DX事例

岡山県笠岡市「コロナ禍での新しいコミュニケーションのあり方~シティプロモーション事業におけるデジタルトランスフォーメーション~」

日本DX大賞は、日本のDX推進を加速するために、自治体や民間企業などが取り組んだ事例を発掘し共有するためのコンテストです。

近年、イメージアップや地域活性化、地方創生などを目的として自治体が行う広報活動を、「シティプロモーション」といいます。岡山県笠岡市は、ふるさと納税の増加や移住人口の増加を目指し、2018(平成30)年からシティプロモーションに取り組んできました。
コロナ禍に突入した2020(令和2)年度からは、公式インスタグラムの運用に始まり、地元の農家などと交流できるオンラインイベントの開催、VR(仮想空間)上での空き家内覧など、DXを導入したシティプロモーションを展開しています。

2022年6月23日に行われた「行政機関部門」より、岡山県笠岡市の事例をご紹介します。

岡山県笠岡市の概要
■人口:45,983人
■面積:136.24km2
■主な産業:農水産業(桑茶・桑の実ジャムの製造などの6次産業化を目指す)、
石材産業、カブトガニ博物館
■市長:小林 嘉文
■公式Webサイト:https://www.city.kasaoka.okayama.jp/

DXを導入する以前の令和元年度のシティプロモーションの取り組み

笠岡市では、市のイメージアップを目的として、2019(令和元)年度から本格的にシティプロモーション事業をスタートいたしました。

(1)地元出身有名人を起用したPRポスター「間違イイ探し」の作成

笠岡市北木島出身のお笑い芸人、千鳥の大悟さんを笠岡市のPRポスターに起用しました(「間違イイ探し」)。「笠岡出身のタレントが地元のPRをしている」など、ポスターが
市内外で話題になることを予想しておりましたが、市民は地元出身タレントを見慣れているため正直反応が薄く、またポスターという紙媒体であったため、市内の情報を広く届けられませんでした。

(2)リアルイベントの開催

ハンドメイド作家さんを中心に、50人以上のクリエイターさんに出店いただいたクラフト
マーケット、県内外の有名パン屋さんに出展いただいたパンのマルシェなど、合計500万
以上の予算をかけて企業などとコラボしたリアルイベントを開催いたしました。

しかし、イベント参加が主目的である参加者が、イベントを機に笠岡市の継続的なファンになってくれるわけもなく、地理的にも近隣住民しか参加できないイベントとなってしまいました。

(3)市の施策に関する情報を動画制作、SNSで発信

半年の準備期間と200万以上の予算をかけて、笠岡市の施策に関する動画を20本制作
(「動く!間違イイ探しゲーム」)し、SNSに投稿しました。しかしSNSユーザーのニーズと合致していなかったため、再生回数も平均で200回程度とほとんど視聴されませんでした。

施策を打っても思うように結果が出ず苦しんでいたなか、追い討ちをかけるように新型コロナウイルス感染症が全国へ拡大。それまで、首都圏の移住相談会などへ出向いて笠岡市のPRを定期的に行っておりましたが、オフラインイベントは完全に開催できなくなってしまったため、シティプロモーションのあり方を完全に見直すこととなりました。

しかし、ここが笠岡市にとって大きな転換期となります。

2020(令和2)年度からスタートした、デジタル技術を取り入れたシティプロモーションの取り組み

そこで、「オフラインイベントができないのであれば、オンラインでできることを」と
シティプロモーションのフィールドを完全に切り替えました。

それまで、シティプロモーション活動のターゲット設定を「笠岡市内外にいる女性」とふんわりとしていましたが、「市内と近隣市町在住の30代女性」と明確に設定。ターゲット層がメインとして利用するSNS媒体のインスタグラム上で情報発信すると決め、笠岡市の公式
インスタアカウント「カサオカスケッチ」を本格的に運用開始しました。

■カサオカスケッチインスタグラム
https://www.instagram.com/kasaoka_sketch/

公式インスタグラム「#カサオカスケッチ」

運用当初、笠岡市だけでは正直発信力が弱かったため、地元在住のインフルエンサー4名を公式フォトアンバサダーとして任命し、ご自身のアカウントで笠岡市の魅力を継続して発信いただきました。

フォロワーさんと濃い関係を築くために、地元出身のライターさんやアカウントの中の人(市政策部定住促進センター主事・片山氏)も出演するインスタライブを定期的に配信し、コミュニティづくりを強化しました。

また地元の大学生にも協力してもらい、笠岡諸島の旅や観光スポットをテーマに、ターゲット(市内と近隣市町在住の30代女性)に向けたリール動画を作成しました。動画の制作予算は以前の制作予算に比べて大幅にカットできただけでなく、再生回数が7,000回を超える
動画が出てきたり、ターゲットの行動意欲につながるコメントも寄せられたりするようになりました。

公式インスタグラム「#カサオカスケッチ」を運用した結果

2020(令和2)年10月の運用開始当時、フォロワー数は500人程度でしたが、
現在は3,700(※2022年7月現在、3,837)人。1年間で約6倍増となっております。

1年半ほどインスタグラムを運用した成果を以下にご紹介します。

UGC(※)の拡大

「#カサオカスケッチ」というオリジナルのハッシュタグを、公式インスタグラムを運用開始した時から投稿の文面につけています。最初は投稿が0件でしたが、フォロワーさん自身が「#カサオカスケッチ」をつけてインスタグラム上に投稿してくださったおかげで、6,474(※2022年7月現在、6,864)件集まりました。

「#カサオカスケッチ」というオリジナルのハッシュタグを通して、発信側である笠岡市、
インフルエンサーさん、フォロワーさんが一体になって笠岡を盛り上げております。

※UGC(User Generated Contents(ユーザー生成コンテンツ)):企業ではなく消費者発信のコンテンツ。インスタグラムへの動画・写真投稿、ECサイトやグルメサイトへのコメントなど

コメント欄がコミュニティ化

投稿のコメント欄がフォロワーさん同士で交流を行う場所になっていて、コミュニティ化しているところも、オンラインで濃い関係性を構築できている素敵なところだなと思っております。

笠岡市の食に関するオンラインイベントの開催

笠岡市のインスタグラムのフォロワーさんやコメントをいただく方は、近隣の市町や県内在住者が多かったため、首都圏の方とつながる方法はないかと考え、食をテーマにしたオンラインイベントを開催。地元の農家さんと参加者の皆さんが交流する時間を設けて、作り手の思いが参加者に伝わることを意識しました。参加者の居住地は首都圏がほとんどで、30代から40代の女性がメインとなりました。

参加者に事前に笠岡市の特産品をお送りし、地元の農家さんからこだわりや美味しい食べ方を教えていただくイベントや、地元農家さんと採れたての野菜や卵かけご飯(参加者100名の大きなイベントに)を食べるイベントも企画。参加者から、「笠岡市を旅行先として選びたい」「ふるさと納税したい」など、嬉しいお声をたくさんいただきました。

VR空間でのオンラインイベント

Zoomオンラインイベントからのステップアップとして、全国の自治体初の取り組みでも
あるVR空間上でのふるさと納税をテーマにしたオンラインイベントを開催。VR空間コンテンツの企画・運営は、オープンコラボレーションハブLODGEに協力いただきました。

ふるさと納税返礼品として、笠岡産シャインマスカットと牡蠣を、生産者からいただいた
コメントも添えてご用意しました。仮想空間上のアバターを通して、農家さんと参加者が
コミュニケーションを取れる場を設けて、ECサイトから直接購入できるようにしました。
また、360度画像を使った観光疑似体験やVR空間内の自由散策など、現地の雰囲気を参加者に体感いただきました。

寄付件数とメディア露出の増加

オンラインイベントの開催後、イベントに参加くださった方がSNSでイベントや返礼品の
感想を共有してくださったり、VR空間上のふるさと納税PRイベントなど笠岡市の多様な
試みを拡散力の高い在京メディアをはじめ、さまざまなメディアでご紹介いただく機会が
増えたりしたことで、笠岡市のふるさと納税に寄付いただく件数が増加しました。シャインマスカットは前年比の1.8倍増、イベントに協力いただいた勇和水産様の牡蠣は前年比と比べて3.2倍増という嬉しい結果となりました。

2020(令和2)年度から、シティプロモーション事業の一環としてローカルフリーペーパーを発行しています。第2弾が、日本地域情報コンテンツ大賞2021の観光部門において、
優秀賞を受賞。これを記念して、フリーペーパー制作チームによるオンライントークイベントを実施したところ、地方とつながりたい首都圏在住の20代から40代の方が多数集まった交流イベントとなりました。

VR空き家内覧

笠岡市は以前から、空き家対策として空き家を売りたい人と買いたい人のマッチングを行っています。コロナ禍で地方移住への関心が高まり、空き家物件への問い合わせ件数が増加しましたが希望者が笠岡市に来れず、内覧や移住を断念してしまうケースが相次ぎました。
そうした問題を解決できる方法を探していたところ、ぴったりだったのが、VRクラウド
スペースリーの導入によるVR空き家内覧でした。こちらも岡山県初の取り組みで、空き家の問題をVRで解決するという新規性に興味をいただいて、メディアでも取り上げられました。

笠岡市の空き家バンクのWebサイトに物件の360度画像を公開し、内覧情報をいつでも確認できるようにしたところ、契約までスムーズに進んだり、家財処分業者がVR空き家内覧を確認してくださって家財処分の見積もりにかかる時間を短縮できたりと、業務改善に寄与しております。導入から半年が経過した現在、契約間近・契約済みがそれぞれ7件です。

最後に

オンラインイベントでのシティプロモーションは、実はDXへのチャレンジというより、
コロナ禍で考えられる苦肉の策でした。始めた頃は、「何をやってるんだ」みたいなことを言ってきた人もいたんです。しかし、当時の上司や市長から背中を押されて活動を続けているうちに、他の課の職員や市民の皆さま、市外の人たちと継続的な関係を築くことができました。また、笠岡市のファンを増やすことにも成功しました。オンラインというきっかけがなければ、おそらく、どんなにシティプロモーションを頑張っても、笠岡の住民は置いてけぼりという状態に気づけず、予算をかけ続けることに違和感を覚えることさえなかったかもしれません。

シティプロモーションでの一連の取り組みを通して、DXはデジタルツールを使った単なる
業務効率化ではなく、働き方が変わったり、笠岡市を好きになって応援してくれる方とつながったりできる素晴らしいものだと感じました。笠岡市のまちづくりにとって必要不可欠であり、全国の地方のコミュニケーションの広がりを育てていくものと思っております。
これまではシティプロモーションに限定してDXを推進してきましたが、本年度から庁内の
業務のDXにも目を向けて活動をしています。