DX事例

【青山商事株式会社】店舗スタッフ4000人がマーケターに

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。2022年6月20日に行われた「大規模法人部門」
より、青山商事株式会社の事例をご紹介します。

青山商事株式会社は、コア事業であるビジネスウェア事業の持続的な成長を図りながら、
カード事業やフランチャイジー事業などの多彩な事業展開をグループ経営として推進している企業です。

同社が展開する「洋服の青山」は、日本全国に約700店舗を構え、約4000名のスタッフが店舗運営を行っております。当記事では、コロナ禍における社会システムや消費者行動の
劇的な変化に伴い、「洋服の青山」が新たな顧客体験創造のために取り組んだDXを紹介します。

青山商事株式会社の概要

■法人名:青山商事株式会社
■事業内容:各種衣料品の企画・販売に関する事業
■設立:1964年5月6日
■公式Webサイト:https://www.aoyama-syouji.co.jp/

社会・消費者の劇的な変化に伴い、新たな顧客体験創造が必要


「洋服の青山」といえば「スーツ」が想起されるように、明確な目的をもってご来店をされるお客様が多く見られます。

しかし、ここ数年でもたらされた社会動向や消費者行動の劇的な変化に対応するため、
店舗でお客様をお迎えするだけではなく、お客様とのタッチポイントを自ら構築し、お客様にとって本当に必要な情報を発信し届けることが必要となりました。

そこで、「①:接客ツール」「②:お客様アプリ」「③:組織改革」という「DX 3本の柱」を掲げ、DX推進に取り組んでいます。

新たなビジネスモデルの確立を行うことで、青山商事のブランドパーパス「ビジネスのパフォーマンスを上げるパーツを提供する会社になる」を軸として、新たな顧客体験の創造を
目指しています。

①接客ツール:店舗スタッフ4000人をマーケター化

●「ゼロパーティーデータ」
 →店舗スタッフがこれまでの接客によって把握しているお客様のワークスタイルに関する情報。

●「ファーストパーティーデータ」
→来店頻度・購買履歴に関するデータ。

「接客ツール」の一つである「接客端末」では、「ゼロパーティーデータ」と「ファーストパーティーデータ」を組み合わせることで、精度の高いデータドリブンマーケティングを
実現しています。

例えば「接客端末」を活用することで、「購入した事実」だけではなく、「なぜ購入したのか」という背景を理解し、お客様のワークスタイルに応じた新たな商品を提案できるようになります。また、お客様のご要望や補正情報などの登録を同時に行うことで、会計時間の短縮や、販売に付帯する業務軽減につながり、スタッフの業務全体の効率化が計れています。

また、店頭に在庫・希望サイズがない場合には、「店内デジタルサイネージ内のECサイト(デジラボ)」を活用し、お客様と店舗スタッフが一緒に商品選定を行います。
この「デジラボ」は、全国の店舗などから購入することができ、店頭だけでなくお客様の
自宅でも購入商品を受けとることができる「接客ツール」となっています。

「デジラボ」によって、全店連携で品揃えを担保するだけでなく、店頭在庫を縮小、
在庫管理など販売付帯業務の軽減、販売ロスや流通コストの削減に成功しています。

これらの「接客ツール」を利用することで、以前の「不特定多数のお客様を想定した定量的な情報」から、現在は「お客様の本質的な課題を理解し、一人ひとりに応じたご提案」を
行うことができるようになりました。

「接客ツール」は、SDGsにも貢献しています。
「接客ツール」では、お客様が「洋服の青山アプリ」から「マイ店舗」登録をしていただくことで、One to Oneコミュニケーションを実現する機能があります。

この機能では店舗スタッフがアプリのプッシュ通知を作成するため、お客様のタイムリーな悩みに寄り添った課題解決ができます。例えば、「接客ツール」に蓄積されているお客様の購買データをもとに衣替えを予測し、「下取りキャンペーン」情報の配信を行っています。

このような取り組みを通して、年間300〜400トンの下取り品が集まり、「海外でのリユース」「車の断熱材や荷物の緩衝材などへのリサイクル」「災害対策用備蓄毛布へリサイクルを行い、地方自治体へ寄贈」といった形で社会貢献活動を推進しています。

②お客様アプリ:デジタル活用で新たな顧客体験創出

「洋服の青山アプリ」では「店舗」「オンラインストア」双方で新たな購入体験の創造を実現しています。

●「バーコードスキャン」
 →店頭で気になった商品のバーコードをアプリでスキャンすると、スマホからオンラインストアのレビューやスタイリング写真を閲覧できる機能。

●「チャット相談」
 →ECでのお買い物中に、困ったことをチャットで相談できる機能。シニア層も、ファーストスーツをお買い求める新社会人にも、それぞれに最適な商品を探してもらえるよう、店舗での販売経験が豊富なオンラインストア専門スタッフがお客さまのご要望やご質問にチャット形式で回答。

総務省の調査によると、2022年4月時点で国内におけるネットショッピング利用世帯の割合は52.4%となっており、コロナ禍を契機に、ここ数年で一気に増加しています。

一方で、デジタルツールに関して「操作が難しい」「近くに相談できる人がいない」など
難しさを感じ、利用を躊躇される方が存在し、今後デジタルを社会に定着させるには、すべての人がデジタルの恩恵を受けられる機会を与える、いわば「誰一人取り残さない」ための取り組みが必要と指摘されています。

洋服の青山アプリをお客様にご利用いただくことで、店舗でのお買い物の際にはオンラインストアのメリットを受けることが可能になり、オンラインストアでのお買い物の際には店舗のメリットを受けることが可能になります。私たち青山商事は、店舗とオンライン双方の
メリットを、デジタルを通して享受可能なサービスとして提供することにより、デジタル社会の定着化に貢献していきたいと考えています。

③組織改革:デジタル人材化の促進・意思決定・情報共有

2020年4月、社内に「デジタルコミュニケーションヘッドオフィス」を新設しました。
この部署のミッションは「EC拡大」および「デジタル戦略推進」であり、以前は各部署に
分散していたデジタル業務を集約した、社内横断的なDX推進の基幹部署です。

「EC運営」「Webマーケ施策立案」「リサーチ」などの役割を担っており、外部パートナーも巻き込む体制とし、迅速な情報共有体制を構築しています。

まとめ

DX推進の成果としては、コロナ禍の影響を大きく受けたビジネスウェア事業において、2021年度売上高は前年比34億円の増収、黒字化に貢献することができました。
さらに、アプリ経由EC売上は前期比125%となりました。

加えて、DX1本目の柱である「接客ツール」の「デジラボ」によって、店舗在庫の圧縮が
進んでいます。空いた売り場スペースを、オーダースーツコーナーとして活用するだけでなく、フィットネスなどのフランチャイジー事業など新規ビジネスでの展開を図っています。
以上の取り組みを通じて、今後も引き続きブランドパーパスである「ビジネスのパフォーマンスを上げるパーツを提供する会社になる」ことを目指してまいります。