事例

福島市が挑む「高齢者にやさしいデジタル化」:地域全体のDX推進と自治体ビジネスへの展開

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月17日に開催された行政機関・公的機関部門では、自治体などの行政機関や公的機関が、公的サービスや業務改善におけるDX推進に取り組んだ事例や、官民連携を通して地域DXに取り組んだ事例などを発表するものです。

本記事では、高齢者を対象としたきめ細かなデジタル化支援から行政システムの内製化、さらには自治体ビジネスへの展開まで、全方位的なDX推進に取り組んでいる福島市の事例をご紹介します。

1. はじめに:福島市の挑戦

福島市の総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は30.8%で、全国の県庁所在地の中でも高い方と言えます。そんな福島市が取り組んでいるのが、「高齢者にやさしいデジタル化」を軸とした地域全体のデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

IMD(国際経営開発研究所)の世界競争力センターによると、2023年の世界デジタル競争力ランキングにおいて日本は32位となっています。「高齢化が急速に進む日本では、デジタル化を許容する土壌ができておらず、デジタルを苦手とする高齢者も多いので、デジタル化への思い切った施策を打てない。日本のデジタル化が遅れている原因の一つです」と福島市長の木幡浩氏は指摘します。

2. デジタル戦略を推進する福島市の体制

高齢化という課題に対応するために、福島市では高齢者にも優しいデジタル化を目指してさまざまな施策を打ち出しました。

福島市は2022年に行政、経済、教育、高齢者など、多様な官民の分野の代表者で構成された「ふくしまデジタル推進協議会」を設立。福島市内のデジタル化推進への合意形成を図り、「デジタル都市宣言」を行いました。高齢者同士が学び合い、許容する土壌を広げることでデジタルを苦手とする層でもデジタル化の恩恵が受けられることを目的としています。また、各分野の代表に参加してもらうことでDX推進へのコミットを得る一方、各分野に「デジタル推進者」という実務的推進者を選任することで、実際に動かしてもらう体制を整えています。

一方、地域デジタル化のエンジンとして、市役所では民間のデジタル化を支援するほか、デジタル化自体を目的としたデジタル化への置き換えではなく、BPR(業務プロセス再構築)を伴うシステムの内製化など徹底したデジタル化に取り組み、市民サービスなどを通じて、市民や事業者のデジタル化を促しています。横展開できそうなシステムがあれば他自治体にも共有して自治体DXに貢献するほか、自治体ビジネスに繋げたシステムも出てきています。

福島市役所は、木幡市長をCDO(最高デジタル責任者)としてトップとする推進体制を構築。2023年春からは、CDOを専門的知見から補佐する「CDO補佐」を設置しました。さらに、デジタル改革推進室には技術的なサポートが可能な職員を設置するとともに、各所属の自らの業務に詳しい職員とタッグを組んでインソーシングチームを配置。全庁的な業務改革を効果的に推進しています。

3. 高齢者にやさしいデジタル化の具体策

が地域で支援し合う仕組みを構築しています。ITスキルを身に着けた高齢者、IT技術に関心のある高齢者で希望すればシニアICTサポーターに登録してもらい、講習会などのサポート業務を行います。デジタル関連の仕事をしたい場合は、シルバー人材センターICT班に登録いただき、市が実施するデジタルサポートデスクでの相談業務、アプリによる農業のアルバイト探しのサポートなどに従事されています。2024年春に、ICT班は相談業務の経験を活かして高齢者向けスマホハンドブックを作成しました。自主事業として、老人クラブでのスマホ教室を実施することになっています。

全国的にも珍しい、シルバー人材センターICT班が設立されたきっかけは、シルバー人材センターが受託していたレンタサイクル事業を、スマートフォンの専用アプリから申し込むシェアサイクル事業に切り替えたことでした。「福島市がバックアップするので、シェアサイクル事業でも引き続き受託できるようスマートフォンの操作を身に着けて欲しい」と伝えたところ、ICT班が誕生し、今ではICT関連の仕事をしたいからシルバー人材センターに入会する人も出てきました。

これらの取り組みの成果は、シェアサイクル登録者数、福島市公式LINEのシニア登録者率、スマートフォン保有率の上昇といったところにも表れており、木幡市長は「スマートフォンを求め、利用する高齢者の増加が加速しているのは、デジタルへの抵抗が減ったからではないか」と評価しています。

ろ、ICT班が誕生し、今ではICT関連の仕事をしたいからシルバー人材センターに入会する人も出てきました。

これらの取り組みの成果は、シェアサイクル登録者数、福島市公式LINEのシニア登録者率、スマートフォン保有率の上昇といったところにも表れており、木幡市長は「スマートフォンを求め、利用する高齢者の増加が加速しているのは、デジタルへの抵抗が減ったからではないか」と評価しています。

 4. 市役所が全庁一丸で取り組んだ、デジタル化への意識改革

福島市のデジタル戦略のもう一つの柱が、市役所自体のデジタル化です。木幡市長は就任直後から、市役所のデジタル化に着手しました。「市長に就任したばかりの頃、市役所の中は縦割り行政と前例踏襲主義が根強く、業務効率化や改革に対する職員の意識が非常に弱いのではないかと感じました」と木幡市長は振り返ります。

そこで、職員の意識を変えるショック療法の一環として市長就任2週間後に市長と幹部職員が出席する会議のペーパーレス化を実施し、のちに全庁的な取り組みへと展開。2年間で庁内のペーパーレス化を大きく進めました。

同時期に、福島市職員ひとり1改善・1改革運動「かえるチャレンジ」を開始。職員一人ひとりが業務改善に取り組む風土づくりを進めました。当初は提案やSNSの活用だけといった単純改善が大半でしたが、最近ではデジタル活用のBPRや常識の見直しなど、より深い取り組みが増加しています。こうして醸成されていった改革の風土は、やがて「自分たちでシステムを開発しよう」という内製化の機運の高まりへとつながっていったのです。

内製化の大きなきっかけとなったのは、2019年の台風19号のときでした。市独自に開発した被災状況や罹災証明の共有システムの効果を確認できた一方で、水位情報の自動入手や避難情報発信の簡素化の必要性を痛感しました。このときの経験をもとに災害対策オペレーションシステムを開発し、独自開発の有用性も実感したのです。

木幡市長は福島市が内製化を重視する理由として、「ベンダーさんたちが作ったシステムを利用するよりも、こういうアプリが欲しいとかシステムにしたいとか、自分たちの意思を反映させやすいからです。また、利用コストも抑えられること、他部署の業務への活用や連携、横展開という点からも内製化のメリットは大きいと考えています」と語っています。

5. 地域全体のデジタル化推進

「高齢者にやさしいデジタル化」を掲げて始まった福島市のデジタル化への取り組みは、やがて地域のデジタル化にも波及。ふくしまデジタル推進協議会を活用しながら、図書館や電子クーポンなど多方面にわたるデジタル化推進へと進化しました。特に医療、救急に注力しており、なかでもオンライン診療の導入は医師不足で支障が出た休日の小児医療、高齢者施設における救急時の担当者の負荷減少など、それぞれ貢献しています。

デジタル人材バンクは、デジタル化に悩む市内の中小企業や団体と、多彩なスキルを持ったデジタル人材をマッチングする事業です。これには、子育てしながら隙間時間を活用してデジタルの仕事をする人、副業やフリーランスとして活躍したい人が登録しており、地域のデジタル化推進だけでなく人材活用の面でも注目されています。

 6. デジタル化がもたらした成果と今後の展望

内製化の取り組みは、デジタル部門に専任職員を配置したことで、約4,000時間弱の削減効果がありました。これまでに80件のシステムを内製化し、2023年度には46件、現在も35件が進行中です。木幡市長は「この数字はかなり少な目な数字じゃないかな」としながらも、その効果がかなり大きかったことを示唆しています。

さらに、内製化したシステムの一部は他自治体にも提供されています。例えば、新型コロナ患者データベースは、メディアにも取り上げられ、複数の自治体から問い合わせがありました。また、後期高齢者向けの「書かない窓口システム」は、福島県後期高齢者医療広域連合を通じて県内の自治体に提供されています。議会答弁検討システム「答べんりんく」は、民間企業と連携して自治体ビジネスとして販売。木幡市長は「すでに5団体に導入してもらっていますが、25団体ほどの導入を見込んでいます」と説明しています。

木幡市長は今後の展望について、「高齢者を手厚くサポートし、学び合える環境を作りたい。簡単な操作で済むようにしながら、バックエンドのデジタル化を進める」一方で、「若い世代や事業所向けに徹底したデジタル化を進めながらの市内デジタル化の牽引、他自治体への提供を通じた自治体DXへの貢献のほか、『自治体ビジネス』へ発展させるマインドも持って取り組んでいく」と述べています。

 7. まとめ:デジタル化がもたらす地域の未来

高齢者に寄り添いつつ、行政のデジタル化を徹底的に進め、庁内から地域へと広げていった福島市の総合的なデジタル化へのアプローチは、高齢化が進む日本の多くの地方都市にとって参考になるでしょう。

「このような取り組みを通じて、地域全体のデジタル化を推進してまいります」と締め括った木幡市長。福島市の挑戦が、日本の地方創生にどのような影響を与えるか、今後も注目です。

応募受付中

日本DX大賞

DX推進の取り組みを共有しませんか?

日本DX大賞 2025 エントリー募集中

あなたの組織DX推進事例をぜひ日本DX大賞にご応募ください。他社の参考となる貴重な取り組みを共有することで、日本のDX推進に貢献。また、受賞企業は事例集への掲載やイベントでの登壇機会など、さまざまな形で企業価値向上につながります。