消費税10%、増税へのカウントダウンが始まった。増税による負担増に加え、軽減税率に伴う経理の煩雑化は中小企業、会計事務所にとっても頭の痛い問題である。
消費税増税は、シャウプ勧告の「応能負担の原則」に基づき、所得の多寡という担税力に応じて税を負担する直接税中心主義を原則とする。1989年に創設された消費税は、税率引き上げとともに税収が高まっていき、税率8%となった2015年には17兆8千億円で法人税の税収を追い抜き、最も税収が多い所得税に迫るようになった。
消費税が税収の中心となることに対して疑問視する声は業界内でも多い。
「10月に予定通り消費税を増税すべきだ」
税理士新聞第1631号 令和元年6月15日号
賛成 46票
反対 81票
賛成との回答の理由には、やはり社会保障の財源の不足を理由とするコメントが多かった。一方、反対と回答する理由には、景気後退につながる、中小企業の顧問先の状況が一層苦しくなるとのコメントが多い。
今回の増税では、複数税率の導入、キャッシュレス対応による経理処理の複雑化、IT化等の経費増加、さらには人手不足等により、苦境にさらされると厳しい今後の見方が目立った。
消費税は、所得の低い人ほど税負担の割合が重く、所得の高い人ほど軽くなるという特徴を持っている。例えば、年収200万円の人は、貯蓄する余裕がなく、収入のほぼ全額を消費に回すことが多い。反対に所得の高い人は、収入のうち消費に回す比率も少なくなり、所得に対する実質的な税率が低くなるという特徴がある。つまり低所得者層が不利だという逆進的な特徴を持っていると指摘されている。このような消費税逆進性解消のため導入される軽減税率は、所得に対する食料品支出比率の高い低所得者に“優しい”制度で所得の再分配が期待できるとされている。しかし、それほど再分配効果がないことも知られている。食料品の支出割合が高いといっても、高所得者に比べ支出総額そのものはやはり高所得者の方が多い。軽減税率という形で分配される消費補助金は低所得者よりも高所得者に分配される。
では何をもって税の公平性を担保するのか。
多くの人が口にする「消費税が逆進性である」との不満は、実は“累進的でない”ことにある。高所得者の負担率が高くならないということへの不満である。ならば、消費税はそういう性質を持たないので、所得税その他の方法で解決するしかないのである。
国税の税収の推移をみると、(『国税の税収の推移』で検索)
消費税5%から8%に引き上げた2014年より消費税による税収が伸びている。一方、法人税や所得税は乱高下している。実のところ「税収の確実さ」が消費税の一番の強みである。所得税や法人税は一年間の決算が赤字の場合は課税されない。消費税が増税とは反対に、法人税は昭和59年の基本税率43.3%をピークに税率は下がり続けている。日本は、所得税法人税を減税して、消費税増税することで税収を補っているといっても過言ではないのである。所得税の税収を追い抜きそうな消費税を見ると、税の理念である、税収貧富の差を緩和させ、社会的な公平と活力をもたらすための経済政策の一つとして位置づけられている所得再分配が果たして期待できるだろうか。
シャウプ勧告の理想と大きくかけ離れ、税金による「富の再分配」の意味は薄れるのではないかと大いに懸念する
執筆者
篠田 陽子氏
しのだ会計事務所 代表中部大学非常勤講師平成14年税理士登録。平成16年しのだ会計事務所を独立開業。
商工会議所での会計指導やコンピュータを使っての経営診断の講師を務める。 他士業や金融機関、不動産会社と連携をとり、創業に強い税理士として活動している。