DX事例

後藤組が実現した「全員DX」

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月19日に開催されたMX(マネジメントトランスフォーメーション)部門では、デジタル化を通して企業風土や業務プロセス、意思決定に関わるワークフローなどの変革に取り組んだ企業を表彰しています。

DX推進で大きな挫折を経験した後、「全員DX」の理念を掲げて、全社一丸でkintoneを活用しながらDXに取り組んだ、株式会社後藤組の事例をご紹介します。

1. DX推進の背景:KKD(勘・経験・度胸)に頼っていた若手社員の育成手法

山形県米沢市に本社を置く株式会社後藤組は、創業約100年の歴史を持つ中小建設会社です。

地方の建設業の会社と比較して30歳以下の社員比率が62%、平均年齢38歳と若く、2010年頃から新卒採用に注力している背景もあり、後藤組の若手社員数は年々増加しています。ところが、1人で現場をこなせる技術者の数、建設業における売上に直結する社員数は年々減少。採用した若手社員を育成し、1人前の技術者として現場で活躍できる人材を確保することが経営課題となっていました。

また、「KKD(勘・経験・度胸)」と呼ばれる、建設業界特有の人材育成方法にも問題がありました。しかし、この方法では若手社員の配属される現場次第で積める経験が異なる上、若手社員にレクチャーするベテラン社員は長い時間をかけて自己流の仕事の仕方を身につけているので、成長に時間がかかり、個人の能力差が大きくなってしまいました。

2. DX推進をはじめたけど……失敗を糧にした全員参加型アプローチへの方針転換

実は、後藤組はDXを推進する過程で大きな失敗を経験しています。経営管理部部長の笹原 尚貴氏は、次のように話しました。

「社長の指示により2019年に取り組みを始めたんですが、担当者である自分が最初1人で、kintoneでアプリを作ってました。しかしこれではすぐに限界が来てしまい、気づけば自分だけが張り切っていて、周りを巻き込むことができなかった。しかも現場は無関心だったことに気づけなかった。そんな様子を見て社長から、アプリ作成禁止の指示があったとき、現場の人自身がアプリを作り、データを活用できる仕組みを構築していかないといけないことに気づきました」

この失敗から学んだ教訓を基に、後藤組は方針を大きく転換しました。一部の人間だけが取り組むのではなく、現場の社員を含めた全員が主体となって取り組む「全員DX」という考え方です。

推進体制も従来のトップダウンではなく、事業部門の手によるボトムアップに変更。事業部門ごとに立ち上げられたプロジェクトの伴走支援を、推進担当が横串的に行っています。

一方、社長は全社員に向けて毎月2回、さまざまな情報発信をする場を設け、DXの必要性を説いていきました。その際、DXの具体事例を紹介し、社員に発破をかけていったのです。

3. 3つの柱で推進「全員DX」の実現

人材育成と、それに付随するさまざまな課題を解決するために、後藤組が選んだのが「データドリブン経営」でした。これまでのKKDによる属人的な判断で仕事をする組織から、データという客観的な事実を用いて仕事する組織への変革を目指そうとしたのです。

そこで、後藤組では「全員DX」という理念のもと、社員全員を巻き込んだ3つの取り組みを行いました。

1. 社内勉強会の実施:「DX ワークショップ」と名付けた、DXに関するスキルを学ぶ社内勉強会を実施。kintoneのアプリ開発からダッシュボードの作り方、BIツールまでをレクチャーしています。勉強会で最も成績の悪かった社員が、次回の講師役を務めるのが特徴で、「講師をしたくないからしっかり講義を聞こう」という社員の姿勢を引き出しています。

2. 社内資格制度:後藤組におけるIT人材のスキルを定義し、3つの段階に分けた社内試験を実施。取得者には奨励金と資格手当が贈られます。

3. データドリブン(DX)大会の開催:社員全員が参加する、年1回の社内コンペです。全社員を数名ずつのチームに分け、DXの成果をプレゼンし合います。最も素晴らしい取り組みだと思うものに社員が投票し、優勝チームには賞金が贈られます。この仕組みにより、社員のモチベーション向上と、成果の横展開を図っています。 

これらの取り組みにより、後藤組では約5年間でkintoneアプリの総数が2,000件を超えるなど、全社的なDX推進が実現しています。

4. DX推進の成果

後藤組のDX推進の成果は、具体的な業務改善事例として表れています。いずれも、社員自らが作成した、現場のニーズに即したアプリばかりです。

1. 工程表作成をアプリ化:従来、工程表の作成には経験豊富な技術者のノウハウが必要でしたが、アプリ化したことにより、若手社員でも簡単に工程表を作成できるようになりました。さらに、工程に合わせて施工日の前日になるとその日に使うべき工事のチェックリストがメールで配信される仕組みも導入し、作業の標準化を実現しています。

2. 建築資材フリーマーケットアプリ:養生材など現場で発生した余剰資材は、現場ごとに廃棄していましたが、このアプリにより他の現場で再利用できるようになり、年間400キロの廃プラスチックの削減に貢献しています。

3. 勤怠管理システム:他の業界と同じく、建設業でも2024年4月から時間外労働の上限規制が始まっています。この課題に対し、後藤組では顔認証を利用した勤怠管理システムを導入し、kintoneでアプリ化しました。社員は会社に出社したら、各現場事務所に設置されているiPadで顔写真を撮影します。顔認証で打刻が完了するため、出勤場所の把握と残業時間の適切な管理が可能になりました。

kintoneを現場の社員が使いこなしつつ、業務改善に取り組んでいるうちに、次第に具体的な成果が表れ始めました。

  • 残業時間の削減:取り組み前に比べて20%以上削減(年間で一人あたり約76.8時間の可処分時間の増加に相当)
  • 若手社員の3年後定着率向上:64.3%(取り組み前)⇒83.3%(取り組み後)
  • ブランド力アップ:DXに関するコンテストでの受賞、新聞やWebメディアの取材が増加

ペーパーレス化:取り組み前に比べて60%削減。代わりにQRコードが重用され、事務所の内外だけでなく重機にも貼られている

協力業者のコミットメント:建設業の協力業者に向けて、現場単位でITツール利用の勉強会を実施。協力業者をも巻き込んだ業務プロセスの見直しが進んでいる

これらの成果は、DXが単なる業務効率化ツールではなく、組織全体の変革と成長をもたらす力を持つことを証明しています。特に、若手社員の定着率向上は、当初の課題であった「若手社員の早期戦力化」に直接的に寄与する重要な成果と言えるでしょう。

5. 今後の展望:進化し続ける100年企業を目指して

後藤組のDX推進の取り組みが他の企業に知られるようになった現在では、自社のノウハウを共有する会社見学会を開催。また、実際に後藤組で使って成果が出たアプリ販売など、DXをより進化させるため、建設業の枠にとらわれない新たなチャレンジをスタートさせています。

後藤組は、進化する100年企業を目指してDXの取り組みを加速させ、建設業界をリードしようとしています。

 6. まとめ

後藤組は、人材不足と若手社員の早期戦力化という課題を認識。解決のためにDXにデータドリブン経営を採り入れ、担当者だけが行っていたDXを、「全員DX」という理念を掲げて、社員全員を巻き込むDXへと変化していきました。また、DXワークショップや社内資格制度、DX大会などの仕組みを整備し、社員の積極的な参加を促す具体的な仕組み作りにも注力しました。トップダウンからボトムアップへとシフトしたことで、現場の実情に即した業務改善が進んでいったのです。現在、後藤組が成果を上げたアプリを販売したり、他社からの視察を受け入れて見学会を実施したりするなど、新規ビジネスの創出にも成功しています。

「進化する100年企業」を目指し、後藤組はこれからも、全社一丸となってDXに取り組んでいくでしょう。