連載・コラム

セルフレジ導入に悩むスーパーから学ぶDX導入のための視点

「従業員不足により、しばらくの間セルフレジは封鎖いたします」。先日とあるスーパーに張り出された紙がツイッターに投稿されました。本来、人手不足を解消するはずのセルフレジが、人材不足を招いているとはどういうことなのか?と不思議に思われた方々も多く、“セルフレジの概念崩れる”“本末転倒甚だ”といった声がネット上に投稿されました。このセルフレジ導入で起きた人材不足、“万引き防止のためのレジ監視が増えたから”という意見が多数を占めました。

どうやら、その店にはスキャンから袋詰めまで来店客がおこなうフルセルフレジが計6台あり、“バーコードを読み取らない”“お金が入らない”といった、客からのクレームに2人の店員さんが常に対応。他に2名、レジへの入り口で客を誘導、結局、計4人でセルフフレジ周りを見ていました。そんな中、セルフレジを監督できる従業員が体調不良で倒れてしまった。(セルフレジを)稼働させているといろいろな不備が出ますが、まずレジを開ける(起動させる)のにも技術が必要であることと、その人じゃないとできないということもあって、封鎖した・・・というのが真相のよう。他の社員も対応できるようにトレーニングは行ったようですが、それも専門的な知識が必要ゆえに追い付かなかった。また、高齢者が多く住んでいる街の店舗で導入したところ、お客さんは操作方法を覚えるのが面倒なのか、有人レジに長い列を作ってしまう。結果、せっかく導入したセルフレジの列だけがすいてしまう。導入に慎重な店舗が多い原因となっています。

じぇねんされた通り、フルセルフレジ導入によって万引きの被害が増えている。これでは導入する店舗側からしてみたら、レジのDX化により本来目指していた「コロナ禍においての経費削減」を主目的としていたものの、ネットに上がった声のとおり本末転倒の結果となり、デメリットだけが際立つような結果になってしまっています。

はたしてレジのDX化はデメリットが多く、導入にあたっての解決は難しいのでしょうか?

この投稿を見たとき、レジのDXのみならず、あらゆる分野においてDXを導入する際に直面する課題を浮き彫りにしている事象であるという印象を受けました。

今回のレジのDX化の状況を整理してみますと、来店客にとっては「待ち時間を減らす」「コロナ禍でも店員と非接触で買物ができる」等が挙げられますし、一方導入する店舗にとっては「人手不足の店舗の働き方改革を推進できる」「コロナ禍でも店員と非接触で商品提供ができる」等が挙げられます。

しかしながら来店客にとっては「従業員がいればすぐに解決できたことも、解決に至らない」「使い方がわからない場合などすぐに対応してもらえない」等が挙げられますし、一方導入する店舗にとっては「多大な初期コストが必要である」「その初期コストを回収するための期間が利益と見合わない」等が挙げられます。

たしかにこの高齢化社会においてフルセルフレジをおおよその来店客が使いこなせるかどうかを考えると疑問でしょうし、万引き防止のために清算前の重量と清算後の重量が自動でチェックされて実質監視する従業員が1名で済むようなレジもアメリカではすでに存在し導入されている店舗もあります。しかしながら円安のいま当該のレジを日本国内に輸入するにあたりコストが見合わないことと、なによりも装置のサイズが大きく従来の日本の店舗への導入は厳しいというのが現状のようです。

これらの現状を受けて、フルセルフレジのみではなく、多くのスーパーのオペレーションではスキャンまでを店員が行い清算と袋詰めを来店客が行うセミセルフレジとを併用するスタイルが普及しつつある。「待ち時間を減らしたい」というフルセルフレジを少なめに、「すぐに対応してもらいたい」というセミセルフレジとを多めに併設することで、従業員数を調整し「人手不足の店舗の働き方改革を推進できる」。現在のところレジのDX化という視点でいえば最適解ではないかと考えます。

レジのDX化のみならず、あらゆるDX化において、導入するにあたっての課題の「これまでの要因」を解決しようとするのではなく、「これから満たすべき目的」に目を向けることこそ必要になるのではないか。「デジタル化=難しい」とあきらめている企業に対し、このような視点で支援をひきつづき筆者もNPO東日本の活動としても継続していきたいと考えております。

執筆者

高巣 忠好氏

アットリライト
NPO東日本事業支援機構
1971年生まれ。愛知県豊田市出身。
時計・輸入雑貨量販店・ベンチャー系卸売会社・輸入卸売会社に勤務。チーフマネージャーを務め、コンサルティングファームに転職後独立。
「過去を否定せず、時流に合った方針・計画に書き直す」=アットリライトを理念として中小企業の経営改革支援や事業承継、事業再生の指導を実践している。
認定経営革新等支援機関NPO東日本事業支援機構[関財金1 第145 号] 事務局長