DX事例

「旅する公務員」による働き方改革と行政の変革|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。

2023年6月23日に行われた行政機関・公的機関部門 決勝大会では、自治体などの行政機関や公的機関が、デジタル技術を活用し住民サービス向上や新しい価値創造、顧客体験の創造に取り組んだプロジェクト事例が発表されました。

この記事では、地方行政におけるテレワーク体制を築き上げることで、「旅する公務員」という新しい働き方を実現した磐梯町の事例をご紹介します。

住民起点で思考・行動すべく、行政の既成概念を壊し、働き方を変える

磐梯町町長・佐藤:

福島県の磐梯山の麓、磐梯町から来ました。私はその町長・佐藤でございます。磐梯町は、人口わずか3200人の小さな町です。この中でずっとDXを進めてまいりました。なぜDXを進めてきたのかと言いますと、それは「誰のために行政は、職員は存在するのか?」という問いから始まります。

磐梯町では私たちのミッションを明確にしています。それは「誰もが自分らしく生きられる共生社会の共創です」簡単に言うと「磐梯町民全員を幸せにしたい」という思いです。そして、目指すべき将来像、ビジョンは「自分たちの子や孫たちが暮らし続けたい魅力あるまちづくり」であります。共生、共創、協働のまちづくりです。

この実現のため、職員の行動指針、バリューは「住民起点で考えていく」ということです。しかし私が4年前に町長に就任した時、これを進めるには大きな障壁があったと感じました。それは、縦割りの行政や既成概念に凝り固まった閉塞感でした。これに対して、行政自体の変革が必須であったというわけです。

そこで磐梯町の第1ステージは「行政の既成概念をぶっ壊す」という方針で、3年前にデジタル変革戦略室を創設しました。この間、組織文化をピラミッドからフラット化し、外部人材の登用、システムのクラウド化など、DXを組織変革の手段として進めてきました。

そして今回、第2ステージは「職員の働き方の改革」です。テーマは「職員たちの役場からの解放」で、「いつでもどこでも誰とでも仕事ができる環境づくり」を目指しています。その第一歩がこの「旅する公務員」であります。

具体的な内容については、各職員からの説明をさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。

「旅する公務員」という新たな働き方

磐梯町 デジタル変革戦略室長 小野:

町長からお話された「旅する公務員」について詳しく説明いたします。

これは磐梯町のデジタル変革戦略第2版ビジョンにおける働き方の再デザインです。いつでもどこでも誰とでもという理念のもと、テレワーク環境を整備しました。バックグラウンドではクラウド化、ゼロトラストセキュリティによる整備が行われております。システム関連については後ほど詳しく説明させていただきます。

昨年4月に、磐梯町職員テレワーク実施要項を策定しました。

例えばテレワークが必要な家庭環境といえば、育児・介護などが挙げられますが、当初は、「家族の定義」を「同居の何親等まで」といったルールで作りました。しかし、外部の人材の方々やデジタル変革審議会の中での意見を取り入れ、より多様な関係性を反映した形に変え、「家族の定義」には「パートナーシップ」や「内縁共同生活者」なども含めました。

さて、この「旅する公務員」が具体的にどういったことを行っているのかというと、アナログレコードの「A面」「B面」「ボーナストラック」に例えながら、説明させていただきます。

– 「A面」的な目的は、テレワークを始めたばかりの段階で顕在化する様々な問題を解消していくことです。

– 「B面」的な目的は、さまざまな自治体を渡り歩いて先進事例を共有し、地域課題の解決を図ることです。

– 「ボーナストラック」的な目的は、実際に他の自治体のリアルな姿を見て学び、視野を広げ、自分たちの街を再評価することです。我々役所の人間は、ずっと同じ自治体にいることが多く、他の街の生活を知らないまま生活しています。だからこそ、実際に他の街を見て学ぶ価値があります。

このように、旅する公務員は新しい視点を持ち、地域と共に成長するための取り組みです。

セキュアなテレワーク環境を整備

磐梯町 デジタル変革戦略室 金子:

続いて、システム関係について説明します。

我々は既存のオンプレミスサーバーの公開に合わせ、ゼロトラストをコンセプトとしたクラウド化によるテレワーク環境整備を、総務省のガイドラインに従い実施しています。整備したのは主にインターネット系接続のネットワーク部分です。

当町では、MicrosoftのMS365を導入しております。これには、ワード、エクセル、パワーポイントなどの業務ツールが含まれており、内部連絡ツールとして「Teams」、外部連絡ツールとして「Outlook」を使用しています。

– Teams:職員間のチャット機能、申請ツールの掲示場所、Web会議など

– Outlook:メール機能以外に、会議日程、物品、会議室等の予約管理

個人のデータに関しては、端末本体に保存せずにOneDriveに保存する方針を徹底。これにより、データ保護とバージョン管理が行えるようになりました。さらに、MicrosoftのAzure Active Directoryを導入することで、端末管理と認証を強固にしています。各端末にはログ監視や管理者による遠隔操作も可能になりました。

このようにセキュアな環境を整えることで、テレワークの実施が可能になりました。より効率的かつ安全な業務推進が可能となっておりますので、今後も取り組みを進めてまいります。

情報セキュリティの実質的運用

磐梯町 デジタル変革戦略室 金子:

次に、情報セキュリティの実質的運用についてお話します。クラウド化の進展に伴い、情報セキュリティポリシーを全面改定しました。これをしっかり運用できるよう、セキュリティのチェックと見直しを行っています。また、職員のセキュリティ意識を高めるための研修を実施しています。

さらに、職員に対してITパスポートや情報セキュリティマネジメントの資格取得を推奨しております。具体的には、学習のサポートや受験料の公費負担などの支援を提供しています。現在、当町においてはITパスポートを4名、情報セキュリティマネジメントを1名が取得しているという状況です。

このような取り組みによって、セキュリティの強化と職員のスキルアップを図っております。これからも引き続き、安全かつ効率的な業務運用を推進していく所存です。

プロジェクトの実施体制と人材組織マネジメント

磐梯町 デジタル変革戦略室 金子:

現在、磐梯町のデジタル変革戦略室では、多くの人々が在籍し、協力をいただいています。特にシステム関係においては、2人のキーマンが中心となっています。

図の赤枠で囲んだ部分、真ん中に「CDO補佐官(システム)」と書かれた位置と、左下の「係員」が私に当たる部分で、この2人がキーマンとなって磐梯町のシステム関係を調整してきました。

具体的には、CDO補佐官からは職員だけでは導き出せないような明確なゴールを示していただき、私とともに現場の環境とのすり合わせをしっかりと行いました。この連携によって、クラウド化が実現できたと考えております。

システムの効率化と整備は、専門的な視点と現場の理解が必要であり、その相互の連携が重要な役割を果たしているのです。

最後に

磐梯町 デジタル変革戦略室 金子:

最後に、係員としての私の感想を申し上げます。

プロジェクトを進める中で最も大切であり、かつ最も大変だと感じた部分は、実際にシステムを使用していく職員への丁寧な説明と、継続的なサポート、そして定期的な職員研修の実施でした。

技術の導入やシステムの改革だけでなく、人々がその技術やシステムをどう使うのか、理解しているのかといった部分が中心になります。

今後も運用面をしっかりと行い、「旅する公務員」というコンセプトをより多くの方に展開できるよう努めたいと思っております。

地方自治体職員のテレワーク化、最大の課題は?

毛塚(審査員):

これまで運用されてみて、勤務の管理やさまざまな試行錯誤をされてきたかと思います。今回の「A面」的な目的で「実際運用してみて生じる問題の解消」とありましたが、これまでどんな問題が生じてきて、それをどういう風に解消してきたのか、具体例を交えながらぜひご紹介いただけますと幸いです。

磐梯町 デジタル変革戦略室長 小野:

正直、我々地方自治体の公務員が本当の意味でテレワークをするには、紙とハンコと内線電話の問題の解決が本当に必要です。国のガバメントクラウドの進捗などもあり、簡単には進展しません。紙とハンコと内線電話ぐらいであればなんとかなるのかと思っていますが、今年度はスマートオフィスの検証を行っています。デザイン担当の補佐官と我々一丸となって、オフィス改革も含めて、この問題を解決していきたいと思っています。基幹系や窓口などについてはまだ進められておらず、現在はシステム系が整っている状況です。

磐梯町 CDO補佐官 大久保:

我々は専門的な知識から、磐梯町職員の皆さんにノウハウを共有しながら進めています。このプロジェクトには時限性を設けており、3年経ったら職員の方々が能動的にベンダーさんと対等にお話ができるようにということを意識して進めています。私からは以上になります。

平野(審査員):

ご説明いただいたシステムの構成や体制は、民間で言うと割と一般的な形なのですが、自治体でこれを実施されるにあたって、相当いろんな苦労や障害を乗り越えられたことがあったと思います。先ほどのご質問にも近いかもしれませんが、これを短期間に成し遂げられたことを、他の自治体が参考にできる点があれば、教えてください。

磐梯町長・佐藤:

私は民間出身なので、民間の考え方を導入していく中で、行政としての難しさを感じました。議会や町民の存在など、ステップをちゃんと踏んできていくことが非常に大事だと思っています。ミッションとビジョンをちゃんと伝え、それを総合計画に落とし込み、議会にも細かく説明するステップを踏んでいくことが大事です。また、職員には実際に試してもらい、具体的に試してもらうと同時に、研修を含めてさまざまな課題を一つ一つ解決しながら進めることによって、短期間での実施ができたと考えています。

「旅する公務員」事業で見られた職員の変化は?

中尾(審査員):

「旅する公務員」プロジェクト、素晴らしいなと思って聞かせていただきました。多分、これは2019年ぐらいから改革を始めて、プロセスに時間がかかって、今途中なのかなと想いながら発表を聞いていたんですけれども、「行政の既成概念を変える」あるいは「職員の働き方を改革する」という2点に関して、この旅する公務員の取り組みによってどういった変化があったか、町長に伺いたいと思いました。

磐梯町長・佐藤:

「旅する公務員」事業は本当に今スタートしたばかりで、最初の段階では皆さん職員の方は本当に迷っていました。何をしたらいいかわからない状況でした。しかし、今皆さんに実施すると、何をすべきか、どういう話をすべきか、他の自治体の人たちとコミュニケーションを取りながら課題を共有することができました。行政は横の繋がりが弱く、行政課題は似てるんですが、横のつながりが得られないこともあります。しかし横のつながりを構築することで、自分の課題を理解し、お互いに悩んでいることが理解できるようになり、それをどう変えていくのか、どうカスタマイズして変えていくのか、職員が理解できるようになったと感じています。自分たちが抱える課題について実際に勉強していくことができるんじゃないかと思っています。

中尾(審査員):

おそらく時間のかかるプロセスだと思うんですが、一歩一歩改革や、意識改革を進めていただけたらいいな、と思いました。