2019年7月16日、本格的に梅雨入りし少量の雨が降る中、レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役社長・最高投資責任者の藤野英人氏、株式会社54 代表取締役社長の山口豪志氏が登壇したイベント「ビジネスのプロが、いまあえて『人口減少の町』でプロジェクトをはじめたワケ」 の中で話された両氏が「なぜ、人口減少の町をフィールドとして選んだのか」についてお届けします。
全国を歩き回る投資家が朝日町に注目したワケ
はじめに登壇したのは藤野氏、同氏は投資運用会社レオス・キャピタルワークスの代表として、地方の優良な 中小企業、ベンチャー企業の発掘に力を入れている。レオスが運用する投資信託「ひふみ」シリーズは運用残高でアジア 最大規模のファンドに成長している。同ファンドでも地方企業への投資を多くしているが、藤野氏個人としては東京のほかに富山県朝日町に拠点を構え、一般社団法人を設立して地域創生も手がけていくという。
藤野氏は「地域ビジネスのこれから」と題し、今後地方のビジネスにおいて重要な要素である「多世代共生」、「多拠点居住」「令和時代に活躍するビジネス」について語る。
「多世代共生」とは「若者が高齢者を支える」ではなく「支えを受ける必要がある状態にある人は年齢を問わず支えを受け、支えられる状態にある人は年齢を問わず支えるほうにまわる」という考え方である。
今は若い人が大変と刷り込まれている
藤野氏は、「若い人が高齢者を支えなければならない」という考え方の刷り込みが進んでおり、 高齢化社会に対してネガティブなイメージが先行していると語る。
しかし「高齢化は “可能性”でもある」という。 最近は元気な高齢者が増えており、「高齢者=支えられる立場」との考え方は古く、元気な 高齢者を働き手として捉えるべきと語る。高齢者も働くことを通じて、健康維持につながり、生きがいを持 つことができる。巷で最近話題になった「老後資金 2000 万円問題」についても、長く働くことで年金以外の収入源を得て解決できると語る。
同氏は、高齢者と呼ばれる 75 歳以上でも、働くことができる人は相当数おり、彼らを支える側とすることで、「高齢者を若者が支える社会」ではなく「支えられる人が支える社会」へ 変わることができると語る
「東京でいい生活しようとすればお金が足りなくなる」
藤野氏は多拠点生活の実践者として、多拠点居住のメリットをわかりやすく説明した。 「老後資金 2000 万円問題に関しても、東京でいい生活をしようとするからお金が足りなく なる。地方で半自給自足の生活をすれば十分お金は足りる」、「老後資金 2000 万円問題」は そもそも東京など都市での生活を基準とするから出て来た問題であるという。
「老後資金 2000 万円問題」に限らず、働く環境や、生活する環境としてもっと地方に目を向けてみてはと同氏は提案する。現在は通信技術も発達し、テレワークが活発になっており、 週3日テレワークが可能になれば週休 2 日を入れて、週5日は地方にいることができる。東京で働く必要がない社会になりつつあり、東京へは時々情報収集に行く程度で済むようになると語る。現在、空き家が問題になっているが、見方を変えれば、地方には低コストで住める物件が溢れているということである。東京に住み、働いている人がもっと居住地の選択肢を広めさえすれば、地方には低コストの生活を送る基盤が地方にはすでに整っていると藤野氏は語る。
マインドシェアをどれだけ持ってもらえるかが、関係人口増加につながる
藤野氏は多拠点居住の場所として選ばれるには多拠点居住者の中で自分たちの地域がどれだけの「マインドシェア」を持ってもらえるかが重要と考える。
東京をはじめとする首都圏、大都市圏在住の人々にどれだけ何度も来たいと思って思えるか、それを追求することが多拠点居住者をはじめとする関係人口の増加につながるという。
しかし、そ のマインドシェアは、テンプレートに沿った観光や食だけでは握れないという藤野氏、ここからは同氏がなぜ富山県・朝日町を多拠点居住のベースに選んだのかに話題が移る。
フットワークの軽い首長がいるから朝日町を選んだ
富山県出身だった藤野氏、しかし、出身は朝日町ではなく富山市だ。なぜ同氏は生まれた 場所ではなく、朝日町を多拠点居住のベースに選んだのか。それは、フットワークの軽い首長が いたことが大きいという。 フットワークの軽い首長、朝日町笹原町長と出会ったきっかけは、朝日町の坂東秀昭さんという建築家の方から届いたフェイスブックメッセージだった。面識はなかったものの、彼が生まれ育った朝日町を盛り上げるために地元の古民家の改装などに取り組んでいることを知り、「ぜひ朝日町に来てください」という誘いをいただいて足を運んでみたという。そして坂東さんに笠原町長を紹介され、関係を深めるうちに朝日町にて活動してい たという。いつの間にか、朝日町の景色や食文化を好きになって、古民家を買い、そこを拠点に活動していた。
「地方活性に興味のある人は、まずお試しでもいいから色んな所に行ってみる。そこでの経験は自身の本業にきっと役に立つ。自身も多拠点居住をしてみて、自身の本業に繋がったところも多い。地方には血縁などの接点がなくても面白い人を受け入れる土台はある。何かをやろうと思ったら受け入れてくれるところが、自分はたまたま朝日町だった。観光名所や食文化より先に人が人を呼ぶ。」と藤野氏は話を締めくくった。
スタートアップ成長請負人が描く、壱岐島の未来
藤野氏の次に登壇されたのは株式会社 54 にて代表取締役をつとめる山口豪志氏。同氏は現在、長崎県の離島、壱岐島に居を構える。なぜ同氏が壱岐島を選んだのか、壱岐島の魅力は何 なのか、地方への若者の移住者、居住者を増やす上で何が課題になっているのか、山口氏の話 の中で出た地方創生のエッセンスをレポートしていく。
「登壇の順番、ミスってましたよね」 と、話の始めに山口氏はおどけた。前の登壇者である藤野氏の話が面白すぎたため、少々緊張していたよう だ。そんなお茶目な山口氏は壱岐島の紹介から始める。
無人島を買う。そんな大きな野望を抱いていた山口氏が生活拠点に選んだ壱岐島は国境離島である。福岡からジェットフォイルで1時間の南北 17km・東西 14km の島である。古くは古事記にも載る、歴史ある離島である。 ここで山口氏は自身の経歴を紹介する。
「オーストラリア生まれで”豪”志、自身が代表をつとめる会社は世界共通言語である数字を使 って株式会社 54、シード投資家としてプレシード、シード段階の企業への投資を行い、新卒 では草創期のクックパッドに参画、その後の IPO に立ち会い、ランサーズ社の初期の事業立ち上げに関わった。」
「現在は茨城大学や沖縄県で起業家育成を行い、代表取締役として率いるプロトスター株式会社では、日本のベンチャーの海外事業展開や、海外ベンチャーの日本進出を支援している。 プロトスター株式会社はアジアでも有数の貿易都市である香港に事務所を構えている。」
壱岐島で気づいた都会に人が集まる理由
自身の紹介を終えたところで、山口氏は壱岐島がいい5つの理由を話した。
1.離島なのに水資源が豊富 海に囲まれる離島は往往にして飲み水や生活用水に使う淡水が不足しがち、静岡県の初島 は水不足により 40 世帯しか住めないというルールがある。それに比べ、壱岐島はダム、河 川、ため池が充実しており、水に困ることはない。
2.壱岐牛に代表される、さかんな畜産業、恵まれた漁場 壱岐島は長崎県で 2 番目に広い平野があり、農業が盛んである、また品質の良いマグロが釣れる恵まれた漁場である。壱岐は麦焼酎が有名であり、ブランド牛である壱岐牛もある。そんな 壱岐の豊かな食文化に山口さんは魅せられたという。
3.古くは魏志倭人伝に登場する由緒ある歴史 壱岐島は魏志倭人伝や古事記に登場し、神職を輩出する歴史ある家もある。
4.温泉があり、観光地化されている。
5.壱岐島に住まう人が魅力的 壱岐島にはオープンで自由闊達な雰囲気がある。
山口氏は壱岐島の魅力を語ったうえで、なぜ都市に人、特に若者が集まるのか、自身の経験をもとに語る。
「東京・大阪・名古屋になぜ若者が集まるのか、地方にいても衣食住医は成り立つ。」
衣、服は ECの発達で東京でないと買えない状況は過去のものになり、食もチェーンのレストランなど外食できるところは少ないものの、自炊であれば成り立つ、住もタワーマンションはないけれど、全然気にはならない。病院も長崎本土に出れば大学病院もある。医も普段の生活においては特に問題はない。衣食住医は地方でも全く問題なく成り立っている。
しかし、これだけでは若者を地方に呼び込むことはできないと山口氏は語る。
ではなぜ、地方に若者がやってこないのか、その 理由は“移”、つまり“移動”が原因だと山口氏は説く。
「壱岐島に住んで感じたのは移動の不便さ、役場に用事があっていく際は歩いて行くとすると片道 2 時間はかかる。田舎は車がないと生活ができない。しかし、車は決まった額、それもかなりの額が維持費などでかかる。しかし、都市に行けば電車等の移動インフラが発達しているため、移動が楽、さらには必要な時に必要な分だけ使える従量課金制なので、自家用車を所有するよりも出費が抑えられる。移動コストの負担こそが若者の地方への流入を妨げている。」
地域でビジネスをするヒント
次に山口氏は地域からベンチャーは生まれるのかを語る。
「うまくいってない地方ビジネスは“観光”、なぜならば需要と供給のバランスが取りにくいから。ハイシーズンには稼げてもオフシーズンでは収益が乏しい。オフシーズンには過供給の状態になてしまう。」
では地方で成功しているベンチャーはどんな事業を展開しているのか。山口氏いわく“ド直球” だという。
「地方で成功しているベンチャーは割と IT 系が多い、どこでも成立するけれど、競合他社が事業の周辺領域にいないので、採用などの競争優位性がある。例えば、鎌倉を拠点にする面白法人カヤックは鎌倉駅周辺の空き物件を借り上げ、コワーキングスペースとして提供し、カマコンバレーと銘打って地域を盛り上げている。」
最後に山口氏は未来の壱岐島でやってみたいことを語る。 「1つ目は壱岐島に子供たちのやってくる環境を作る。例えば夏休み期間中に壱岐島の外から子供たちが通える学校を作ってみたい。次に交通インフラを整えたい、ゆくゆくは貨客混載の交通インフラを作りたい」と語った。
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