DX事例

【ディップ株式会社】求人の営業会社が労働力の総合商社にDX

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。2022年6月20日に行われた「大規模法人部門」
より、ディップ株式会社の事例をご紹介します。

求人情報サービス「バイトル」の運営会社であるディップ株式会社。日々の営業活動において「アナログ作業が多い」という課題を抱えていました。

そこで「営業部門のDX」に取り組み、商談データ蓄積の仕組みを構築。社内でテクノロジー活用への期待が高まったことで、「社内全体のDX」も進み、さらには「DXを外販する新規事業立案」も成功させました。「人」「組織」「事業」の大きな変革に至るまでのステップを紹介します。

ディップ株式会社の概要

■法人名:ディップ株式会社
■事業内容:人材サービス事業とDX事業
■設立:1997年3月
■公式Webサイト:https://www.dip-net.co.jp/

3ステップのDX戦略

ディップがDXを実現したストーリーについてお話します。
次の3ステップでDX戦略を進めていきました。

ステップ①「営業DX」:アナログ業務のデジタル化を進めて、データ取得環境を整える

ステップ②「会社DX」:社内のデジタルリテラシーを強化し、業務効率化を進める

ステップ③「新規事業立案」:前者2つの成果、そして自社の営業基盤を活かして新規事業を立ち上げ、社内のDX成果を外販するプラットフォームを構築

営業DX:アナログからデジタルへ。CRM利用率約99%で業務効率化&データ取得

ディップには今年400人以上の新卒が入社しています。入社後、営業現場に配属されると、平均して新卒4名が既存メンバーの下に入ります。すると課長は8名程度をマネジメントすることになり、工数が逼迫する課題が毎年発生していました。

そこで、課題解決のため「レコリン」というアプリを開発しました。
これは、訪問すべき企業がすぐに見つかるデジタル手帳です。過去の接触状況から求人情報の出稿状況を可視化し、訪問すべき顧客がすぐに見つかります。

さらには、商談入力を簡単にして、メールによる上司への報告を不要にしました。
現在、約1500人の営業が「レコリン」を活用して商談入力を行っています。

「CRM/SFAを入力してくれない」というのは、どこの営業現場でも発生する課題で、
ディップでも同様でした。社内で理由を聞くと「顧客検索に時間がかかる」「入力項目が
多い」「商談入力して、意味あるの?」といった不満の声が多いことが分かりました。

不満の原因を考えた結果「多機能を重視してCRM/SFA製品を選定している」「営業プロセスを理解せずに導入している」ということが分かりました。今まではシステム導入がゴールになっていて、営業の気持ちに向き合っていなかったから、CRM/SFAが定着していなかったのです。

そこで、徹底したUXリサーチをして新たなアプリを開発するプロジェクトを立ち上げ、
開発者も営業になりきることで成功に導いていこう、という発想に辿り着きました。

ペルソナ設定のため、当時新卒2年目の佐口くんにフォーカスしました。その理由は、
「頑張っているが、予算未達の2〜3年目営業をターゲットとすべき」だと考えたからです。新卒よりは、基本を理解している。でも、自分の営業スタイルがまだ未完成。

そんな営業をヒーローに仕立て上げることで、より営業現場のDXを推進できるのでは、
と考えました。「彼が予算達成できるプロダクトを作ろう!」という発想でプロジェクトを開始しました。

アプリ開発者も営業と同じ目線に立つために、はじめは神田の営業所に3ヶ月間通うところからはじめました。実際にテレアポも商談同行も、リスト管理も、営業活動に一緒に取り組み、「何が大変か?」「日々、面倒に感じているポイントは?」を実体験として味わい、
プロダクト開発のポイントを磨き上げていきました。

<アプリで目指した成果>

①課長への商談報告
→LINEと、CRM/SFAの二重入力をなくし、1回で済むようにしたい。

②移動中のスマホ入力
→Excel+手帳では移動中のリスト確認が難しい。移動時間に完結するようにしたい。

<アプリ開発の結果>

・①②が実現した結果、セールスタイム(本来の営業活動)に充てられる時間が増えた。

・「レコリン」利用(毎朝出社時に「レコリン」でリスト管理。商談後は「レコリン」で
上長報告)が毎日のルーティンとなり、上司が指示しなくても商談データが自然に貯まるような仕組みづくりができた。

「レコリン」が組織内に浸透するまでには、ベテラン勢から反対の声もありました。
「頭を使わなくなるのでは?」「Excelのほうが管理しやすい」「今までのほうがやり
やすい」など、トップダウンでも動かない反対派も多かったです。

その一方で、スマホ世代の新卒には大ヒットでした。「レコリン無しでの営業は考えられない」「Excelから卒業できた」など現場からの評判は良かったです。

そこで「サンドイッチ戦略」と呼ぶ作戦を取りました。つまり、「トップダウン」と
「現場営業の評判・支持の声」両方の力で、アプリを組織内に浸透させていき、リリースから約1年で全社に利用を浸透させることができました。

会社DX:デジタルリテラシー強化で個人の行動が変わり、組織も変わった

前出の「営業DX」の成果により、営業現場における「テクノロジーへの失望」が「期待」
へと大きく変化しました。すると個人でも組織でも「業務効率化を、もっとやりたい!」
という声が多数挙がるようになり、社内DXのさらなる強化・推進が始まりました。

自分の業務を効率化する方法を学ぶ「自分ごとDX」という取り組みを展開し、社内でRPA
を推進、営業部も積極的に勉強会へ参加するようになり、RPAのロボット作成法を学んでいきました。この活動を経てRPAが自然と普及したことで、社内のデジタルリテラシーが向上しました。

また、並行して「Slack」「box」を導入、ローカルアクセスからクラウド環境に移行しました。その結果、SaaSとRPAを組み合わせた大幅な業務効率化が実現され、約20万時間の
社内工数削減に繋がりました。

新規事業立案:営業基盤を活かし、社内成果を外販

「社内で上がった大きな成果を、社外へも発信していきたい」そんな声も多く上がるようになっていきました。

そこで、一連のDXの成果をつなげた新規事業を立案する機運が高まり「デジタルフランチャイズ戦略」を打ち出しました。海外で成功しているデジタル企業は、AmazonでもNetflixでも、デジタルの仕組みを「貸す」「売る」という事業を展開しています。ディップでもそんな仕組みを作ろうと考えました。つまり、「RPA」や「DX」の実績を社外に向けて売り出すプラットフォームを作ろうとプランニングを始めました。

その結果として誕生したのが「DX事業」です。
「人口減少に伴う労働力不足問題、人材サービスだけではいつか限界を迎えてしまう‥」
社内で、そんな課題感を持っていました。

そこで新たに「Labor force solution company」というビジョンを策定し、「人材サービスと、DXサービスの提供を通じて、労働市場の諸課題を解決したい」という方針を固めました。

「DX事業」で外販する具体的なプロダクトとしては

●採用・人事業務を効率化にするシステム
●飲食店の販促DXを促進するシステム(LINEミニアプリを活用、飲食店の常連顧客獲得に特化したDXサービス)
●中小企業の営業DXを促進するシステム

といったものが挙げられます。
ディップのターゲット顧客は中堅・中小企業約190万社です。大手企業には、大手SIerや
ITコンサルが既に進出しているので、当社では、既存の顧客基盤を活かせる中堅・中小企業にフォーカスしています。

DX事業をはじめて3年目となる現在、売上高前年同四半期比176%と高成長が続いており、中小企業にRPAニーズがあることも実証できました。

まとめ

ディップの強みは、次の3点です。

①顧客基盤を活かし、全業界にアプローチ可能。中小企業約190万社をターゲットにできる。
②1500人の営業がDX製品のフォローに当たることができる営業力
③素早いプロダクト開発ができる成長速度

ディップの強みを活かしたDXを実現できたと言えます。
最初は、社内の営業部門のDXからはじまりました。

一人ひとりの業務を効率化することで、個人の行動が変わって新しいアイデアが生まれ、
組織まで大きく変わりました。

つまり、「人」が変われば、「会社」も変わります。

今後も「人」と「ロボット」を労働力として提供することで中小企業の成長に貢献し、
社会を少しでも良いものにしていきたいと考えています。