連載・コラム

DX推進のことはじめ

DX(デジタルトランスフォーメーション)という概念が注目されています。IT化と何が違うのかといった議論がありますが、経産省では以下のように定義しています。

DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」である。

大変抽象的な定義(概念)であるため、いったいどこから手を付ければいいのかわからない、という経営者が多いようです。一方で、IT化やITの活用は、すでにできている部分があり、自社はそれなりに対応しているとする経営者います。DXを推進するためには、どうすればいいか、といった個別の問題の切り分けが必要だと考えます。

経産省の定義を振り返り、大別すると、

①製品やサービス、ビジネスモデルを変革する
②業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革する

という2点に分けることができます。

①では、商品やサービスの提供方法をデジタルトランスフォーメーションすること、と言い換えることができます。例えば、音楽の利用シーンは早くからDXが進んできました。かつてはCDを購入する、TSUTAYAでCDをレンタルしてカセットやMDに落として聞く、という楽しみ方が主流でしたが、今はAmazon Primeや、Apple Music、GoogleのYouTube Musicで月額○○円を支払って聞きたい放題、というスタイルに変わってきました。サービスの提供方法が変わったと言えます。

他にも、車、自転車、住まいを“シェアする”という考え方が広まってきました。時代は“持つ”より“使う”時代に変わりつつあり、そこで必要なのがIT技術に他なりません。予約管理から、繁忙期に合わせた在庫管理、需要予測など事業活動の裏で必要な技術は多岐に渡ります。

今のコロナ禍において、様々なサービスのオンライン化も進んでいます。むしろ加速したと言えるでしょう。

政府としては製品やサービス、ビジネスモデルを変革することで企業が生き延びることを暗に求めているため、それに合わせた事業再構築補助金という事業を推進しているとも取れます。

次に②に関してですが、対象範囲があまりに広いため、“バリューチェーン”と呼ばれるフレームを用いて考えたいと思います。バリューチェーンとは、利益を上げるために必要な企業の内部活動を定義したものです。

例として製造業のものを図示します。

バリューチェーンのもともとの使い方は、事業活動を機能ごとに分類し、どの部分(機能)で付加価値が生み出されているか、競合と比較してどの部分に強み・弱みがあるかを分析し、事業戦略の改善方法を導き出すものです。しかし、DX推進という軸でバリューチェーンを見直すことで、どこをDXするのがより省力化を実現できるか、より高い価値を創造できるかという視点で使うことができます。DXという抽象的な概念から一段落下げて自社の有効性を検討することができるのです。

DXだからAIを使う、RPAを導入する、サブスクリプションを導入する、というような急に具体的すぎる議論を始める前に、バリューチェーンを考えておくことでDX推進の優先順位を考えることができるようになります。 より効果的にDXを推進するために、事業を俯瞰的にみて優先順位を付けて対応してほしいと思います

執筆者

山本 広高 氏
BFCA経営財務支援協会
NPO首都圏事業支援機構 理事

国立大学大学院終了後、フロリダ・インターナショナル大学にてMBA取得。
アクセンチュア㈱ビジネス統合部門にてコンサルティング業務に従事。
経営コンサルタントとして独立。
2014年、BFCA経営財務支援協会の取締役に就任。
NPO首都圏事業支援機構 理事。