

本県のLINE公式アカウントは、コロナウイルスのワクチン接種をLINE上でできるようにしたことから登録者数が増えましたが、山間地域に登録者が少ないため、紙媒体で周知をして公式LINEへの登録を促しました。今年度は各市町村の広報媒体での周知について協力を仰ぐなど、多くの県民がデジひなに取り組めるようにしています。

毛塚(審査員):

デジひなに特化して、利用者のエリアは把握していない感じですかね?

群馬県デジタルトランスフォーメーション戦略課 小林:

補足します。デジひなに参加した県民の属性は分かります。データの活用については、市町村が災害時の避難計画作成をするにあたり、デジひなの参加者データを参考にしてもらった例があります。

本番の避難にも活用可能

平野(審査員):

避難訓練ではなく、本番の避難にも使えるのかどうか、そして高齢者の方々に使っていただくための施策を教えてください。

群馬県 県土整備部砂防課 和田:

デジひなとリンクしている防災情報はすべてリアルタイムの情報のため、実際の災害時にも使えます。

高齢者に使っていただくための策としては、言葉・文章を端的にし、どのボタンを押すとどんな情報が見られるのかを分かりやすく表すことで、「触ってみよう」という気持ちを促すようにしました。

家族・コミュニティなど横のつながり機能について

中尾(審査員):

ご家族やコミュニティなどの横のつながりの機能はありますか?

群馬県 県土整備部砂防課 和田:

「デジひな」自体に共有の機能はありませんが、LINE自体がコミュニケーションツールなので、デジひなで得られた情報を家族などの間で共有するという方法はあると思います。「地域でデジひなを使ってみたいのでチラシが欲しい」などの声もいただいており、大勢で使うという活用方法もされています。

中尾(審査員):

ぜひ広めていただけたらと思います。ありがとうございました