従業員エンゲージメント改善前比165%達成!DX経営でかなえる多様な人材の活躍と企業成長

「スコアを取ってみたところ、全然誰も喜んでいなかった」——2016年、代表取締役に就任したばかりの倉橋美佳氏は、そう振り返る。

全国ワークスタイル変革大賞2025 九州・沖縄大会で優秀賞を受賞した株式会社ペンシル(福岡市、従業員140名)は、1995年創業のWebコンサルティング会社だ。倉橋氏が代表就任直後に測定した従業員エンゲージメントスコアの偏差値は40.9(ランクC)。そこから7年かけて「ワークテック」と「モチベーションマネイジメント」の二軸で取り組みを積み上げた結果、スコアは67.3(改善前比165%)に達した。離職率も30%台から20ポイント超の削減を実現している。

代替わり直後の衝撃:エンゲージメントスコア40.9の現実

従業員満足度調査の結果:第一回エンゲージメントスコア40.9(ランクC)

ペンシルは創業社長が直接マネイジメントを行う体制で成長してきた会社だ。倉橋氏は2003年に一般社員として入社し、深夜まで働くことが常態化した環境の中でキャリアを積んだ。2016年に代表に就任し、最初に行ったのが従業員満足度調査だった。

結果は偏差値換算で40.9。「自分が2003年から寝ずに頑張ってきて、社長にまでなった。みんなの代表として社長になったんだ、そんな気持ちでスコアを取ってみたところ、全然誰も喜んでいなかった」(倉橋氏)。

Webコンサルティングという業種は人材の創造性と生産性がそのまま付加価値になる。「嫌々出社している社員が多い状態は、クライアントへの付加価値提供の限界を意味する」——その危機感が改革の出発点だった。

エンゲージメントが業績に与える影響は数値でも裏付けられている。幸福感の高い社員は欠勤率41%減、離職率59%減、業務上の事故70%減、創造性3倍、生産性31%増、売上37%増とされる。

エンゲージメントの重要性:幸福感の高い社員は欠勤率41%↓、離職率59%↓、業務上の事故70%↓、創造性3倍、生産性31%↑、売上37%↑

二軸経営の設計:ワークテックとモチベーションマネジメント

取り組みを「ワークテック」と「モチベーションマネイジメント」の2概念で整理した点が同社の特徴だ。1995年の創業から2015年(20周年)にダイバーシティ経営を掲げ、2020年以降は「1時間あたりの生産量を増やすか、1時間あたりの単価を上げるか」という問いへの答えとしてこの二軸を構造化した。

ワークテック(定例・定形作業の省力化)

ワークテックが実現するのは、効率化・分業化・自動化・システム化による定例・定形作業の省力化だ。

ワークテックが実現すること:効率化、分業化、自動化、システム化 = 定例・定形作業の省力化

「PIC(ペンシルイノベーションセントラル)」という組織を設置し、「メイト制度」を導入。業務の見える化と属人化からの脱却を目指した。

DX経営の取り組み:PIC(ペンシルイノベーションセントラル)、メイト制度の導入で業務の見える化・属人化からの脱却を目指す

介護・育児・起業準備中など時間に制約のある人材を「メイト」と位置づけ、属人的な業務と非属人的な業務に分類して組み合わせて働く体制を構築した。正社員100名に加え、40名のパートタイム・契約社員が在籍する現在の体制はこの制度を基盤としている。結果として時間外労働65%削減を実現した。さらにアクティブシニアが考案した「エイジングテックサービス」など、新しいサービスの誕生にもつながった。

他にも、チャットボットによる社内アナウンス自動化、時間外労働のリアルタイム管理(超過見込みを管理職が事前に把握できる仕組み)なども導入した。

モチベーションマネジメント(創造的な自走できる組織化)

モチベーションマネジメント:創造的な自走できる組織化

過去のノウハウをクラウドで管理・共有することで、コンサルタントになるまでの修行期間を短縮した(0.8年程度)。ウェルビーイングの定期スコアリングと社内報(月40〜50本の記事)の閲覧データ分析によるPDCAも実施している。「社内報を見ていない人はモチベーションが下がっているか、業務が立て込んでいるか」という分析に活用する。

日常にゲームの要素を取り入れるゲーミフィケーションでモチベーションの維持・やる気を促進し、退屈な仕事や学習に刺激を与え、生産性を高める工夫も行った。

DX経営の取り組み:ゲーミフィケーション - 日常にゲームの要素を取り入れ、モチベーションの維持やる気を促進、退屈な仕事や学習に刺激を与え、生産性をアップ

さらにAI社員を5名採用した。1名目は社内ナレッジの検索役で、社内チャットに常駐してリマインドや相談対応を担う。「来週提出だけど進んでるかな」と声をかけるのはAI社員だ。

7年間の軌跡:スコア40.9→67.3・離職率20pt削減・時間外65%減

取り組みの結果:30%程度だった離職率が20%↓

離職率は30%台から20ポイント超の削減を達成した。

DX経営の取り組み:サーベイ結果ES推移 / 改善前比165%

エンゲージメントスコア(ES)は2017年9月の40.9から2024年8月の67.3へと継続的に上昇し、改善前比165%に達した。社内報の閲覧率・ウェルビーイングスコア・ESスコアを三位一体でモニタリングし、低下傾向の社員に早期介入できる体制が継続的な改善を支えている。

DX経営の取り組み:WEB版社内報 / サーベイ結果 従業員満足度 26.4pt↑

従業員満足度(サーベイ結果)は26.4ポイント上昇した。

審査員から「定性的に何が変わったか」と問われた倉橋氏は答えた。「最初はすごく嫌われているように感じていたんですけど、最近はすごくコミュニケーションの活性化や信頼構築ができていると思います。スタッフが話しかけてくれたりしますし、昔と比べると社内も明るいとか、そういったところは本当に身をもって感じられるところです」。

代替わり経営者が定量指標を武器にする方法

この事例の核心は「エンゲージメントを単なる従業員満足度施策として扱わず、事業の競争力に直結する経営指標として定量測定し続けた」点にある。スコアが経営会議のアジェンダになる仕組みを作ることで、施策が単発で終わらず継続できた。

倉橋氏の事例でも最初のスコアが低かった背景には、代替わりに伴う組織心理の変化があった。創業者との関係性を持っていた旧来の社員層のエンゲージメントが下がりやすい。この問題を「数値で見える化して対話する」というアプローチで乗り越えた。

再現するために必要なのは2点だ。1つ目は、スコア計測の定点観測を仕組みとして組み込むこと。2つ目は、「属人的な業務と非属人的な業務の仕分け」をまず実施すること。メイト制度のような多様な雇用形態の活用は、仕事の可視化なしには機能しない。事業承継を考える経営者は、スコアリングの継続を承継前から始めると、後継者への定量引き継ぎがスムーズになる。