製造業でDXを推進するために大切なのは、可視化した業務プロセスの情報を全ての部門で共有することです。なかでも、製造から販売までをワンストップで手掛ける企業にとっては、受発注や顧客からの問い合わせに対応するためにも、生産管理や在庫状況、受発注データを共有するといった、製造と販売の密な連携が必要不可欠です。
本記事では、建築材料や園芸用品の製造・販売を行う中小企業の株式会社みやちゅうが、「しあわせの分かち合い」を目指して山積する課題をクラウド活用により解決していった事例をご紹介します。
中小の製造・小売企業が抱えていた、さまざまな課題
株式会社みやちゅうは、建築材料や園芸用品の製造・販売を行う中小企業です。東日本大震災の影響を受け、工場の全壊や従業員の犠牲という大きな打撃を経験しました。そこから立ち直る過程で、「従業員とその家族、会社の幸せを分かち合える」企業を目指すようになりました。
しかし法令対応の義務の増加、価格競争への疲弊、原材料コストの高騰、従業員は不足がちで、募集をしても来ないなど、同社を取り巻く市場環境は厳しく、成長戦略を描くことも難しい状況でした。
社内は紙と電話が横行するアナログと力技の会社で、値下げを求めてくる取引先も多くいました。こういった状況が影響し、仕事の単価もなかなか上げることができませんでした。
みやちゅうは、単にコストダウンや効率化だけでは解決できないと考えました。ITやDXを通して低価格が正義とする市場からの脱出と、サステナブルで付加価値の高い商品の生産・販売により、「従業員とその家族、会社の幸せを分かち合える」企業を目指し、企業価値の向上を図ることにしました。
実践事例の紹介
ITツールの活用で残業をほぼゼロに
みやちゅうは、まずサイボウズ Officeの導入から始めました。非常にコストが安く、アプリを自分たちで簡単に作れることが導入を決めた理由でした。費用負担を抑えるために、初年度は正社員のみからスタートし、徐々にパートタイマーも含めた全従業員にクラウドツールのアカウントを付与していきました。
サイボウズ Office導入前は、Excelで作成したデータをパソコンで保存していて、しかも同じようなファイルがいくつも存在する状態でした。
そこで、製品・原料・容器・包装ごとにマスターデータを一元管理し、受発注や在庫管理を自動化。また、マスターデータはスマートフォンやパソコン、タブレット、社内設置のデジタルホワイトボードから情報登録・閲覧できる状態になっています。
2年目には、サイボウズ Officeに加えてkintoneも導入。kintoneのレコードをかんばん方式で表示するプラグイン「KANBAN」を活用し、生産管理や受発注データの共有、在庫管理を行うようにしました。また、今まで各セクションがそれぞれ使用していたアプリ間のタスクをワークフローのように連携して、他部署でも見れるように進化。受注データから在庫が不足している原料があれば追加で発注をかけ、入荷担当が製造検収をすると製造担当に自動的に通知され、製造が完了すれば出荷担当に……という形で情報共有のフローを組んでいます。
統合型グループウェア「eValue (イーバリュー)」と複合機を連動してドキュメントの管理、アラカルト型人事労務クラウドソフト「オフィスステーション」を活用し、年末調整もクラウド上で完了させるなど、バックオフィス業務でもクラウド活用を進めていきました。
こうした取り組みにより、5年前は月平均38時間あった残業が、2022年には月1時間以下にまで減少。同時に、売上も伸びて従業員の給与アップも実現しました。
企業価値向上と「しあわせの分かち合い」
みやちゅうはクラウド活用による効率化と生産性向上にとどまらず、製品の品質や安全性といった企業価値の向上にも取り組みました。
製造工程の記録や品質管理、製造のマニュアルなど、すべてクラウド上に蓄積することで、顧客からの問い合わせに迅速に対応できるようになりました。
また、企業防衛の観点からも、設備の点検履歴管理やBCP対策の強化、アルコールチェックの義務化に伴う記録保管、免許証や車検証保険の更新期限の追跡など、幅広い業務をクラウド上で行っています。誰でもどの端末からでも情報を活用したりアクセスしたりすることで、属人化と業務の無駄をなくしていきました。
点検アプリを活用し、法定点検義務のある設備の点検履歴を管理しています。点検漏れを避けるため、リマインダー機能で忘れないようにしただけでなく、管理者も追跡する体制も構築しました。
こうした取り組みは、取引先をはじめ、ハローワークや定期監査を実施する消防署などの外部団体からも非常に高い評価を得ています。また、地域貢献活動の活発化やハローワークの就職説明会への参加、新卒採用の成功など、企業価値向上に寄与しています。
このように、株式会社みやちゅうのクラウド活用とDX推進は、単なる業務効率化にとどまらず、従業員はもちろん、企業やステークホルダー、地域にも幸せをもたらす”しあわせの分かち合い”を実現しています。
ITリテラシーの低さを、ベンダー協力のもと克服
クラウド活用に取り組む上で課題だったのは、社内のITリテラシーの低さでした。そもそも従業員の多くがパソコンの操作に不慣れで、スマートフォンをどうにか操作しているといったレベルでした。しかし、リコーやサイボウズなどのベンダーに協力してもらい、講習会の実施など、クラウドツールの丁寧な導入支援を受けたことで、徐々に従業員の理解と活用が進んでいきました。
こうした努力の結果、現在ではすべての従業員がクラウドツールを活用し、業務効率化や残業ゼロを実現しました。また、社内でDX人材の育成にも取り組んでいます。
まとめ
株式会社みやちゅうの事例は、中小企業におけるDX推進の成功モデルとして注目に値します。
業務効率化に取り組んだ結果、企業価値が向上し、取引先や外部団体からの評価も売上もアップしました。社員の給料も上がり、会社周辺の美化活動や地域活動へ参加するようになったことで、求人募集をかけても無反応だったのが新卒を採用できるまでに大きく変革を遂げました。こうして従業員や企業、取引先、地域全体で幸せを分かち合う仕組みが出来上がったのです。新卒採用成功により、今後は社内でのデジタル人材育成や、さらなるデジタル化推進に取り組んでいく予定です。