日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2024年6月17日に開催された行政機関・公的機関部門では、自治体などの行政機関や公的機関が、公的サービスや業務改善におけるDX推進に取り組んだ事例や、官民連携を通して地域DXに取り組んだ事例などを発表するものです。
本記事では、人口減少時代の自治体業務効率化に向け、民間事業者と共同で開発した自治体専用生成AIプラットフォーム「zevo」を、庁内業務の生産性向上に取り入れている宮崎県都城市の事例をご紹介します。
1. 都城市の挑戦:自治体業務の効率化と高度化

宮崎県都城市は、鹿児島県に接する人口約16万人の都市で、日本でも有数の牛・豚・鶏の生産量を誇り、肉と焼酎をコンセプトにしたふるさと納税で注目を集めています。また2023年には、全国の市区の中でもいち早くマイナンバーカード交付率95%を達成。ふるさと納税とマイナンバーカードという2つの強みを持つ自治体でもあります。
そんな都城市が今、全国の自治体に先駆けて取り組んでいるのが、生成AI技術を活用した自治体業務の効率化と高度化です。このような取り組みを始めた背景を、都城市デジタル統括課主幹の佐藤泰格氏は、以下のように説明しています。

「急激な人口減少や少子高齢化は労働力の減少につながり、自治体業務にも少なからず影響を与えています。婚活、空き家、カーボンニュートラル、最近では定額減税など、自治体業務は年々多様化・高度化していき、新しい課題への対応が求められるのに、それに反比例するかのように労働力は減少傾向にあるのです」

公務員の採用難も深刻化しています。佐藤氏は東京23区の採用状況を例に挙げ、「人口減少の影響がない自治体でも労働力確保が困難になっており、公務員の能率性の向上は喫緊かつ全国共通の課題です」と指摘します。
このような状況下で、都城市は生成AIに注目。自治体業務を、企画業務など生成AIができる仕事と自治体職員にしかできない仕事に分けて、それぞれが得意分野で業務に注力し、行政サービスを向上させることが、今後の自治体運営には大切であると考えたのです。
2. 「zevo」の特徴と機能
自治体専用生成AIプラットフォーム「zevo」は、都城市がシフトプラス株式会社と共同開発した、自治体専用の生成AIプラットフォームです。LGWANネットワーク(総合行政ネットワーク:Local Government Wide Area Network)上でも安全に利用できるほか、入力した内容を生成AIが学習しない、アラート機能を実装するなど、セキュリティへの対策も取られています。

また、AIモデルの変更が可能、会話の引き継ぎ設定、どの自治体でも利用できるプロンプトの共有などの多彩な機能があります。

「zevo」には、自治体業務に特化した機能も実装されています。職員ナレッジ専用AIは、職員用の各種マニュアルを学習させた専用AIに利用者が質問すると、マニュアルの該当部分をエビデンスとして示しながら回答するシステムで、都城市では財務・会計・契約事務で活用しています。

また、LGWANサービスで提供されるシフトプラス社のビジネスチャット(LGTalk)との連携も可能で、専用画面を開かずに、チャットツール内で生成AIを活用できます。「ビジネスチャットは生成AIとセットで利用することにより無償化されたので、年間1,000万円程度コスト削減できています」(佐藤氏)
3. 「zevo」の迅速な導入を可能にした都城市の体制
自治体がデジタルツールや最新の技術を業務に取り入れようとすると、予算などの面から難しいのが現実です。都城市では、実証事業のための予算枠を確保。それを活用し、都城市のさまざまな課題に対して迅速にデジタル技術を実証できる「DXチャレンジプロジェクト」を設けています。都城市での生成AIの導入に際しても、このプロジェクトを利用しています。

都城市では、市長を最高デジタル責任者(CDO)とするデジタル統括本部を設置しています。また、デジタル統括課(ソリューションの検討や企業との交渉)、財政課(財源の検討や効率的な予算編成のアドバイス)、総合政策課(事業立案を支援)、各部局の総括担当(問題の把握や業務改善のアイデアを考案)の4つの部署が連携する、いわゆるカルテット体制で事業を実施。査定が通った事業については財政課をプレイヤーとして巻き込む点が特徴で、先ほどのDXチャレンジプロジェクトにも、財政課の職員は選考に参加しています。これにより、各部局の問題に対応したデジタル化をスピーディーに推進しています。

さらに、都城市は「zevo」の普及にも力を入れています。シフトプラスとともに全国の自治体に呼びかけて、1ヶ月間の無償トライアルを実施。結果、無償トライアルに参加した自治体は約300に上り、令和6年度に本格導入している自治体は50を超えました。(R6.4時点)
「zevo」の無償トライアルを実施した理由を、佐藤氏は次のように説明しています。

「自治体にとって良いソリューションであっても、利用自治体が少なければ企業の収益化につながらず、継続的な利用もできません。一方で、利用自治体が増え、企業がマネタイズに成功すると、利用自治体にとってはバージョンアップなどのシステム改良や機能向上の恩恵を受けられます。また、利用する自治体が増えれば増えるだけコストは安くなり、共同で使うからこそ集合知も活用でき、人的ネットワークも構築されていくのです」
4. 「zevo」の成果と今後の展望

「zevo」の導入により、都城市ではほとんどの部署でアカウントを取得しており、革新的な業務効率化・高質化が実現。9割の部署から申請があり、アンケート作成、プログラミング制作、立案支援、SNS発信時のネガチェックなどさまざまな場面で活用されているため、月に200万文字程度の利用が常時発生しています。(R6.4時点)また、検索での利用禁止を徹底し、丁寧な指示の重要性を説明することで、「生成AIは使えない」と誤解した人が離脱しないための工夫も欠かしません。

「zevo」の利用は業務の時間短縮にも貢献(月間で150時間程度の想定)しており、生成AIを活用する自治体の増加や生成AIのさらなる進化により、新たな価値創造や行政サービスの向上などの面で効果を発揮することが期待されています。

都城市がシフトプラス株式会社と二人三脚でDX推進に取り組んできた結果、シフトプラス株式会社は2023年12月1日、大阪市から都城市へ本店を移転しました。佐藤氏は「デジタルをきっかけとした企業との連携で、都城が大きく変わっていくことを実感しています」と語っています。

今後、チャットボットのような生成AIを使う直接的なものから、生成AIを組み込んだシステムを使う間接的なものに変化することで、存在を意識せずとも生成AIの恩恵に与れるかもしれません。都城市では現在、LGWAN環境で使用する基幹システムの住民データを匿名化し、分析することができるBIツールとの連携を検討しています。
5. まとめ:デジタル化がもたらす自治体の未来
都城市がシフトプラス株式会社と開発した「zevo」は、単なる業務効率を上げるだけのツールではありません。

佐藤氏は、自治体がデジタル施策を立案しても、庁内だけでなく住民にも利用されていなかったり、利用してもらうためのポイント付与といったインセンティブ施策まで出現したりしている現実があることを説明したうえで、「あくまでもデジタルは目的ではなく手段です。ならば、訴求ポイントは利便性やそれで得られる恩恵であり、実際にたくさんのユーザーに使ってもらって実感してもらうことが何よりも重要なのです」と強調しています。
生成AI技術を活用しつつ、自治体間の連携や企業との協力関係を構築する都城市の取り組みは、今後の自治体DXのモデルケースとなるでしょう。
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