金融大手のデータ活用DX|三井住友ファイナンス&リースが3年でたどり着いた「会社の記憶」の整理
「データを整理することは、会社の記憶を整理することだ。ある方がそうおっしゃっていました」。冠芳弘氏は、この一言から3年間のプロジェクトを語り始めた。
三井住友ファイナンス&リースのデータマネジメント部が築いた社内BIプラットフォーム「Intelligence Hub」は、データの所在不明、属人化、手作業という積年の課題に向き合った取り組みだ。年間およそ1,800時間の工数削減に加え、レポート作成数は約3倍、閲覧回数は約9倍に伸長。全国ワークスタイル変革大賞2025 関東・信越大会では奨励賞を受賞した。
「あの数字、どこにあったっけ」。集計が半日仕事だった頃

データのブラックボックス化:複数システムへの分散・属人化・成果物の陳腐化という課題構造
社内データの活用においては、必要な数字の所在がすぐに分からない、レポート作成の手順が担当者ごとに異なる、作成過程が見えにくいといった課題が生じやすい。冠氏は、こうした状況が業務の効率性や再現性に影響していたと説明した。
過去データをどこに置いたか分からない。作り方が特定の担当者に張りついている。さらに、毎回手作業で情報を集めなければならない。こうした状態が重なると、個々の作業は適切に行われていても、全体としてはプロセスの把握や改善が難しくなる。集計作業にも相応の時間を要していたという。
改善に乗り出したデータマネジメント部は、各部門の業務実態やレポート作成状況の把握から着手した。もっとも、既存業務との両立や運用変更への不安もあり、当初から十分な理解を得られたわけではない。データの出所が複数システムにまたがることに加え、取り組みの効果を具体的に示しながら、協力を得ていく必要があった。
解決の起点は、ツール導入ではなく800超のレポートのヒアリングだった

利用者目線の4段階プロジェクト進行:ヒアリング→DWH構築→BI整備→全社展開※統合データベース:現在はIntelligence Hubという名称に変更
「製品を入れたから解決した、というストーリーをお話しするつもりはないんです」。冠氏は、プロジェクトの中心にあったのはツール導入そのものではなく、利用者の業務を理解するプロセスだったと説明した。
同部が特に力を注いだのが、現場へのヒアリングだった。全社のおよそ70%の部署を回り、800を超える業務レポートの作成状況を一つずつ確認し、使われているデータを整理していった。当初は、業務内容を詳しく確認されることに慎重な反応もあったという。それでも、取り組みの目的を説明し、各部門の業務理解を深めながら対話を重ねることで、徐々に協力関係を築いていった。
整理したデータの受け皿としてDWH(データウェアハウス)を整備し、その上でBIツール「Tableau」を展開した。社員がBIツールを活用できるようになると、自部門のデータを可視化し、業務改善や意思決定に活かしやすくなる。発表では、現場に寄り添いながら活用を広げる進め方を重視したと説明した。
基盤を整えた後は、全社トレーニングにも取り組んだ。社員のおよそ80%に対し、BI研修、SQL研修など、データ分析・集計スキルやリテラシー向上に向けた研修を実施した。
成果は年間1,800時間削減、そしてデータを見る文化の広がりへ

効果:1,800時間削減と属人化解消。既存レポート運用の自動化により、工数削減を実現
成果は数字にも表れている。手作業による収集、集計、整形、反映を自動化し、年間およそ1,800時間を削減。レポートの作成数は約3倍、閲覧回数は約9倍に伸びた。効率化に加え、特定の担当者に依存しすぎない形でデータを活用できる環境が整いつつある点も重要な成果だ。
効果は工数削減にとどまらない。属人化の解消が進むことで、特定の担当者に業務が集中する状態を緩和し、より安定した業務運営につなげることができる。
評価は社外からも届いた。公益社団法人企業情報化協会(IT協会)主催の2024年度IT賞でIT奨励賞(トランスフォーメーション領域)を、一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)の「FDUAアワード2025」ではFDUA特別賞(人材育成)を受賞。システム整備に加え、研修を通じて社内における活用定着を図った点も評価につながった。
導入後は、既存レポートをBI上で再現するだけでなく、必要なデータを確認しやすい形で扱えるようになった。利用者がデータに触れる機会が増えることで、分析の選択肢が広がり、データ活用を日常業務に取り入れる土台が整っていった。
3年間の推進を支えたもの。現場理解、協力体制、活用定着
発表の最後には、プロジェクトを推進できた背景として、現場理解、ユーザー部門との協力、導入後の活用支援が挙げられた。
一つは、データ専門チームが主体的に取り組みを進めたことだ。トップダウンで外部ツールを導入するのではなく、業務を理解したうえで、社内に必要なデータ活用基盤を内製で整備していった。
二つめは、ユーザー部門との協力体制を築いたことだ。各部門の課題や要望を丁寧に確認し、業務実態に即した形で改善を進めたことで、導入後の活用にもつながった。
三つめは、導入後の活用定着までを見据えたことだ。システムを整備して終えるのではなく、社員が実際に使いこなせるよう、研修やスキルアップの機会を計画的に設けた。
また、経営層への説明を通じて取り組みの意義について理解を得たことや、Tableauなどを活用して部門データを可視化し、成果を分かりやすく示したことも推進を支えた。振り返ると、これは単なるツール導入のプロジェクトではなかった。利用者の業務を理解し、協力体制を築き、使い続けられる仕組みにしていくことに時間をかけた3年間だった。