株式会社鈴花は、佐賀県佐賀市に本社を置き、西日本を中心に約80店舗を展開する老舗着物店です。従業員の平均年齢は60歳を超え、顧客の年齢層も高い呉服店ですが、2015年からグループ店舗間でのコミュニケーションにクラウドツールを導入したことを契機に、数々の取り組みを進めてきました。また2020年ごろから、顧客との新たな関係の構築方法を模索。公式LINEなどを活用した新たなサービスも開発しました。
本記事では、鈴花が直面した複数の課題に対し、どのようにクラウドサービスを活用して解決策を導き出したのか、深掘りします。
DX推進やクラウド活用を決定した背景
株式会社鈴花は、グループ店舗と本店とのコミュニケーションと書類のやり取りを円滑にすることを目的に2015年にChatworkとSkypeを導入しました。それまでは、グループ店舗全てと会議をするにも、従業員が本社に出向く際の移動時間や交通費がかかっていました。2016年の熊本地震の発生をきっかけに、従業員も徐々にクラウドツールを積極的に活用するようになりました。
その後、コロナ禍における対面活動や対面会議の制限により、電話・FAXのやり取り、対面でのコミュニケーションが中心だった営業方針を大きく変えざるを得なくなり、2020年に多様なクラウドツールを活用した業務プロセスの改善に取り組みました。しかし、着物の着用頻度の低下、C to C取引を含むインターネット販売の盛況、企業間競争の激化など、着物業界を取り巻く状況は年々厳しさを増しています。この難局を乗り越えるため、2022年に鈴花DXプロジェクトを立ち上げ、本格的にDX推進に着手しました。
鈴花DXプロジェクトの3つの柱とは
株式会社鈴花は、デジタルトランスフォーメーションをグループ全体で取り組むべきことと位置付け、3つの柱を掲げました。
(1)デジタルを活用した新たな顧客体験の立ち上げ
「和服らいふ」というオリジナルアプリを開発。着物版デジタルクローゼット機能を搭載しており、自宅などで保管している着物や小物を確認できます。また、店舗を通じて着物や帯を保管するサービスも展開。コーディネートの相談も可能で、着物に関する豆知識やおすすめのお出かけスポットなど、着物初心者でも気軽に着物ライフを楽しめる記事コンテンツも配信しています。
(2)顧客に寄り添い、顧客の課題を解決するコミュニケーション設計
顧客と直接つながり、有益な情報の配信と顧客の意見・要望をキャッチアップできる環境が整っています。具体的には、鈴花LINE公式アカウントの開設、クラウドマーケティングツール「Liny」の活用による、顧客の興味関心に合わせたセグメント配信を行っています。
(3)内製による顧客電子カルテの開発およびデータ分析
販売員だけが知る顧客情報を会社の共有資産と捉え、電子カルテとしてMicrosoft Power Appsを使い内製でデータ化。どの顧客がいつ来店しても、全ての社員が接客できるように、サービスクオリティの向上を仕組み化しました。
こうしたオンライン・オフライン双方で得られたデータを活用した商品提案と、質の高い接客が功を奏し、売上の維持自体が困難な着物業界でも、鈴花は2022年度対比で売上アップを実現しました。
比較的スムーズだった、バックオフィス業務へのクラウドツール導入
鈴花では、従業員からの抵抗がほとんど起こることなく、比較的スムーズにバックオフィス業務にクラウドツールを導入できています。現在では毎月1回、全従業員が参加する全店リモート会議にZoomを活用。グループ企業全体で各業務担当者がクラウドツールの選定に積極的に参加し、ペーパーレス化、RPAの活用による業務効率化、アイデアやナレッジの共有、充実した研修コンテンツの整備が進んでいます。これにより従業員の満足度も向上しています。
店舗の接客においても、売り場の改善や遠隔地からのリモート着付教室などが顧客から好評を得ています。今後はセキュリティ対策を強化しつつ、会計ツールなど新たなツールの導入も検討しています。
まとめ
鈴花は、DX取り組みの意義を、顧客への新たな価値提供と体験重視の進化と位置付けています。
着物業界の強みであるリアルの接客とオンラインでの接点を融合し、顧客の心地良さを重視した環境を提供。バックオフィスでは徹底したデジタル活用を推進する一方で、全てのビジネスプロセスにおいて顧客のライフスタイルに合わせた価値提供を行い、顧客ニーズに基づいたバリュージャーニー型モデルの実現を目指しています。
今後も、同社は、顧客第一の企業文化を背景に、デジタル技術を活用した挑戦を展開していく予定です。