DX事例

大日本印刷が複数企業と連携でリサイクルデータを可視化、生活者の意識向上を図る|日本DX大賞2023

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2023年6月21日に開催されたSX・GX部門では、社会課題解決のためにサステナビリティ経営やGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組む企業や団体から優れた事例を選び、表彰しています。

この記事ではその中から、資源を回収してから再生するまでを見える化するため、複数の企業と連携して実証実験を行った大日本印刷株式会社(DNP)の事例をご紹介します。

概要

■法人名:大日本印刷株式会社

■事業内容:印刷事業(情報コミュニケーション部門、生活・産業部門、エレクトロニクス部門)、飲料事業

■設立:1876(明治9)年10月9日

■公式Webサイト:https://www.dnp.co.jp/

資源回収後の情報開示により、生活者のリサイクルへの意識啓発を図る

大日本印刷株式会社 尾野氏:近年、循環型社会の実現に対する国内外のニーズが高まる中、企業には使用済みプラスチックを再資源化する取り組みだけでなく、GHG排出量や製品製造の環境配慮に関するデータを可視化すること、生活者にはリサイクルへの理解と協力が求められています。しかし、リサイクル用に回収された資源のその後やリサイクル製品の環境負荷低減への貢献度など、資源回収後の情報が十分に開示されているケースは少ないため、生活者からの協力が得られにくいのではと我々は考えています。

そこで、プラスチックの店頭回収から資源として再製品化するまでのトレーサビリティを確保し効果的に発信する実証実験を、埼玉県及び7社と連携して行いました。ケーヨーデイツー所沢中富店で2022年11月18日から20日の計3日間回収し、店頭告知をメインに、2週間前からチラシでも呼び掛けました。

回収対象は家庭から出る、ポリタンクや衣装ケース、ペールなど大型の捨てにくいPP、PEの単一プラスチック製品です。店頭回収から再資源化のプロセス(=静脈産業)と、再生した資源を活用し製品化するプロセス(=動脈産業)で各種情報を集約して数値化しています。また回収・再資源化・再製品化するまでの全工程で収集した環境負荷低減に関するデータは、実証実験に関わった全事業者で共有するとともにWebサイトなどで分かりやすく発信し、リサイクルへの生活者の意識啓発を図りました。

資源の再利用方法は、業界では一般的なマテリアルリサイクルを採用。一連のリサイクル処理で得られる情報をしっかりデジタルデータとして残すこと、それが生活者の意識啓発において有用か検証すること、資源化・製品化されるまでの工程をしっかり分かりやすく定量的に見せることで生活者がどう受け止めるのかを調査することが今回の取り組みの趣旨です。

リサイクルへの貢献度の可視化は、生活者が自分ごととして捉えるための必須条件

大日本印刷株式会社 尾野氏:各フェーズにおける担当企業及び取り組み体制は、以下の通りです。

  • 株式会社ケーヨー:店頭受付
  • 株式会社木下フレンド:回収物の運搬と破砕
  • 有限会社JF原料:減容圧縮
  • 株式会社エコマックス:ペレット化
  • ロータリー株式会社:回収されたプラからボールペンを製造
  • DNP、株式会社JEMS:システム提供とトレーサビリティの確保

トレーサビリティは回収・再資源化・再製品化の範囲で実施しました。最終製品が出来上がるまでの工程で、各工程の作業証明と前工程との関係をシステム上で管理しているため、ロット単位で記録を辿ることが可能です。

そこで生活者に向けて発信するためにWebサイト(https://green-recycle-project.com/)を作成。回収量、資源化できた量、回収したプラスチック製品の全量焼却処理と比べて削減できたCO2排出量、リサイクル工程の説明、関わる事業者の情報を掲載しました。その際、システムで集約できたデータの数値をただ羅列するのではなく、生活者に実感してもらいやすい表現やコンテンツなどを模索しました。また、より多くの人に見てもらえるよう再製品化したボールペンにQRコードを付与し、このサイトにアクセスできるようにしました。Webサイトへの来訪者に対して、リサイクル情報の見える化に関するアンケートを実施したところ、生活者自身が自分ごととして捉えるためには、一人ひとりの貢献度の見える化は特に重要であると分かりました。

今回の実証実験では、回収量が1,119kg、そのうち資源化できた量が1,080kg、焼却処理と比べて削減できたCO2の排出量は2,780kg-CO2となりました。資源化したプラスチックはPP、PEのミックスプラとして再資源化した後、その資源を活用して再生材含有率25%のボールペンを製造し、それ以外はペレット資源として通常のビジネスの中で活用されています。

パートナー企業との連携と生活者への積極的な情報発信で、循環型社会への貢献を

大日本印刷株式会社 尾野氏:価値創造のためのデジタル活用のポイントは、一連のリサイクル工程の情報をデジタルデータとして取得したこと、データを活用し生活者のリサイクルへの理解を図るためのコンテンツを生成したことです。またこれらの取り組みを中小企業を含めて静脈産業・動脈産業、それぞれの領域で運用できたことも新規性があると考えています。

今回のプロジェクトの成果は、実際に行ったリサイクルの成果と処理工程のデータを見える化した際に、生活者からポジティブなレスポンスが得られた点です。リサイクル工程を見える化することで、生活者の行動変容に活用できる示唆が得られました。持ってきた資源はどこへ運ばれて、どんなものにどうやって生まれ変わるのか。このような疑問に答えるために、各事業者と連携して情報収集を行うことで対応できました。

また、普段は委託先企業と顧客企業とのコミュニケーションに終始してしまいがちですが、各企業間のコミュニケーションの重要さにも気づくことができました。プロジェクトを進行していく中で、今回パートナーとして連携した企業から、その分野での課題やノウハウを共有できたこと、それにより新たな気づきも得られて、非常に良かったと感じています。

DNPは今後も、静脈産業と動脈産業をつなぐハブとして各企業や自治体と連携し、生活者の行動促進に繋がるリサイクルの情報発信を積極的に行うことで、循環型社会の実現に貢献していきます。

中間処理業者や中小企業が、積極的に資源循環に参画するには

市川(審査員):この実証実験は次も行う予定があるのでしょうか。また恒常的に行うには、消費者の啓発以上にパートナー企業選びが重要なのかなと推測するんですけれども、パートナー企業さんを選んだポイントがあれば教えていただけますでしょうか。

大日本印刷株式会社 尾野氏:プラスチックの資源循環では、ペットボトルの回収が循環として持続的に成り立っていることが多く、回収業者も有価物としてたくさん購入されます。しかしそれ以外のプラスチック資源は、回収物の組成や状態が安定せず、処理費がすごくかかってしまうため、自主的に資源回収しようとする企業が少ないのが現状です。

だからこそ生活者には資源の正しい分別とリサイクル活動への協力をしてもらい、少しでも再生資源の質を上げる。リサイクル品に価値を感じてもらうだけでなく、リサイクル品の販売による収益をもっと増やして、生活者とコミュニケーションをしっかり取りながら今後も続けていこうと考えています。

パートナー選びに関しても、マーケットを作っている途中なので技術を持っていることと、各社連携での取り組みに積極的であること、この取り組みの意義に共感してもらえることがポイントだと思っています。

八子(審査員):プラスチックをはじめとする資源のリサイクルは昨今のESG経営、カーボンニュートラルへの取り組みという観点から、特に静脈産業については強化しなければならない非常に大きな課題であると考えています。その意味では、複数の事業者さんたちを巻き込んで取り組みをされた意義は大きいのかなと思ってます。

一方でまだ実証実験の段階なので、商用化の是非に非常に大きな興味があります。なので誰がお金を出して誰に還元されるのか、参加する事業者さんへのインセンティブの建てつけをどうお考えなのか。関与する事業者さんたちが多数だしフェーズも多く、どうしても高コスト体質になってしまうように見えるので、実用に耐えるレベルの再生品が造れるのか。自治体によって既に行われているペットボトル回収と、事業者さんたちによって実施される取り組みとの差分、参加するインセンティブをどうやってデジタルの仕組みで取り組んでいかれるのか教えていただければと思います。

大日本印刷株式会社 尾野氏:収益モデルについては2段階を検討しています。昨年の4月のプラ新法(=プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)の施行を受けて、製品を製造するだけではなくて資源回収をミッションに掲げているブランドオーナーは多くいらっしゃいます。また、デジタルプロダクト(製品)パスポート(製品を取引する際、その製品のサプライチェーン情報を付与する取り組み)の議論もあり、4~5年後ぐらいには、こういった資源循環のトレーサビリティニーズが高まっていると想像されます。

第1段階は、ブランドオーナーが製品に関する回収スキームの運用管理をするためのニーズを満たすこと、第2段階は生活者とのコミュニケーションにおいて中間処理業者、中小企業の存在や取り組みを知っていただくことで新たな価値が生み出せないか検討しているところです。このプラットフォームを企業が活用することによって企業価値が高まるし、非常に透明性がある企業活動をしていることは企業のメリットにもなります。コストも参加される方々から徴収が可能かどうかは今後の検討となります。

司会:チャット欄にご質問いただいております。再生商品のブランディングや販売促進、生活者への位置づけについて、今後の展望などがございましたら教えていただけると嬉しいです。

大日本印刷株式会社 尾野氏:生活者への展望につきましては、環境価値を数字で示してもまだまだ実感が湧かない方が多いのが現状です。これらの定量的な環境価値を「伝わる」ように工夫すること、また一人ひとりの活動を見える化することが非常に重要だと思っています。