DX事例

【株式会社KMユナイテッド】真の働き方改革と人材育成を成し遂げ、“人を活かし、技に生きる“DX経営とは

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。2022年6月21日に行われた「中小規模法人部門」より、株式会社KMユナイテッドの事例をご紹介します。

株式会社KMユナイテッドは、建設業界の深刻な人手不足問題に立ち向かうべく、DXによる働き方改革、人材育成・技術伝承に挑んでいます。その背景と、成果を紹介します。

株式会社KMユナイテッドの概要

■法人名:株式会社KMユナイテッド
■事業内容:
1.塗料及び塗料関連資材の販売・コンサルティング
2.塗装工事業(特殊塗装含む)
3.左官工事業
4.熱絶縁工事業
5.防水工事業
6.内装仕上工事業
7.労働者派遣事業
8.有料職業紹介事業
9.前各号に附帯又は関連する一切の事業
■設立:2013年1月29日
■公式Webサイト:https://www.paintnavi.co.jp/kmunited/

建設業は深刻な人手不足

私たち建設業界では深刻な人手不足とともに、「2024年問題」(働き方改革の問題)に
直面しています。

塗装職人の育成会社として起業した当社は2年前から「建設アシスト」というサービスを
全国展開し、建設現場の働き方改革、人材育成、さらには生産性向上を図っています。 

建設業の発展のために、どのようにDXによって人材育成、技術伝承を成し得てきたのかを
ご紹介させていただきます。

多くの建設現場では、人手不足と技術伝承が待ったなしの深刻な状況です。 
だからこそ中小企業こそ新しいテクノロジーを積極的に導入し、働きやすさをアピールして課題を克服すべきだと考えます。なぜならば、建設業におけるデジタル化導入には次の3つのメリットがあるからです。 

①現場環境の業務効率改善
②デジタル化の推進により「それならば働いてもいい」という求人者の増加
③優秀な人材確保と生産性の向上

危機的状況だからこそ、発想を切り替えれば、新たなテクノロジーの徹底活用で柔軟な働き方を抜本的に転換するチャンスなのです。

職人育成会社 KMユナイテッドとは?

当社は2013年に京都市で創業、親会社である塗装会社「竹延グループ」で働く塗装職人の人手不足を解消するため、職人育成会社としてスタートしました。

女性職人の育成などが注目を集め、2016年「経産大臣 新ダイバーシティ経営企業100選」、 2017年「厚労大臣 働きやすく生産性の高い企業最優秀賞」等を受賞し、2019年には総理大臣の施政方針演説に取り上げられました。

起業のきっかけは親会社で ある「竹延グループ」が創業70年を超える関西最大手の塗装会社であり数多くの有名な建物を手掛けながらも、30年以上にわたって職人不足問題に喘いでいたことにあります。 

その後、今では多くの若手職人が入社して全国的に注目を浴びることになり、人材育成だけでなくさらには自動化の塗装ロボットを鹿島建設と共同開発して、「人」だけでなく「ロボット」にも技術伝承を図っております。

これまで唯一の資産であった「職人の技」と、試行錯誤しながら新たな「人材育成方法」を見つけ出したことで、技術の伝承と、高い付加価値の創造をすることに成功しました。 

先輩の背中を追いかけて仕事を覚えていく昔ながらのスタイルではなく、技術を伝承する仕組みを作り、早く一人前になってもらうやり方に変えていきました。

そうした成功の中で私たちは、「竹延グループ」の70年にわたる歴史と信頼をベースにして、建設現場の生産システム自体を変えたいと思うようになりました。

「人」と「ロボット」の両面で現場を支える「建設アシスト」事業を本格化させるため、
親会社から独立しました 。

建設現場の生産システムを変えたいという新たなビジネスモデル「建設アシスト」は、
起業家の頂点を極める「ジャパンベンチャーアワード2019」にて中小企業庁長官賞を受賞しました。

現場監督の書類業務をサポートし、生産性を向上させ、現場監督の平均残業時間を68%減少する等、大きな成果を実証できたことが評価されました。 

DXで人材育成・技術伝承が進化

建設業界の新たなビジネスモデル「建設アシスト」で成果を出すために、私たちは職人育成で培ったデジタルツールを改良し、活用しています。従業員と顧客の双方の目線で開発したデジタルツールの一例を具体的にご説明します。

技術伝承アプリ「技ログ」

伝えていきたい技を動画に収録し、時間がある時に見てもらう 「技術伝承アプリ『技ログ』」です。

作業項目ごとにベテランの技を撮影し、従業員が分かりやすいように動きのポイント、
注意点等、音声・文字で補足した編集動画を見ながら学習できます。動画で技術をシェアリングすることで、ベテランと若手が仲間意識を持つことができるようになりました。

いつでもどこでも一流技術の暗黙知を、デジタルの力で形式知化でき、技術の断絶を防いで未来へとつなぐことができます。 

当社が始めた取り組みが、今では建設業界と国を巻き込むうねりとなって、さらに農業・
水産業・製造業の動画が集まり、海外からもアクセスされています。

スマホで勤怠管理「コネキャリ」

建設業では、個々の報告に基づき給与の支払いや、各ゼネコンに対し請求を行っております。今でも300万人超の職人の多くは給与支払いに直結する勤怠が、ほとんどの会社で「紙」で取り扱いを行っている状況です。

そこで、どの職人でも所有しているスマホに目をつけ、勤怠管理自体をシステム化することに成功しました。「コネクテッドキャリア(通称:コネキャリ)」という勤怠管理のアプリをSalesforce社と共同開発し、ワールドツアーでプレゼンテーションするほどの評価をいただきました。

導入の結果、集計された情報によって、給与計算以外にも、「どの現場に誰が入っているか?」を経営陣が一目で分かるようになり、事務作業が従来の70%と、大幅に効率化することができました。

また「コネキャリ」によって現場の作業内容 がビッグデータとして集まり、それらに現場の収益情報を掛け合わせて分析することで、収益が高く、「人」という限られた資源を最大限活用できる人材配置モデルを抽出できるようになりました。

デジタルを人材育成に活用することで、ベテランが未経験の若手にデジタルの使い方を教えてもらう動きが自然と起こりました。普段はベテランが未経験の若手に技術を教えているので、従前とは逆の現象です。

コミュニケーションが充実し、ベテランが自ら積極的にデジタルを使えるようになろうという意識が芽生えてきました。 「ベテラン職人の技術を伝承したい」という思いに端を発し、塗装技術の動画投稿というデジタイゼーションをきっかけに集団を変え、マインドを変え、組織すらも変貌させてきたのです。 

私たちはこうしたDXで、ものづくりのガラスの天井をも取り払おうと考えています。
建設業がDXによって時間・場所・言語・所属といった制約を受けず、誰でもがチャレンジできる人材育成産業になり、新たな働き方に革新できれば、再び日本のモノづくりに世界が熱狂する時が来ると信じています。

建設業の新たなビジネスモデル「建設アシスト」

職人育成の成功をきっかけに、DXによって花開いたのが新たなビジネス 「建設アシスト」です。

「建設アシスト」は真の多様な働き方を提示して、生産性革命の波を全国やアジアに展開できる段階にまでなりました。建設現場は人手不足と膨大な書類作成によって長時間労働が
常態化し、多くのエンジニアが辞めていくのが現状です。

本来エンジニアは建築に関する知識・経験を活かし、自分たちの磨いたコア業務で戦いたいはずです。ところが、なんとノンコア業務である「書類業務」が55%も占めています。 
そこで「建設アシスト」がサポートすることで業務の標準化を図り、業界全体にシェアし、本気で戦える環境を作っていきたいと考えました。 

ただ、日本の生産年齢人口は今後30年で現在の3分の2まで減っていきますので、単なる代行(アウトソーシング)ではなく、スキルアップや業務標準化などにより、3名分の仕事を2人でこなせる生産性向上をして、現場からさらに業務を引き出すことで差別化を図ろうとしています。

例えば、人手不足を個々の現場で補おうとすれば、その都度教育が必要となり、仮に辞めてしまえばまた一から教育をし直し、非常にコストと時間がかかってしまいます。

一方、「建設アシスト」はDXを念頭に、様々な現場に行くのではなくサテライトオフィスに人と業務を集約し、反復することで知識を蓄積していきます。さらに守秘義務を守りながら、メンバー同士のノウハウの可視化を行います。

その結果、人材教育のコストを下げ、知識の蓄積、さらに個々の報酬をアップすることで
時間内に集中して生産性向上へのモチベーションを上げていきます。

これまで建設業が拒んでいた、制約のある優秀な人材が建設業に参入できるような環境を作ることをDXの起点としてい ます。

サテライトオフィスに業務を集約し、場所や時間の制約を極力排除し、 子育て中や介護中などこれまでスポットライトが当たらなかった人にも働きやすい 環境作りを整えています。
1分1秒を大切にして基本的には残業はゼロ、リモートワークも適宜できます。

働き方改革と言えば「残業がない」とか「時短」「週休二日」と捉えている方がまだまだ
多いように思いますが、本来は「仕事に集中して生産性を上げる革新的な働き方を追求する」だと考えています。知識のシェアリング、業務の可視化と、標準化生産性の可視化ができれば、長時間労働の温床になっていた仕事のブラックボックス化を解消することができます。その上でデジタル化を掛け合わせることにより、人手不足の国でも、中小の企業でも、
高い生産性を維持でき、差別化できると考えています。

その結果、これまで人気がなかった建設業にも、やる気のある多様な人材を迎え入れ、
評価され、報われ、スキルをさらに磨いていくことができます。成果としては、雑務で見える化できなかったノンコア業務を可視化することができました。

まずは業務量が多いものにフォーカスして生産性向上を実証します。業務量が多い作業項目においては、デジタル化を活用しなくても平均して1.79倍の生産性向上を実現できました。

重要なことは、業務の棚卸しをして生産性向上を検証したうえで、徹底的にデジタル化を
推進することです。 例えば、RPAの開発・導入で、単純な繰り返し作業を自動化し、生産性向上へとつなげる、といった進め方です。

アナログな「手入力」の作業が介在する部分をRPAで自動化したことで、5倍強の生産性向上を実現した業務内容もあります。これに、先ほどの働き方改革による効果を掛け合わせれるかどうかが、差別化につながります。

最後に

私たちが導き出したDXの方程式は、「デジタル化による既存の刷新」ではなく、
まず凝り固まった働き方や人材育成方法を見直した上で、徹底したデジタル化をすることです。

この方程式で、魅力的な職種・組織・業界に変わっていく、真のDXを実現できると信じています。