連載・コラム

DX化と個人情報保護法改正

前回の事業戦略ニュースで、電子帳簿保存法や郵便法などをはじめさまざまな改正が行われるタイミングでのDX化は長期的に見れば、生産性の向上、経営情報の可視化など大きなメリットがあるという私見を記しました。一方で、こうした法改正への認識強化や具体的な推進や計画立案のできている企業の割合は低空飛行が続いているようです。

そんな中、「個人情報保護法」の改正がありました。同法の改正に対する取り組みや関心度もまた低いようです。私どもが関与する中小零細企業・個人事業主の法改正への認識は、業種別にばらつきがあります。金融や医療など、センシティブで大量の個人情報を取り扱う業界では認識が高く、比較的対応が進んでいる様です。他方、B2B事業が多数を占める製造や運輸・物流などの業界では、一般消費者の個人情報を取得していないなどの理由から、法対応への認識が薄いようです。

この個人情報保護法は、2020年6月に成立・公布され、2022年4月1日に施行されましたが、今般の改正前にも、ビッグデータを念頭に置いた個人情報の保護と利活用のバランスを図る「改正個人情報保護法」が2015年に行われ、2017年5月に施行され、これが2度目の改正となります。

この改正個人情報保護法のポイントは、大きく6つに分けることができます。

1.本人の請求権の拡充等

2.事業者の義務・公表等事項の追加

3.新たな情報類型の創設(仮名加工情報・個人関連情報)

4.部門別の認定個人情報保護団体の制度化

5.ペナルティの強化

6.外国事業者関係(域外適用・第三者提供時の情報提供等)

本来すべて解説すべきですが、ここでは、改正法とDX化の関連をわかりやすく具体的にいくつかあげてみます。たとえば「1.本人の請求権の拡充等」において、改正前では「保有個人データの開示は原則書面交付」とされていましたが、改正後では「保有個人データの開示方法について、電磁的記録(デジタルデータ)の提供を含め、本人が開示方法を指示できる」となりました。情報が膨大な場合や音声や動画データを含んでいる場合には書面開示では不具合があることなどから、今後は保有個人データの開示に際し、請求者の指定する開示方法で開示する必要がある、となったのです。

また、改正前では「短期保存データは保有個人データに含まない」とされていましたが、改正後では「短期保存データも保有個人データに含まれる」となりました。保有個人データに含まれなかった短期保存データ(6か月以内に削除される個人データ)も個人データに含まれることとなりました。これは短期保存データあっても、情報化社会においては瞬時に拡散し、個人の権利や利益を侵害する危険性があるためです。いままでは開示等の対応コストを削減する観点で、保有個人データを6か月以内に削除する企業が少なくありませんでした。しかし改正法では、短期保存データであっても保有個人データとして開示等の対応を行う必要があることから、個人情報管理システムの変更を余儀なくされます。

また、「3. 新たな情報類型の創設」に着目した解説をします。これまでは特定の個人を識別できない形で取り扱われているインターネットの閲覧履歴、位置情報、Cookie等の情報は本人の同意なく第三者提供を行うことができました。しかし改正法では、当該個人関連情報が提供先において個人データとなることが想定されるときには本人同意が得られていること等の確認を義務付けることになりました。近年、デジタルマーケティング業界において、DMP(Data Management Platform)と呼ばれる閲覧履歴等の収集・蓄積・統合・分析を行うプラットフォームが普及し活用も盛んに行われています。これまで個人情報に該当しないとされた閲覧履歴等も改正法の対象とします。デジタルマーケティング業界を中心に影響のある改正といえるでしょう。

つまり今回の法改正では個人情報というデータも書面ではなくデジタルデータ化することや、デジタルマーケティング業界をはじめとして個人情報関連データの取り扱い対策を、速やかに計画し実行しなければなりません。

まずは自社のビジネスに照らして何が対象情報でどこを修正しなければならないかを考えるところからスタートします。また、Webサイトに掲げる「個人情報保護方針・プライバシーポリシー」の見直しも急務です。

国の施策が「デジタル化」に推進・加速している昨今、「デジタル化って難しい?我が社にはムリ!」とあきらめているわけにはいきません。このような企業に対し、筆者もNPO東日本事業支援機構、また各地の提携NPOもこのような支援活動を継続したいと考えております。

執筆者

高巣 忠好氏

アットリライト
NPO東日本事業支援機構
1971年生まれ。愛知県豊田市出身。
時計・輸入雑貨量販店・ベンチャー系卸売会社・輸入卸売会社に勤務。チーフマネージャーを務め、コンサルティングファームに転職後独立。
「過去を否定せず、時流に合った方針・計画に書き直す」=アットリライトを理念として中小企業の経営改革支援や事業承継、事業再生の指導を実践している。
認定経営革新等支援機関NPO東日本事業支援機構[関財金1 第145 号] 事務局長