女性6割・109名企業の育休改革|ヨシケイ開発が育休取得率100%・復帰率100%を実現した就業規則刷新と個別面談の手順

「制度があるのに使われない」。山﨑直子氏がこの課題を口にしたとき、会場のうなずきは小さくなかった。ミールキット宅配「ヨシケイ」グループの本部であるヨシケイ開発株式会社(静岡・東京、従業員109名)は、女性社員が6割を占める。タグライン「つくる人から笑顔に。」を掲げる会社が、まず笑顔にしようとしたのは社員自身だった。就業規則の刷新・成長支援制度の構築・個別面談の徹底という三本柱で、育休取得率・復帰率ともに100%を達成。入社1年でマネージャー昇格者も生まれた。2025年度東海・北陸大会で奨励賞を受賞した。

47年の歴史で整備されなかった教育体制、女性社員6割が「産後に戻れるか」を不安に感じる職場課題

取り組み以前の課題:キャリア目標が立てにくい・制度が認知されていない

1978年創立・創業47年のヨシケイ開発には、体系的な教育制度がほぼ整っていなかった。新卒社員は入社後3〜5年で退職するケースが多く、「将来のキャリアのイメージが見えない」ことが退職理由として浮かび上がっていた。

時短勤務などの育児支援制度は存在していたが、社員への認知がほとんどなく実際には活用されていなかった。制度があることと、制度が使えることの間には大きなギャップがあった。6割の女性社員の多くが「産後に戻れる職場かどうか」を在職中から不安に感じており、ライフイベントに対応できない職場という印象が離職を促進していた。

管理職は男性比率が高く、女性向けの制度変更に対して「なぜ子どもがいる人ばかり優遇されるのか」という現場からの声も出ていた。制度を変えるだけでなく、組織全体のマインドを変える必要があった。

時短勤務制度拡充・キャリアマップ整備・育休前後の個別面談徹底という段階的な制度改革

1. 就業規則の刷新:時短勤務制度の現実化

従来の時短勤務制度は「9時〜16時の6時間勤務のみ」という単一形態だったが、実際のヒアリングでは「もっと働けるのに制度が合わない」という声が多かった。9時〜17時の7時間勤務も選択できるよう変更し、対象範囲も3歳未満のみから小学校就学前まで拡大した。保育園や習い事の送迎など多様な事情にも対応できる設計に改めた。

2. 連続休暇制度の柔軟化

独自の連続休暇制度(年間5日、通常有給とは別枠)は従来2分割のみの取得が条件だったが、消化されないまま残す社員が多かった。何回に分けても取得可能に変更し、実際の取得率向上を図った。

3. 手当の拡充と在宅勤務の継続

通勤・住宅手当の拡充(遠方からの入社者に入社後5年間の住宅手当を支給)を実施。コロナ禍に導入した在宅勤務制度は、コロナ収束後も継続する判断をした。子育て中の社員にとっての「働きやすさ」として位置づけ直した。

4. 成長支援制度の構築

成長支援制度:キャリアマップ・スキルマップ・教育研修の三位一体

キャリアマップとスキルマップを整備し、「どのスキルを身につければ次のステップに進めるか」を可視化した。これと連動した教育研修プログラムを設計し、社員が自らのキャリアを設計できる基盤を作った。eラーニング・Kintoneによる社内情報共有・マネーフォワードの勤怠管理も導入し、場所を選ばない働き方の基盤を整えた。

5. 制度の周知と個別面談

育休取得者・復帰者との個別面談を総務担当者が実施し、一人ひとりの状況に応じた制度活用を支援した。規則改正時には全社員向けの説明会を開催した。管理職男性への意識づけも兼ねており、「会社として制度を推進しているという姿勢を全員に示す」役割を果たした。

育休取得・復帰率100%、入社1年でマネージャー昇格の実績

取り組みの成果:育休100%・マネージャー昇格

一連の取り組みの結果、育休取得率・復帰率がともに100%になった。中途入社から1年でマネージャーに昇格した事例も生まれた。「制度があっても使われない」状態から「制度を実際に活用する文化」への転換が起きている。

特定の大型システムを一度に導入するのではなく、「できるところから段階的に」という進め方は、109名規模の企業として再現性が高い。対象者との個別面談・法改正タイミングに合わせた規則見直しという打ち手は、小規模企業でも取りやすいアプローチとして審査員からも評価された。

中小企業が「制度から文化」へ転換する管理職意識変革と個別面談の並行アプローチ

「制度を作っただけ」で終わらないために最も機能したのは、個別面談という手間をかけた施策だ。育休前・育休中・復帰後という各タイミングで総務担当者が1対1で向き合うことで、制度が抽象的なルールから具体的な選択肢へと変わる。

もう一つの示唆は、制度変更と現場マインドの変革を並行して行う必要があるという点だ。ヨシケイ開発の場合、管理職が比較的若く、自分自身も共働き・育児経験者が多かったことが反対意見の出にくさにつながった。「幸いあまり反対意見がなかった」と山﨑は語る一方で、「お互い様だよね」という意識を個別対話で育てた地道な働きかけがその背景にある。

「人が辞めないことで社内にスキルと経験が蓄積され、次の世代の育成につながる」という好循環の設計は、中小企業でも実現できる。制度整備はその出発点に過ぎない。「これを生かしてどう変化を起こしていくか、これからの動きが大切」と山﨑は結んだ。