DX事例

株式会社ネクストスケープ「体験型実習のための複合現実ソフトウェア開発」

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行から、2年が経過しました。いまだ収束の目途が立たない中、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令などもあり、看護学生の臨床現場での実習や対面学習の実施が困難になりました。2020年に一般社団法人日本看護系大学協議会などがまとめた「COVID-19に伴う看護学実習への影響調査結果」によると、2020年
9月~10月以降、開講予定あるいは開講している実習科目について、83.4%の学校が「変更予定」と回答しています。そこで、VR(バーチャルリアリティ)教材の導入など、看護実習や対面教育のDXを図ることで、学生の学びを保障する動きが活発化しています。

ネクストスケープは、医療業界をはじめとした多様な業界で、仮想世界と現実世界をミックスさせたMR(複合現実、ミックスドリアリティ)などの導入支援を行う企業です。主に動画配信ソリューションの提供や大規模なシステムの開発、クラウド環境の導入、コンサルティングやXRスマートフォン向けアプリケーションの開発などを手掛けています。

2022年6月22日に行われた「支援機関部門」より、株式会社ネクストスケープの事例をご紹介します。

株式会社ネクストスケープの概要
■代表:代表取締役社長 小杉 智
■設⽴:2002年
■事業内容:
■公式Webサイト:https://www.nextscape.net/ja/

HoloLens 2とは

HoloLens 2(ホロレンズツー)はMicrosoft社が開発している、シースルー型のディスプレイを搭載し、現実世界に仮想現実を重ね合わせた複合現実を体験できるデバイスです。
主な特徴として赤外線センサーにより空間認識をし、空間上に3Dホログラムを固定表示したりハンドトラッキングによりハンドジェスチャーでのインタラクションの実現、デバイスのインカメラにて人間の視線を認識し視線に合わせてホログラムの操作などが行えます。

ネクストスケープは2017年にHoloLensが日本国内で販売されてから、研究開発やPoCを
積極的に実施し、これまでに製造業、建築業、自動車産業などさまざまな業界でMR(ミックスドリアリティ)活用に貢献してまいりました。

熊本大学医学部保健学科での事例

熊本大学医学部保健学科様はコロナ禍を経験したことで、看護に従事する人材教育のあり方を見直されました。リモート中心の講義や病院での実習の制限縮小などこれまで実施できていたことが当然のように制限されました。COVID-19感染拡大を機にさまざまなVR技術を利用して教材開発が盛んになりましたが、実践を伴った技術習得スキルの育成にはHoloLens 2などのMR(ミックスリアリティ)の技術を活用した教材が適していると判断されました。

本取り組みでは、以下の3つの目的を掲げ、これまでに培ってきたMR(ミックスリアリティ)の技術と経験を活かし、熊本大学様が考案された上記3つのアプリケーション開発に
全力で取り組ませていただきました。

  • MR(ミックスリアリティ)による仮想学習環境を構築すること
  • 病院などの医療機関での実践で学ぶ臨地実習と学内教室での実習を組み合わせること
  • 短期間の臨地学習における学びの質の向上

熊本大学と共同開発した、3つの教育用アプリケーション

フィジカルアセスメント習得のための複合現実ソフトウェアは、HoloLens 2のディスプレイに立体的な人体構造モデルを投影します。実際の人の胸部に重ねて人体構造モデルがアニメーションすることで心臓や肺の動き、または心音や呼吸音を確認できます。

心音については正常な心音と異常な心音、ドクドクしてる音が速かったり遅かったりっていうところを入れておりまして、正常時と異常時を比較して聴けるようになっております。
通常ですと聴診器を使って学生さん同士が聴き合ったり、実習に行かれたとき病院などで
患者さんに対して実施したりするケースがほとんどでしたが、こういった形でいつでもどこでも異常な心音を聴けるところが特徴です。

吸引の看護技術習得のための複合現実ソフトウェアでは、口腔咽頭の解剖図の表示器官、
気管支肺といった3Dモデルを搭載することが可能です。また解剖図の上には各器官の名称を表示できます。


採血注射の基礎看護技術習得のための複合現実ソフトウェアでは、HoloLens 2を利用し、3D投影を行い視覚的なサポートを行います。注射を打つトレーニングでは通常、血管や神経といった箇所は視覚的に確認が困難ですが、このアプリケーションでは、通常の採血注射トレーニングより効率よく技術を習得できることが期待できます。

アプリケーション開発のポイント

教育用のコンテンツ制作、特にCGの制作は非常に難しかったり時間かかったりするところがございます。今回3つのアプリケーションを短期的に仕上げる必要があったため、全体のアーキテクチャやUIを統一することで最適化し、開発速度を向上させました。

またコンテンツの一部は他のCGの制作会社様が作成しておりますが、HoloLens 2で作成するコンテンツは単体で動かすには制限があるため、作成に苦戦しておりました。こちらについてはわれわれの知見を共有し、データの最適化を行っていただきました。

今回3つのアプリケーションを同時に開発するにあたり、複数作るためのプラットホームを整備しました。今後、UIの統一化により使い勝手の共通化、あるいは新しくスケールしていく形で作っていけるものを意識して開発をしております。

実際にHoloLens 2を装着している学生の視点でどのような学習を行っているか、画面共有可能です。ただ、システムログのようなものが残るようにはなってますが、実際の学習ログのようなものは特に取っていないため、今後必要になってくれば開発したいと考えております。

ユーザーの声を直接聞き、その場で反映する

MR(ミックスリアリティー)のソフトウェアは実際に利用されたあとのご意見が非常に
大事であるため、開発後期にはリモートではなく直接お伺いし、先生や学生さんからご意見をいただきました。また現場でいただいた先生のご意見については、その場で対応できる体制を作っていたため、アプリケーションの体験の質を向上できました。体験後の学生からは、概ねポジティブなご意見を多くいただけました。

また、このアプリケーションを考案した熊本大学の先生からは、次のようなご意見をいただきました。

最後に

通常の学習の中で、実習を体験できる機会はなかなか少ないのが現状です。
XR、HoloLens 2を使うことで、疑似体験になってしまうんですけども学生さん1人でも
体験できる機会をどんどん増やせると思います。そういったところは学習というか結果の部分においては今までと変わってくるところだと考えております。

私たちネクストスケープは今後も、XRやクラウドの技術を用いてお客様と一緒に新たな価値を継続的に生み出すパートナーであり続けるための活動をしてまいります。