DX事例

日本初のデジタルバンク設立 “みんなの銀行“-価値のコネクティビティサービスで未来を切り拓く-​|日本DX大賞2023

日本DX大賞とは、日本のDX推進を加速するために、事例を発掘し共有するコンテストです。
2023年6月19日に行われたBX(ビジネストランスフォーメーション)部門 決勝大会では、デジタル化の波がビジネスのあり方を大きく変えている現代において、既存のビジネスモデルを根本から見直し、革新的な形で事業を展開している企業や組織による事例が発表されました。

この記事ではその中から、日本初のデジタルバンク設立に成功した、株式会社みんなの銀行の事例をご紹介します。

株式会社みんなの銀行の概要

■法人名:株式会社みんなの銀行
■事業内容:スマートフォン専業銀行
■設立:2019年8月15日
■公式Webサイト:https://corporate.minna-no-ginko.com/

お金のマッチング(価値仲介)に留まらず、価値あるつながりを創造していく新たなビジネスモデル

みんなの銀行 永吉氏:

2016年から私はデジタルを活用した新しい金融サービスの創出に取り組んできました。その新規事業の延長線上に「みんなの銀行」はあります。

「みんなの銀行」は2021年5月に設立された新たな銀行で、お金のマッチングという従来の銀行機能が持つ価値仲介に留まらず、「新しい金融機能」の提供を通じた新たな価値を創造することがミッションです。

デジタルネイティブ世代を主要なターゲットとし、スマホやSNSの使用に慣れた顧客に対して最適化された銀行サービスを提供することを目指しています。

「みんなの銀行」の名称は、以下の三つの主要なサービスコンセプトから派生しました。


1.みんなの『声』がカタチになる:
ユーザーの声を直接サービス改善に反映させること

2.みんなの『いちばん』を届ける:
デジタルデータを活用し、ユーザーに最適なパーソナライズされたサービスを提供すること

3.みんなの『暮らし』に溶け込む:
従来のフロントエンドサービスだけでなく、Banking as a Service(BaaS)という新しいビジネスモデルを通じて、他の事業者の裏側から銀行機能を提供すること

これらのコンセプトを具現化するため、「みんなの銀行」と名付けました。

「みんなの銀行」の事業範囲は以下の3つの領域に広がっています。

1.BtoC事業:
個人向けに直接銀行サービスを提供する事業

2.BtoBtoX事業:
ビジネスパートナーに対して銀行機能を提供するBaaSを提供する事業

3.バンキングシステム提供事業:
新たに銀行を設立したい他の企業や組織に対して、銀行システムそのものを提供する事業

これらの領域での取り組みにより、「みんなの銀行」は新たなビジネスモデルを推進し続けています。

銀行のDXからBXへ

みんなの銀行 永吉氏:

ふくおかフィナンシャルグループという九州地方の主要都市に拠点を持ち、国内最大の地域金融グループのDX戦略において、「みんなの銀行」が果たす役割について説明します。

ふくおかフィナンシャルグループは、150年以上にわたる長い歴史を持つ銀行業界の中で、アナログな手法を用いた業務が主流でしたが、現代ではデジタル化の波に乗り、DX(デジタルトランスフォーメーション)を積極的に推進しています。

このDX戦略は、既存事業のアナログ業務を少しずつデジタル化していくことに重点を置いています。このデジタル化は、150年に及ぶ銀行業界の歴史を一夜にして変えるものではありませんが、将来的には10年、20年という長期にわたり生き残るための強固な銀行づくりにつながると信じています。

一方、規制緩和により多数の新規プレイヤーが金融市場に参入した現状への対応や、地方における人口減少や金融資産の縮小という課題に対処しなければならない状況です。

こうした状況に対応する一つの手法として、「みんなの銀行」が立ち上がりました。これは、「両利きの経営」という2WAYアプローチによるもので、既存事業においてコアビジネスの高度化を進めつつ、新規事業(事業変革)においてはビジネスモデルそのものをゼロベースで刷新し、デジタルバンクの新設にチャレンジをする、という戦略です。

これは、銀行業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)とBX(ビジネストランスフォーメーション)について考える際に重要な考え方です。

伝統的な銀行業界のDXとは、150年に及ぶ歴史の中で培われた銀行業務をデジタル化することを指しています。銀行業界におけるDXには、紙や印鑑のない情報管理、Web上でのデータ管理、そしてそのデータを活用した業務の効率化といった段階が存在します。

「みんなの銀行」は、出発点からデジタルであることを前提とした新しい発想で銀行業に取り組んでいます。つまり、BXを通じてビジネスを進化させるために、既存の仕組みにとらわれずゼロからスタートし、デジタル環境を前提として、どのような銀行サービスを提供していくかを考えています。

「みんなの銀行」の特徴は、これから10年後の銀行がどうあるべきかを、ゼロから構築するという逆転の発想をしていることです。

我々は、この「DXからBXへ」の新しい取り組みを通じて、全ての要素をゼロベースで再構築し、新たなデジタルバンクの実現を目指しています。

DXを前提にした独自の金融サービス

みんなの銀行 永吉氏:

では、DXを前提にした独自の金融サービスとは何かについてお話しします。

「みんなの銀行」は、未来の銀行がどうあるべきかという視点から設立されました。特に、10年後、20年後に主要な顧客層になるデジタルネイティブ世代のニーズを考慮しています。

既存の銀行の仕組みやシステムではこれらのニーズに迅速に対応することは困難です。既存の仕組みやシステムの制約に縛られず、現在のニーズを素早く実現できる柔軟な組織やシステムをゼロから構築しました。そのために、我々は既存のバンキングシステムを使わず、自らバンキングシステムをゼロから作りました。

その結果、日本で初めて、Googleのクラウド上に銀行のコアバンキングシステムを構築し、それを1年半という短期間で実現することができました。この成果は、我々の強みとなっています。

みんなの銀行のアプリは2年間で200万ダウンロードを超え、実際に使用しているユーザーの7割は30代以下のデジタルネイティブ世代で、全国47都道府県からの利用があります。全てをゼロから構築したおかげで、ユーザーフレンドリーなUIとUXを実現し、世界の3大デザイン賞のうち2つを受賞しました。

我々のコミュニケーションは、主にデジタル上のSNSやウェブサイトを中心に行われます。そこから得られるユーザーのフィードバックはサービス改善に活用されています。

サービス改善のために、SNSやアプリストアのコメント、コンタクトセンターの問い合わせなど、ユーザーの声を真剣に取り入れ、組織の運営に組み込む仕組みがあります。その一つとして、取締役会の下に「みんなの声委員会」が設けられており、ユーザーの声を分析し、アクションを起こすプロセスが組み込まれています。

また、サービスの中で特筆すべきは、各種銀行口座や証券口座、クレジットカードなどを連携して、お金の動きをまとめて管理できる「レコード」​機能。明細にハッシュタグをつけることで、検索・集計もできます。これらのサービス改善のため、1年間で18回もアプリのバージョンアップを行っています。

そして、我々のサービスは、通常の預金口座を中心に、お金を送る、預ける、借りる、増やすといった銀行の機能と、実物のお財布を一体化したデジタルウォレットの世界観を目指しています。

さらに、新しいビジネスモデルとして、BaaS を展開しており、事業者に対し、APIを介してみんなの銀行の金融機能・サービスを提供し、自社のアプリやウェブサイトから利用できる仕組みを実現しています。

新しいデジタルバンクを目指す「みんなの銀行」のビジョン

みんなの銀行 永吉氏:

新しいタイプの銀行をつくるためには銀行員だけではなく、多様なスキルを持つ人々が必要です。私たち「みんなの銀行」は、人と組織を重視しています。実際、社内の人員構成は、もともとの銀行員が全体の3割、エンジニアやデザイナー、マーケタ―、データサイエンティスト等のキャリア採用組が残りの7割を占めています。銀行員と各分野のスペシャリストたちがプロダクトごとにチームを形成し、活発な議論を通じて新しい事業を作っています。

私たちのミッションは「みんなに価値あるつながりを。」提供することです。

伝統的な銀行が預金者と借り手を日本円という法定通貨でつなぐ「お金のマッチング(金融仲介)」サービスを提供してきたのに対し、私たちは価値あるものをつなげるビジネス、すなわち「価値のコネクティビティ(価値仲介)」サービスを目指しています。

その価値あるものは法定通貨だけでなく、ヒトやモノ、暗号資産や情報といった形も取る可能性があります。

これこそが、DXからBXへの挑戦で、新しいデジタルバンクを目指す「みんなの銀行」のビジョンです。

革新的なアプローチと、課題点

正能氏(審査員):

DXプロジェクトに共通する部分についてお聞きします。 「DXではなく、BX」というお考えを述べられていましたが、逆に伝統的なDXのアプローチ、つまり既存のものをデジタル化する考え方が適しているのではないか、と感じる点は何かありますか?

みんなの銀行 永吉氏:

私たちは元々デジタルサービスをつくることを考えていましたが、銀行の機能をアプリケーションに組み込むというアプローチは、新しいBXアプローチだと思います。しかし、私たちが生み出せないのは、銀行の本質的な商品や機能です。これらを変えるためには、銀行を根本から変えなければならないと感じました。時間とコストの観点から、ゼロから作るアプローチがより速いと考え、新しい銀行を立ち上げました。

正能氏(審査員):

ゼロから概念を作り直すのは大変だと思いますが、具体的にどのような困難に直面しましたか?

みんなの銀行 永吉氏:

困難なのは、銀行という概念が既にユーザーの中に固定化されていることです。デジタルネイティブ世代の中でも既に金融サービスを利用している20代や30代にとっては、新しいデザインよりも銀行としての機能が重視されます。その固定化された認識を壊すのは難しいです。一方で、未来の顧客にどのような銀行を提供できるかというチャレンジを続けていきたいと思っています。

銀行の役割再定義:新たなビジネスモデルへの挑戦

横山氏(審査員):

銀行システムと人々の思考の難しさは非常に深いものがあり、それを根底から変える取り組みは破壊的イノベーションだと感じました。価値創造と社会インフラの変革は大きな覚悟が必要だと思います。また、B2C2CやB2B2Cの表現が新鮮で、これが世界的に求められていると思います。具体的にどのようなサービスを考えていますか?

みんなの銀行 永吉氏:

私たちのミッションは価値あるつながりをつくることで、これが大きな連鎖を引き起こすと考えています。たとえば、お友達紹介プログラムを通じて、一人の人から何十人にも連鎖的につながる世界が見えてきます。個人のつながりがビジネスの中でも展開されると考えています。BaaSはそのつながりの中心になり、新しいビジネスモデルの挑戦につながると思います。

デジタルネイティブ世代の銀行への期待:4つの価値観

酒井氏(審査員):

デジタルネイティブ世代が銀行に何を求めているかについて具体的に教えてください。

みんなの銀行 永吉氏:

デジタルネイティブ世代が求める4つの価値観として以下を挙げています。

フリクションレス:
面倒な手続きを避け、自動化することを好む。

ハイパーパーソナライズ:
パーソナライズが当たり前で、自分に合った答えを見つけたいと考えています。それに対応するために、我々は金融データや行動データを使用して最適な提案をすることを考えています。

成果主義:
NetflixやAmazonなど、価値があるものに対してはお金を払い続ける傾向があります。銀行のサービスも同様に、自分が取った行動に見合うリターンが返ってくるような価値提供を目指します。

コミュニティ重視:
金融サービスを個人だけでなく、複数人で利用するという概念も重視します。特にSNSネイティブな人々はコミュニティごとに異なる顔を使い分けるため、金融商品やサービスもコミュニティごとに展開することで新たな価値を生むことができます。

内製化とカルチャー構築のアプローチ

酒井氏(審査員):

内製化について、その組織をどのように構築してきましたか?エンジニアの採用や社内のリスキリングなどについても教えてください。

みんなの銀行 永吉氏:

一つ目のアプローチとして、私たちはもともとの銀行員だけでなく、多種多様なバックグラウンドを持つエンジニアやデザイナー、マーケター、データサイエンティスト等の人たちにも異なる業界から参画してもらいました。その結果、それぞれが持つ知見やノウハウを活かし、金融規制にもかかわらず新たな方法を模索することができました。

また、スタートアップ企業のようなカルチャーをつくることを目指しています。ミッションやビジョン、我々の仕事の流儀を共有し、それを日常の業務の中で活かすことで、魅力的なサービスを提供する企業をつくるきっかけとなっています。

イノベーション推進の成功要因とサービスの確立タイミング

奥谷氏(審査員):

企業内で推進された大規模なイノベーションの成功要因は何だと思いますか?これはトップのリーダーシップの影響なのでしょうか。

また、皆さんが既存ビジネスをアンカリングしながら進行することは理解できますが、どのフェーズで勝利を宣言できるのか、サービスが確立されたと言えるタイミングはいつなのか、これが数百年先なのか、それとも3年後なのか、教えてください。

みんなの銀行 永吉氏:

最初の質問についてですが、私がデジタルプロジェクトを始めたきっかけは、かつての頭取が10年後の金融業界の状況を考える課題を与えたことです。その時点では具体的なビジョンは持てませんでしたが、お客様のニーズを分析しながらプロジェクトを進めていきました。また、私は2014年からデジタルプロジェクトに関与し、社内で新たな取り組みを始める役割を果たしてきました。この経験が評価され、新たなプロジェクトを任されることになりました。

次の質問については、競合やこれからの戦略については難しいと感じています。ただ、我々は既存の銀行のデジタル化ではなく、デジタル起点で未来のバンキングのあり方を追求しています。直接的な競合とは考えておらず、我々自身がどう銀行を再定義し、新しいプロダクトを作れるかに注力しています。この視点から見ると、銀行業界以外のGAFAMやメルカリ、LINEといった企業の方が未来の顧客を捉える方法を考えていると感じています。彼らとどう競争するか、BaaSという観点から、銀行しか提供できないサービスを事業者に提供し、それを広げていくことなどを考えています。

また、金融仲介から価値仲介へのシフトも視野に入れており、法定通貨だけでなくステーブルコインや暗号資産、あるいは物品や情報銀行など、様々な手段を柔軟に取り入れる可能性を探っています。

奥谷氏(審査員):

皆さんが新たなブルーオーシャンを探求し、新たな定義を作りながら進めていく姿勢を期待しています。