「紙をなくすことが自社のビジネスを壊す」。その矛盾を正面から受け止め、自社から先に変わることを選んだ。福島県福島市に本社を置く東北コピー販売株式会社(代表取締役・高橋剛氏、1980年3月設立)が、全国ワークスタイル変革大賞2025北海道・東北大会で最優秀賞を受賞した。10年かけた取り組みの結果、直接営業人員を20%削減しながらも売上は10年前比30%増という成果を出している。
1台の複合機導入で40分超の書類処理が発生した紙文化と属人化の実態

積み重なる書類との闘い
東北コピー販売は複合機・パソコン・周辺機器の販売を主業とする会社だ。「さすがコピー屋さんだなというぐらい、紙に埋もれた仕事をずっとしておりました」と高橋は振り返る。
1台の複合機を顧客に導入するたびに、特価申請書・P/C申請書・本特処処理書・搬入依頼書・サービス依頼書・登録票・P/C覚書・P/C確認書・下取伝票といった大量の書類が発生し、処理だけで1台あたり40分以上かかっていた。「この業務処理をいかに効率よく早く終わらせるか、これにうちの社員は完全なる達成感を求めていました」。本来業務であるお客様への提案に時間を使えていなかった。
顧客情報の管理も完全な紙台帳で、しかもルールがなかった。担当者ごとに記録内容が違い、どれが最新情報なのかわからない状態。属人化した情報は組織の資産にならず、担当者が変われば顧客との関係も途絶えるリスクがあった。
高橋が代表取締役に就任した10年前、出発点として選んだのは「社員をラクに、仕事を楽しくできるように」というシンプルな動機だった。この軸は10年間ぶれることなく続いた。
データ5S→kintone→生成AIの3フェーズで10年かけてペーパーレス営業を実現

走り出した社内改善(困難と反応)
第1フェーズ(3〜4年):データ5Sとkintone導入
最初の3〜4年は、高橋の熱意が現場の困惑を生んだ時期だ。社員の反応は「社長の気持ちはわかるが、僕たちこんなことできませんよ」というものだった。熱意を出せば出すほど、現場は絡まり始めた。
それでも諦めずに言い続けた結果、データの整理整頓(データ5S)が少しずつ進み、顧客情報がkintoneに蓄積されていった。ここまで約3〜4年かかった。

データ蓄積の成果(可視化の始まり)
蓄積されたデータにより、福島市・伊達市などの市単位での売上把握、エリアごとの適正人員配置の判断が初めて可能になった。属人化していた情報が組織の資産として機能し始めた。

kintoneを中心とした業務横断の可視化
kintoneは顧客管理・予算管理・日報管理・見積管理・人事考課・CTI・販売管理・見込管理・MA・発注管理・保守管理・機器管理・名刺管理・ホームページと、業務横断で連携するハブとして機能している。複数転記の撤廃と意思決定のスピードアップが実現した。
第2フェーズ:第2世代デジタルディバイドへの対応

第2世代デジタルディバイド(利活用格差)
データが蓄積されると、次の課題が浮上した。「読み取る力の差」だ。同じ数字を見て「ただの売上一覧」と捉えるメンバーと、「顧客行動変化の兆し」と捉えるメンバーとの差が開いていった。ツールを使えるかどうかではなく、データから次の行動を導き出せるかどうかという、より高次のデジタル格差だ。「この差を埋めるのが大変で、今も試行錯誤です」と高橋は語る。
第3フェーズ:AI導入による提案力の底上げ

AI導入による進化
この格差を解消するために導入したのが、kintoneデータと連携した生成AI(Safe AI Gateway)だ。蓄積された顧客データを均等に見て、次の提案内容・購買履歴からの次回提案・契約更新タイミング・顧客課題の抽出などを営業担当者にアドバイスする。「なかなかこのデータが読み取れなかったものが、AIがそっとこんな切り口でいけばいいんじゃないですかというようなアドバイスをしてくれる」。感と経験頼りの営業スタイルから、データとAIに裏付けられた提案型営業へのシフトを可能にした。
営業人員20%削減で売上30%増、「コピー屋」から脱却し顧客評価が一変

現場の声・営業の変化

目に見える成果
10年間の取り組みを通じた数字の変化は明確だ。直接営業人員は20%削減し、その分を間接業務へシフト。それでいて売上は10年前比30%増を達成した。営業スタイルは、個人の感と経験頼りの一点突破型から、データ駆動・AI活用による顧客理解型へと変わった。
営業現場からは「これまで出せなかった切り口で提案できるようになった」「資料作成がスピードアップし、顧客対応に時間を使える」という声が上がっている。顧客からは「もうコピー屋じゃない、DXを推進している一企業だ」という評価を受けるまでに変化した。
審査員の松本国一は「既存ビジネスが紙をいっぱい使ってもらうことで成り立っているにもかかわらず、そこを変えることを選択した。自社が率先して実践し、お客様にも提案していくという循環」が最大の評価ポイントだったと述べた。2人の審査員の意見が一致した唯一の最優秀賞だ。
既存ビジネスの矛盾と向き合い10年でDX企業に転換した3つの教訓

人と現場が変わること
1. 「手段」から始めない
「この10年かかった理由は、私が何が何でも紙をなくすんだという、この大きな間違いだったと思っています。業務が改善されて結果として紙がなくなるというのが本来あるべき姿」。DXの出発点を「ツール導入」ではなく「業務改善の目的」に置くことで、現場の協力が得やすくなる。
2. 10年かかる前提で進める
データ5S→kintone活用→AI導入という段階を、3〜4年ずつかけて進んだ。「一気に変える」アプローチが空回りした経験から、現場が理解し、腹落ちするまで諦めずに継続することが変革の核心だと高橋は強調する。
3. 自社ビジネスモデルの矛盾と向き合う
ペーパーレス化が進めばコピー機の需要は減る。「DXを進めれば自社の既存収益が減る」という矛盾を抱える業種は多い。しかし東北コピー販売の事例は、「お客様が紙をなくして浮いた経費を、新しい業務改善に使わせてください」という営業活動への転換で、この矛盾を突破した。自社が変革を実践することで、同じ課題を持つ顧客への提案力が増すという構造だ。