連載・コラム

DX推進のことはじめ「マーケティング」

前回(昨年7月)投稿のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、DXをバリューチェーンで捉え、特に調達のDXを解説しました。

今回は「マーケティング・販売」のDXをテーマにします。近年注目されているのがデジタルマーケティングです。様々なITツールやそのサービスが市場投入されています。そうした中で幾つか鍵となる施策についてご紹介します。

1.徹底した顧客分析

Twitterは、ご利用されている読者も多いと思います。このサービスは140文字で自己の考えや経験、体験などを“つぶやく”機能が提供されます。がその裏でTwitter社が重要視しているのは、ログインしてどれだけ時間を過ごしたか、初めてのつぶやきまでどれだけ時間が掛かったか、といった数値です。

これは、徹底したユーザー囲い込み施策のための分析です。サービス離脱の要因の一つに、初期段階で“難しい”、“面倒”といった体験があることを掴んでいるからです。つまり、数値で捉えた結果をユーザーサービスの改善に活かしたのです。

有名なIT企業だからできた希なことではないのです。小売店舗でも、ユーザーの導線分析から商品の配置を工夫し売上を伸ばすことも可能です。BtoBの製造業でも、“作ること”に自社の力を集中するだけでなく、得意先分析も必要です。得意先は何を求めているのか、他社との違いは何で、自社を選んでいるのはなぜなのか、顧客へのインタビューやアンケートで見えてくることはたくさんあります。

最近私が関わった、ある飲食店で顧客インタビューを実施しました。コアなファンとライトユーザー合わせて15名ほどです。駅から遠いし、店の内装も古びれた感じがあるのが弱点だと調査前は感じていたが、利用している方々は逆に静かでよい、荘厳な感じがする、といったいいコメントをもらいました。また、複数の方々をインタビューすることである程度の割合でどこにニーズがあるのかがおぼろげながら見えてきました。一方のアンケートであれば、主成分分析や因子分析など、統計処理を行い論理的に説明がつく顧客ニーズの把握だできます。

2.AIを用いたリコメンド

Amazonを利用していると、この○○を買った人は他にも△△を買っています、興味を持っています、というような表現で次々に商品を紹介されます。経験された読者も多いと思います。また、Youtubeの動画を見ていると、どうも同じような系統(雰囲気・役者・監督など)の動画が多く表示される、ということもあるでしょう。

これは、AmazonやGoogleはAIによってあなたのお好みを分析し把握してことを意味しています。「いい感じに当ててくるな」一方で「的外れもいいところ」と感じるかもしれません。AIの精度はどんどん上がります。ズバリあなたの嗜好を的中させ、あなたを喜ばせる回数も上がるはずです。

顧客の購買動向を徹底的に分析してマーケティングに活かす、というのはもはや当たり前になってきています。キャッシュレス決済に参入している企業群はまさにこの顧客動向を把握するために何億円もの宣伝費をかけて普及に尽力しています。キャッシュレスだとポイントが付いてお得だから、キャッシュバックがあるから、という顧客の射幸心に訴求する楽天グループ、PayPay、Tポイント、ドコモ、Suica、メルカリといったキャッシュレスサービス企業は顧客購買情報をもとに更なる購買を促進させているのです。

これは筆者からの提案でもありますが、飲食業において、売上・顧客のデータ分析に」加えて、天気との相関関係を考えた割引サービスを検討します。プチ・ダイナミックプライシングです。卸であれば、過去の商品ごとの売上推移を需要分析して仕入を変動させ、利益率を上げます。企業の規模を問わず、顧客の購買動向を分析することで利益を底上げする施策は幾つも考えることができます。 DXというと、何やらITパッケージを導入し既存システムからの乗り換えなど、面倒で難しいイメージがあります。DXやITは所詮ツールでしかありません。今、事業推進にあたって思考の変化が求められています。DXはそもそも売れるものは何なのか、適性価格とはいくらなのか、といった販売上の重要事項をタイムリーにたたき出すことで利益率を上げます。その際に分析を行いますが、そこでITを活用することが重要です。ITありきでなく、何をするためにITを使うのか、という視点でいれば、よくある“コストをかけて○○というツールを入れたのに活用できない”ということを避けることができます。中小企業のDXは手段でなく、目的先行で進めましょう。

執筆者

山本 広高 氏
BFCA経営財務支援協会
NPO首都圏事業支援機構 理事

国立大学大学院終了後、フロリダ・インターナショナル大学にてMBA取得。
アクセンチュア㈱ビジネス統合部門にてコンサルティング業務に従事。
経営コンサルタントとして独立。
2014年、BFCA経営財務支援協会の取締役に就任。
NPO首都圏事業支援機構 理事。