連載・コラム

DX時代に向けた規制改革ただいま進行中!

1.DXのコンセプトのおさらい

日本ではデジタル・トランスフォーメーション(DX)はビジネスの世界でのIT化と同じように語られている面もありますが、もともとはビジネスに限られず「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」(エリック・ストルターマン)という考え方にもとづくコンセプトです。

つまりDXは、既存の技術やシステムのデジタル化・IT化という「発展」そのものに着目するものではなく、デジタル化・IT化によりもたらされる「変化」や「変革」に着目していこうとする考え方なのです。これをビジネスの文脈で言えば、経済産業省が「DX推進ガイドライン(平成30年12月)で明らかにしたように、単に業務の一部をIT化するのではなく、IT化を通じて、もしくはIT化を活用して、自らのビジネスモデル(対外)やビジネススタイル(対内)そのものを変革してはじめてDXだといえるのです。

具体的に言うと、旅行代理店が顧客や交通機関・宿泊施設とのやりとりを電子化するのは単なるIT化ですが、UberやAirbnbのようにオンライン上にプラットフォームを作り利用者と交通機関・宿泊施設を自動的にマッチングする新たなビジネスモデルを創造すれば、それはまさしくDXということになります。

このようなビジネス分野におけるDXの適切な進展は、事業活動の生産性を向上させるだけでなく、消費者の利便性も向上させることになります。人口減少社会の入り口に立っている日本においては、DXの適切な進展は国力の維持に必要不可欠なものと言っても過言ではありません。

2.DX時代の法規制

さて、DXの進展にあたって問題となる様々な課題の一つに、従来型の法規制やルールの見直しの必要性があります。というのは、これまでの法規制やルールは、リアルのヒトが、リアルに動く、もしくはリアルの物・サービスを取引することを主に念頭において作られているので、デジタル化された世界にはそぐわない規制やルールが少なからず出てくることがあるからです。

例えば、これまで行政機関の各種手続において提出する書面には押印が当然のようにルールとして求められていて、これが申請手続等のオンライン化の妨げになっ

ていました。押印は慣習的に本人確認と意思確認を兼ねて求められてきたものですが、ITが発達した現代においては、必ずしも押印でなければこれらの確認ができないというものではありません。

このように従来型の法規制やルールがIT化やDXの進展にとって障害となる場面が少なからずあります。もっとも、だからといって、これらの法規制等が時代遅れだからといって全て無くしてしまうのも適当ではありません。一見、不必要な規制にみえても、大半の規制やルールはそれなりの目的や必要性があって定められたものだからです。必要なことは、現行の法規制やルールの目的をきちんと踏まえた上で、DX時代に合った新しい法規制やルールを作っていくということでしょう。

3.政府の動き

菅内閣は、デジタル化を実現しポストコロナの新しい社会を作ることを主要政策の一つに掲げ、今年9月にはデジタル庁(仮称)を発足させるなど、DX時代に向けた規制改革を強力に推進しています。法規制やルールの見直しについては、内閣府の下に設置された「規制改革推進会議」において検討されており、できるところから見直しの実現を図ることになっています。当面、実施すべきとされている主な項目は以下のとおりです。

・行政手続や契約等の民間の手続における書面・押印・対面の見直し

・リアルでの常駐や専任義務を定めている規制の見直し

・テレワーク普及促進に向け、労働時間管理や健康管理などのガイドラインの見直し

・医療分野において最先端の医療機器の開発・導入の促進にむけた規制等の見直し

上記以外にも様々な分野での規制改革の検討が進行中です。今年6月には規制改革推進会議において規制改革推進に関する答申も出されました。  (https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/committee/20210601/210601honkaigi01.pdf)。

数年以内にいろいろな分野で規制改革が進んでいくはずですから、是非ともアンテナを高く張って、その流れに乗り遅れないようにしたいものです。

執筆者

大高友一氏

弁護士 中本総合法律事務所東京事務所パートナー
JSK事業戦略研究会 会長 
NPO関西事業支援機構 会長

京都大学法学部卒業、平成8年 司法試験合格
BtoC取引、相続、不動産、企業法務、国際取引に強み。
京都大学法科大学院 非常勤講師、政府審議会委員など歴任。