日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月17日に開催された行政機関・公的機関部門では、自治体などの行政機関や公的機関が、公的サービスや業務改善におけるDX推進に取り組んだ事例や、官民連携を通して地域DXに取り組んだ事例などを発表するものです。
本記事では、住民・地域参加型のアプリ開発と柔軟な進化で、日本一便利なまちを目指す、佐賀市の事例をご紹介します。
1. はじめに:佐賀市公式スーパーアプリの誕生
「佐賀市公式スーパーアプリ」は2023年6月に本格稼働させた、1つのアプリで多種多様な行政サービスを利用者にワンストップで提供できるプラットフォームです。
「わかる。使える。みんなで育てる。職員も便利」をコンセプトに、ごみカレンダーや電子申請といった、住民が受けられるサービスや機能を、一つのアプリに集約しています。
自治体アプリには、すべての住民、企業、地域のあらゆる不便と不安を解決し続けることが求められます。佐賀市政策推進部DX推進課スマートシティ推進室の菅祐亮室長は、そのためのポイントとして「誰一人として取り残されない、すべての住民が対象の『包括性』、困りごとや課題をみんなで一緒に解決する『地域づくり』、デジタルやデータの強みをフル活用する『マーケティング』」の3つを挙げています。
佐賀市では市長の強力なリーダーシップのもと、庁内にDX推進本部を、地元企業や大学、NPOや地域団体などからなる地域コンソーシアムをそれぞれ設置。この両輪で佐賀市のDXを強力に推し進めています。佐賀市公式スーパーアプリの開発も、そうした体制の中で誕生したのです。
2. スーパーアプリの機能と特徴、導入効果
佐賀市公式スーパーアプリのホーム画面は、市民証や図書館カードといったデジタルカードと、ごみカレンダーや電子申請などのミニアプリで構成されており、佐賀市で暮らすために必要な情報が入手できるだけでなく、災害発生時ではリアルタイムで更新される浸水状況や防災カメラなどの把握、避難所でのチェックイン、本人確認にも活用できます。その他、学校への出欠連絡、施設予約、Bリーグの佐賀バルーナーズ(佐賀市のプロバスケットボールチーム)の試合のチケット購入などが可能です。単独で機能するのではなく、ミニアプリが複数かつ相互に連携している点が特徴です。
スーパーアプリでデータをフルに活用するために、庁内データの標準化、ルールの統一化、各種データのオープンデータ化を実施。誰もが使えるコンテンツを生成しています。
佐賀市公式スーパーアプリは、利用者からの意見や要望を参考に年4回以上の柔軟なバージョンアップや機能の追加を実施しています。2023年6月にベータ版からの本格稼働ののち9月と10月、2024年1月と2月に立て続けに新機能の追加やUI/UXの改善などのバージョンアップを行いました。特に、10月のバージョンアップでは、マイナンバーカードの公的個人認証を活用した「デジタル市民証」機能をリリースし、アプリでの本人確認が可能となりました。
3. リリースから1年、スーパーアプリの現況と評価
佐賀市公式スーパーアプリの導入効果は、数字にも表れています。特筆すべきは、デジタル市民証登録者の約半数が50代以上のユーザーが占めていることです。菅室長は「みんなで『同じものを使い』、『同じ方向』に向かうことでアプリの講座をはじめとした住民同士の『教え合い』につながっている結果ではないか」と考えてます。
4. 住民参加型のアプリ開発と今後の展望
佐賀市公式スーパーアプリは、「みんなで創る」をコンセプトに、全ての人が参加して創っていく、住民参加型の開発スタイルを採用。アプリ内の「ご意見フォーム」を通じて、常に市民の声を聞きながら開発を進めています。
佐賀市公式スーパーアプリは、行政サービス、交通、健康、観光などの様々な「分野」をつなぐ、そして、みんながつながる「デジタルタッチポイント」となっています。今後も「ミニアプリ間や既存の民間アプリとの連携」、「データ連携基盤との連接」「ビッグデータの活用、EBPM(Evidence-based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の推進」など、「できること」がたくさんあり、佐賀市公式スーパーアプリには無限の可能性が秘められています。2024年度には、すでに複数の自治体がデジタル田園都市国家構想交付金を活用して公式スーパーアプリを導入予定です。
また、2024年度には生成AIの実装を予定しており、観光ルートや健康メニューの推奨機能などにチャレンジする計画です。菅室長は「佐賀市の住民の皆さまだけでなく、行政の職員や佐賀市の企業、観光客に喜んでもらえる、ワクワクするようなアプリを目指してまいりたい。日本のDXをガンガン、前へ前へと進めていきたい」と意気込みを語っています。
最後に菅室長は、「sagacity」(賢明・聡明)という英単語に触れ、スマートシティの「smart」と同じ意味を持つことを紹介。「行政のみならず、みんなでつくる佐賀市公式スーパーアプリは、子どもたちやデジタルを苦手とする高齢者などさまざまな世代の声を聞きながら、ユーザーにとってより身近なツールになるよう進化を続けていきます。これから生成AIも実装するので、今以上に素晴らしいアプリにしたい」と、佐賀市公式スーパーアプリの未来について語りました。
5. まとめ
佐賀市公式スーパーアプリは、住民、地域、企業、行政が一体となって創り上げる「共創」のプラットフォームとして機能しており、住民や地域、企業が行政に参加する新しい形とも言えます。
自治体が施策を立案するときや決定するときに、これまでは、住民や地域で活動する企業、団体を招いたり、訪問したりして直接声を聞く方法を多く採ってきた印象です。しかし、スーパーアプリという佐賀市民共通のデジタルツール導入により、すべての住民が直接、自主的に行政に関わることができるようになることで、住みやすいまちづくりに貢献できているという確かな手応えを得られるのではないでしょうか。また、自治体にとっても、スーパーアプリの運用で得られた多様なノウハウやシステムを共有することで、他の自治体のDXに寄与できるだけでなく、日本のDXを前進させる一助となるでしょう。