DX事例

人を大切にするメンバードリブン経営で、生産性・エンゲージメントそれぞれの向上を実現したベンチャー企業の挑戦

規模の大小に関わらず、多くの企業が「人材の定着」に頭を悩ませています。特にベンチャー企業では、限られたリソースの中で高い生産性を求められる一方、従業員のエンゲージメントを維持するのは至難の業。この二兎を追う難題に、デジタルトランスフォーメーション(DX)で立ち向かったのが、DXコンサルティングとデジタルマーケティング支援を手がける株式会社Massive Act(以下、Massive Act)です。

同社の高萩遼介代表取締役は、「人を大切にしないで、何を大切にするのか」と語ります。過去の失敗から学び、「メンバードリブン経営」を掲げて組織づくりに臨んだ結果、離職率0%という驚異的な成果を達成。その背景にあるDX施策とは何か。高萩氏に話を聞きました。

背景: 過去の失敗が、「人を大切にする経営」への原点に

Massive Actを設立する以前、高萩氏は別の会社を経営していました。利益優先の方針の下、従業員の働く環境への配慮が後回しになり、わずか2年足らずでチームが瓦解。この痛恨の失敗が、同氏の経営者としての転機となりました。

「もう一度、持続可能な組織をつくりたい」。そう決意した高萩氏は、今度こそ「人を大切にする会社」を目指します。大企業並みの福利厚生とベンチャーならではのスピード感を併せ持つ組織。それを実現する鍵となったのが、従業員を起点とした経営スタンスである「メンバードリブン経営」という考え方でした。

実践事例の紹介: 「やりがい」「待遇」「環境」、3つの課題にDXで挑む

「メンバードリブン経営」の柱は、「やりがい」「待遇」「環境」の3つ。しかし、これらを高いレベルで両立させるのは容易ではありません。特に「待遇」と「環境」の改善には、生産性の向上が不可欠。社員一人ひとりの働き方を把握し、効率化を図る必要がありました。

そこでMassive Actが取り入れたのが、タスク管理ツールを活用した「業務スコアリング」です。誰が何の業務にどれだけの時間を費やしているのかを定量化。属人化していた業務の課題を可視化し、業務プロセスそのものの見直しにつなげました。

また、AI技術の活用も業務効率化に一役買っています。議事録作成やクリエイティブ制作、データ分析など、これまで手作業で行っていた業務をAIにアシストしてもらうことで、大幅な時間短縮を実現。創出された時間を、より付加価値の高い業務にシフトすることが可能になりました。

アプローチ: 「人」起点の発想でDXを推進

業務効率化の推進と同時に、高萩氏が重視したのが「人材育成」です。定型業務をAIに任せることで生まれた時間を、社員の学びの機会に充てる。デジタルスキルだけでなく、課題を定義し、関係者を巻き込んでプロジェクトを推進する力を養成しています。高萩氏はこうした人材をX-formationをする「X人材」と呼び、積極的に育成しているそうです。

加えて、クラウドを活用した「ナレッジの共有」も、チームの生産性向上に一役買っています。誰もが同じ情報にアクセスできる環境を整備。属人化せずにノウハウを引き継げる仕組みが、心理的安全性にもつながっているようです。

こうした施策に共通するのは、あくまで「人」を起点に発想しているという点。効率化のためだけのDXではなく、一人ひとりの成長と、チーム全体のエンゲージメント向上を念頭に置いているからこそ、現場に根付いているのではないでしょうか。

課題と克服: 「キャリアの安心感」をいかに担保するか

一方、高萩氏は「やりがい」をいかに数値化していくかが課題だと言います。「給与などの待遇面は定量的に把握しやすいですが、キャリアの充実度合いを測るのは難しい」。そこで、外部のキャリアエージェントとも連携し、社員一人ひとりの市場価値を半年に一度評価。その変化を「やりがい」に対する評価指標の一つとして活用する為の整備を進めています。

また、変化の激しいDXの世界で、社員のキャリアの不安をいかに払拭するかも重要なポイント。高萩氏は「汎用的なスキルを身につけることが、自身のキャリアの安心感につながる」と語ります。社員には、DXによって単に効率化するだけでなく、自らの市場価値を高める機会としてもDXを捉えてもらえるよう奮闘しているそうです。

成果: 生産性と離職率でWin-Winを実現

こうしたMassive Actの取り組みは、確かな成果を生んでいます。DXによる業務効率化が奏功し、生産性の向上に伴って売上高も順調に伸長。従業員一人あたりの年平均昇給率115%を達成しました。「人を大切にする」方針がカタチになって表れつつあるようです。

そして何より特筆すべきは、組織の本格始動から3年間、離職者ゼロを維持している点でしょう。「エンゲージメントの本質は、会社に留まってもらうことではない」と高萩氏。大切なのは、他に選択肢があっても、なお自社で働き続けることを選んでもらえるかどうか。その「選ばれる会社になること」こそが、Massive Actの目指す姿なのだと言います。

まとめ: 人を起点にしたDXが、「選ばれる会社」をつくる

Massive Actの事例は、人を大切にする経営とDXが決して対立するものではないことを示しています。効率化によって生まれた時間を「人への投資」に振り向けることで、生産性と従業員エンゲージメントの好循環を生み出せるのです。

また、高萩氏は自社のDXノウハウを「日本企業の99%を占める中小企業にもっと広げていきたい」と話します。規模の大小に関わらず、どんな企業でも「人を大切にするDX」は実現できる。そんな力強いメッセージが、Massive Actの取り組みからは感じられました。

「選ばれる会社」であり続けるために、いま何をすべきか。その答えの一端が、Massive Actの挑戦の中にあるのかもしれません。