DX事例

【山形県南陽市】職員が内製で取り組む「行かなくても済む市役所」への改革

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。

自治体におけるDXの取り組みでは、AI(人工知能)チャットボットや業務プロセスを自動で処理できるRPAが活用されています。総務省が2020 年12 月に公表した「AI・RPAの利用推進について」という資料によると、2020年度には都道府県・政令指定都市での導入実績がほぼ100%となることが見込める一方で、小規模自治体については、AI・RPAの単独での導入については、「導入予定がない」「検討もしていない」という回答が相次ぎました。

山形県南陽市は、人口約3万人の都市です。住民票や印鑑証明書を取得できるオンライン申請サービスやAI(人工知能)チャットボットの導入、RPAを使ったワクチン接種予約の自動化などに取り組んできました。

2022年6月23日に行われた「行政機関部門」より、山形県南陽市の事例をご紹介します。

山形県南陽市の概要
■人口:30,078人
■面積:160.52 km2
■主な産業:農業(ぶどう・さくらんぼ)・製造業(靴・ワイン)など
■市長:白岩 孝夫
■公式Webサイト:http://www.city.nanyo.yamagata.jp/

「行かなくても済む市役所」とは

「行かなくても済む市役所」とは、2021(令和3)年の10月に、当時のDX推進本部で決定した、当市のDXの目指す方向を示したものです。当市では、コロナ禍が本格化した令和2年4月以降さまざまなDXを内製で取り組んでまいりました。今回は住民と行政との関わり方・つながり方を新しいものに変えるプロジェクトです。

市役所などの官公庁は、平日の朝8時半から夕方5時半まで開庁しているのが一般的ですが、時間の幅が自治体ごとで多少違ってもこの形は昔からずっと変わっていません。一方、地域に住んでいる人の生活・社会のスタイルは大きく変化しています。

そこでコロナ禍を従来のスタイルを変える絶好のチャンスとして捉え、社会の変化を適切に捉えながら市民の利便性を確保し、住民サービスの向上につなげたいという想いで、プロジェクトはスタートしました。

DXを内製で始めた理由と背景

DXを内製で始めたのは、費用があまりかからず市民サービスを早く提供できること、2020(令和2)年よりさまざまなデジタル化に取り組んできていて、職員にある程度スキルがついていると判断したからです。

2020(令和2)年9月から翌年1月まで、月に2回程度RPAの勉強会を実施していて、現在でも続けています。2021(令和3)年3月には、防災担当と一緒に高齢者向けのスマートフォン教室を開きました。当市が防災の一環でLINEアプリを使っているためです。

小国町さんでも採り入れている「避難所の状況Webアプリ」を、当市でも2020(令和2)年9月から市民の皆様に提供しています。現在、このアプリを鹿児島県の出水市さんや熊本県の上天草市さん、奈良県広陵町さんなどに無償提供しています。

ちなみにRPAを使った活用事例としては、第1回目のワクチン接種予約時に電話がつながらない状態が続いたため、自動で予約できるようにしたところ、作業にかかる時間をおよそ2,000時間削減できました。また、非課税世帯の特別給付金の給付にも活用しています。

市民が市役所に出向かなければならない理由とは

市民が市役所に行く理由は何か、自分ごととしていろいろ考えてみました。
概ね、以下に挙げるところが実情だろうと思いました。

  • 市役所に行ったことがある市民の方は少ない。特に市役所に一度も行ったことがない若い人は多いだろう。
  • 手続きには手間がかかるし、平日に仕事を休んでまで市役所には行きたくない。
  • 必要な手続きが市役所でしかできないから、仕方なく仕事を休んで市役所が開いてる時間に合わせて来庁している。
  • 相談したいことがある。

まずは、転入転出の届け出や車を購入するときに必要な住民票とローンを組むために必要な印鑑証明書を、市役所に来なくとも取得できるようにすること、対面で相談できるオンラインサービスの構築が必要だと気づいたんです。

各種証明書のオンライン申請とQRコード決済

当市では証明書のコンビニ交付を導入していませんでした。数千万円のシステム改修費用と年間数百万円のランニングコスト、加えて各コンビニへの手数料、年間の住民票・印鑑証明書の発行数に当市における現在のマイナンバーカードの交付率を鑑みたとき、コンビニ交付サービスは費用対効果にあまりにも合っていないと考えたからです。また、マイナンバーカードによる情報連携で、これまで提出する必要があった書類が省略できれば、コンビニ交付そのものが不要になるだろうと考えました。

さらに、今国では利用者がスムーズに行政サービスを受けられるよう、政府共通のクラウドサービスの利用環境、ガバメントクラウドを作っています。コンビニ交付の場合、各自治体の住民情報にアクセスして証明書を発行しています。ガバメントクラウドを導入すると、
せっかく何千万もかけて改修したものを使えなくなってしまううえ改修をしなければならなくなる。費用がかかることは避けたかったのです。

「住民票などの証明書のオンライン申請では、本人確認としてマイナンバーカードを使うこと」としている総務省の方針を受けて、オンライン申請後にマイナンバーカードで本人確認をし、証明書の発行料金はキャッシュレス決済で支払ってもらい、ほとんどの自治体で使われている証明書の郵便請求サービスで証明書が手元に届くという流れにしました。
これなら、費用もそんなにかけずに取り組めると思いました。しかし、マイナンバーカードを使っての本人確認は難しいこと、証明書の交付手数料にキャッシュレス決済を導入しなければならないことが課題として浮上したのです。

キャッシュレス決済とマイナンバーカードによる本人確認に関しては内製でできる範囲を
超えていたので、あとはベンダーに任せようとなりました。しかし証明書のキャッシュレス決済ができるなら、他の公共料金にも全てキャッシュレス決済が使えるのではと考え、2020(令和2)年9月にQRコード決済を導入しました。当時QRコード決済を手数料無料で始められたため、ここでも予算は不要でした。キャッシュレス決済をスムーズに導入できたのは、証明書のオンライン交付の取り組みを内製で進めていたからです。

ベンダーの力を借りて、2021(令和3)年の3月に住民票と印鑑証明書のオンライン申請を開始しました。このサービスの導入・運用コストは、コンビニ交付システムに比べて100分の1くらいで済んでいます。

AIチャットボットの導入

AIチャットボットとは、ホームページに表示しているチャットボットの窓口に聞きたいことを入力すると、用意されている回答を自動で返すシステムです。窓口への問い合わせにかかる負担軽減のために導入するつもりでテストを重ねていたとき、普段の会話通り入力していただけると、ある程度正確な答えを導き出せるのですが、利用される方のほとんどは単語で入力されるので、正確な答えを導き出せませんでした。

2021(令和3)年12月に、チャットボットにオンライン申請をする際のコンシェルジュの機能を加えたAIチャットボットを導入。ベンダーが提供しているサービスを利用しているので、今のところ費用はかかっていません。また、ホームページだけではなく無料通信アプリでも同じサービスを提供しています。URLが変わってしまうと正確な回答にたどり着けないので、リンク切れがないように確認すること、一日あたりの利用数が約10件と少ないところが運用上の課題です。

市役所へのオンライン相談

ビデオ通話アプリを使ったオンライン相談を、今年の3月からまずは市民部門で、4月からは庁内全部の課で始めました。役所にわざわざ出向いて知らない人(職員)に相談することへのハードルの高さ、市役所にいることで感じる緊張を、自分がリラックスできる場所からならそういったものを感じることなく相談できるだろうと考えたわけです。アプリ自体は普通に会議で使うので、職員全員アカウントを持っています。それをそのまま使ったため、費用はかかっていません。庁内からの抵抗も意外となかったので、比較的スムーズに全庁に広げられました。

今のところ相談件数は4件と少ないのですが、市役所への新たな相談窓口としてオンライン相談が、徐々に市民の皆様に広がっていくことを期待しています。

まとめ

デジタルを使うのは人です。最先端の技術でも、導入後に使いこなせなければ意味がありません。特に行政では、人事異動で担当が変わることもあり、一度に最新の技術を導入するのではなく、現場の職員の人となり・システムへの習熟度に合わせて導入を進めることが大切です。

内製でDXに取り組むメリットは費用をかけない分、小さなサイクルでテストと実装を繰り返してDXを進められる点です。また、ベンダーなど外部の人材を巻き込むことが少ない分、DXの進め方を柔軟に変更できるし、途中でさまざまな気づきが生まれます。その気づきこそが成長となります。「DXに失敗はつきもの、抵抗されて当たり前、できることからやってみよう」という姿勢で、自分たちの組織に合わせたDXの進め方を見つけることが大事です。
成長できる機会を与えていけば、人も組織も育つはずです。