DX事例

日本最先端クラスのデジタル県を目指す組織作り|日本DX大賞2023

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2023年6月22日に開催された人と組織部門では、組織および従業員の成長とデジタルへの適応のために取り組んだリスキリングや組織の変革、人材育成などの事例から優れたプロジェクトを選んで表彰しています。

この記事ではその中から、日本最先端クラスのデジタル県を目指し、県庁職員の意識改革などに取り組んだ群馬県の事例をご紹介します。

DX戦略課の設置に代表される、群馬県のDX推進体制

群馬県 柴田氏:群馬県は、2021年に最上位計画として策定した「新・群馬県総合計画」で、「年齢や性別、国籍、障害の有無等にかかわらず、すべての県民が、誰一人取り残されることなく、自ら思い描く人生を生き、幸福を実感できる自立分散型の社会」の実現を2040年までに目指しています。そのための政策の一つに、「2023年度末までに日本最先端クラスのデジタル県になること」があり、2021年度からの3年間でデジタル化に集中的に取り組んでいます。

DX推進本部は知事を本部長、副知事とDX推進の最高責任者であるDX推進監を副本部長、各部局長を構成員とした組織です。その下にはDX推進監を座長、各部局の主管課長などを構成員とした幹事会を設定。さらに各部局にDX推進係を配置しています。通常はトップダウンで本部の指示が事業担当課に下るのですが、DX推進係が部局内で体制を構築することでボトムアップでもDX推進を可能にしました。

2020年4月に、全国に先駆けてDX推進を専門とするデジタルトランスフォーメーション戦略課(以下、DX戦略課)を設置しました。DX戦略課の役割は、地域社会と信頼関係・つながりを有する各部局を通じて、地域社会のDXを推進することです。各部局と地域社会に課題を主体的に受け止めてもらい、ともに解決していくことで群馬県の取り組みを市町村や地域社会のDX推進へと波及させ、県民の利便性を向上させています。

DX戦略課には事務職以外にも森林・農業・土木などの各分野の技術職、ICT職の経験のある職員など多彩な人材が在籍しており、知識を出し合いながらDX推進業務にあたっています。またDX戦略課員は部局の専属サポートとして各部局に入り、DX事業の推進を支援しています。さらに、2021年4月から新たに加わった、民間出身のDX推進監の力を借りながらDXを推進しています。

「ぐんまDX加速化プログラム」は、群馬県庁内の代表的なDX事業を収集し、2021年度から3年間で取り組む工程表として19の政策分野で事業を分類しまとめたものです。現在掲載されている111の事業のうち、約9割の事業が予定通りまたは前倒しで、遅れている事業についても2023年度末までには完了する見込みです。DX戦略課と各部局が原則月1回顔を合わせる「月次2+2ミーティング」では、気軽にDX戦略課に相談や意見しやすい関係づくりを構築することを目的としています。DX戦略課と事業担当課が密に連携して事業を推進していることが大きな特徴です。

地域課題解決プロジェクトは、デジタルに乏しい一方で課題を把握している各部局と、デジタルに精通している一方で課題の把握が困難である民間事業者双方の長所と短所をDX戦略課が仲介して引き合わせ、実証事業を行う枠組みです。DX戦略課では実証事業のために柔軟に使える予算があり、実証事業実施の伴走支援を行っています。

部局同士、地域社会や民間事業者とのつながりを強化し、DXを職員主体で推進

群馬県 柴田氏:DX推進にあたり、群馬県で心がけていることは以下の3つです。

  • 職員が主役として主体的に取り組むこと
  • 自分たちでできることは自分たちでDIYすること
  • 利用者視点で使い勝手や利便性を考え、親しまれるサービスを提供すること

行政の業務は多岐にわたるので、変革のためにはトップダウンだけでなくボトムアップでの主体的な取り組みも必要です。群馬県では2020年4月からDIYでの取り組みをスタートさせており、試行錯誤を繰り返しながらデジタル経験値を蓄積しています。

ワクチンの接種記録を県のLINE公式アカウント上で表示できる「ぐんまワクチン手帳」を2021年10月にリリースしました。登録者は約40万人で、他自治体の類似のワクチン手帳と比べてローコスト・ハイパフォーマンスを実現しています。

2022年6月1日に公開した「ぐんま大雨時デジタル避難訓練」通称デジひなは、LINEを使った非対面の避難訓練ツールで、都道府県のLINE公式アカウント上に実装したものとしては全国初です。発案者の防災担当職員自ら関係部局に声をかけ、部署横断のプロジェクトチームを結成し、構築の多くをDIYで行いました。

農業生産現場では、気象情報や出荷記録などのデータを自動測定できる機器の導入が進んでいます。農政部ではこれらのデータを有効活用して普及指導することを目標にしており、職員が講師となってPower BIやGoogle Apps Scriptなどの使い方研修や先行事例の共有を行っています。

高品質のシャインマスカットの生産に必要な間引きを、経験や勘で行っているケースが多く、糖度が足りなかったり品質が低かったりして、収穫できない事例が起きています。そこで「シャインマスカット糖度予測WEBアプリ」をGoogle Apps Scriptにて開発。満開日と生育段階での糖度、当年のアメダスデータを組み合わせることで糖度予測を行い、気象経過に左右されない品質の高位平準化に役立てています。

DX推進のための環境を整備すると、DXの心が育ち、多様な働き方も実現

群馬県 柴田氏:多くの自治体では地方自治体向けの広域ネットワーク「LGWAN」で業務を行っています。しかし群馬県ではいち早く、インターネット接続系へ移行。昨年の9月からMicrosoft 365を導入。Teamsを使って気軽に庁内でコミュニケーションを取れるようにしました。また在宅でも職場と同等の環境で業務できるようテレワーク環境を整備しました。第5次県庁ネットワーク導入以前の8月までと9月以降の月平均回数を比較すると、在宅勤務の実施回数が約2.2倍増加しました。DXを推進するための環境を整備することで、多様な働き方を可能にした他、職員の働き方改革にもつながっています。

群馬県におけるDX人材とは、デジタル技術が浸透している現代において、プログラミングなどの特殊スキルに加え、WordやExcelと同じようにTeamsやOutlookなども使える人材だと考えています。人材育成イコール研修とイメージしてしまいますが、事業者が提供する研修をただ受けるだけでは実務で応用できないうえ一過性で終わってしまうので、毎日の業務でツールに慣れるように促しています。

システムやツールの操作方法、疑問、不具合などが起きたら情報システム部に問い合わせて対応することがほとんどかと思います。群馬県ではMicrosoft 365総合コミュニティをTeams内に設けて、職員同士でMicrosoft 365のツールの情報交換をしています。現在職員の6割以上にあたる約2,500人が参加しており、一方的に教わるだけでなく自分も教える立場になることで職員のスキルアップにもつながっています。Microsoft 365の活用を推進するため、Microsoft Power Platformに関する研修を受講した職員が講師を務め、部局内にエバンジェリストを育成する部局内研修を実施しています。部局の課題を詳細にヒアリングした上でより効果的な研修を実施でき、実務で使えるデジタルスキルを各職員が身につけられるというメリットがあります。

職員が主役、DIY、利用者視点という3つのポイントを引き続き意識し、全県を挙げて日本最先端クラスのデジタル県を達成することを宣言します。

トップからDX推進へのメッセージを発信し、職員の意識を醸成

岩本(審査員):デジタル人材を民間から雇ってくるというケースが多くの自治体でよく見られるんですけど、群馬県さんの場合はもう完全に内製で進めてるんですかね。

群馬県 柴田氏:基本的には職員からデジタル人材を育成していますが、一昨年度からはICT職などの専門人材を外部から採用しています。

志水(審査員):DIYや主体性は口で言うのは簡単ですけど、こういった活動に対して疑問を持ってらっしゃる方とか反対される方とかもいらっしゃったと思うんですよね。ここが日本企業の組織の課題で一番私が深刻だなと思っているところなんですけど、そういう方たちをどういう風に巻き込んでいったのか。一番苦労されたのはどの辺なのか。そのあたりのエピソードをお聞かせいただけますか。

群馬県 柴田氏:群馬県は大きな組織ですので、DXの取り組みを浸透させていくのはかなり時間がかかります。DXに取り組んだ背景にはそういった面もあります。デジタルトランスフォーメーション戦略課を2020年の4月に設置したとき、名称がちょっと分かりにくいといった意見もありました。群馬県として本気でDXに取り組んでいくことをトップから発信して、職員が小さいことでもいいのでDXをやってみる。こういう積み重ねを大切にすると、DXへの職員の意識変革につながると考えています。

野水(審査員):DX推進本部における知事の関与具合を教えていただけますか。

群馬県 柴田氏:知事が座長として出席していただいているDX推進本部は年に2回ほど開催しており、DXの取り組みの報告とかDXの今後を話しています。それ以外にも随時知事のご意見をいただいています。DIYで進めている取り組みや、現場の中から上がってきた声を吸い上げて自分たちでアプリを作り、実際に現場でも使っている農政部のDXの取り組みについては特にご評価いただいております。

司会:YouTubeからご質問いただいています。ワクチン手帳開発にかかる費用には職員のかたの人件費も含まれているのでしょうか。

群馬県 柴田氏:ワクチン手帳の開発には約800万円かかっていますが、職員の人件費は含まれていません。

司会:地域課題解決プロジェクトでの実証実験の事例は何件くらいあり、その中の一番の好事例をご紹介いただけますか。

群馬県 柴田氏:昨年度は15件ほど地域課題解決プロジェクトとして取り組んだ事例があります。戻ってきたアンケート用紙に書かれた内容をExcelに手入力する業務に関しては、昨年度AIOCRを活用して集計作業を軽減した事例が約1万件ございます。また群馬緑の県民税というアンケートを約2,400件出しているんですけれども、それをAIOCRで活用することによって職員の作業が約150時間削減されたという報告も受けております。今後もAIOCRを活用して事務負担の軽減、県民の方の利便性の向上につなげていきたいと思っております。