DX事例

国立大学東北大学のDX推進事例:学内公募によるメンバーの積極的な取り組み|日本DX大賞2023

日本DX大賞は、自治体や企業などのDXの推進事例から優れたDX事例を掘り起こし、広く共有する機会として2022年から実施しているコンテストです。2023年6月22日に開催された人と組織部門では、組織および従業員の成長とデジタルへの適応のために取り組んだリスキリングや組織の変革、人材育成などの事例から優れたプロジェクトを選んで表彰しています。

この記事ではその中から、学内公募により集まったメンバーが積極的にDXを進めていった国立大学法人東北大学の事例をご紹介します。

概要

■法人名:国立大学法人東北大学
■設立:1907(明治40)年6月22日
■公式Webサイト:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/

さまざまな思いを持って集まったメンバーが、DXを推進

国立大学法人東北大学 藤本氏:東北大学はコロナ危機を受けて、2020年7月に「東北大学ビジョン2030」をアップデートし、「コネクテッドユニバーシティ戦略」を策定。全方位のDX、スピーディーでアジャイルな経営への転換、共創による成長という3つの基本方針を打ち出しました。

コロナ危機というピンチを新たな価値創造のチャンスに変えるために、本学は同年6月にオンライン事務化宣言を発出。またDX推進を本格化するために業務のDX推進プロジェクトチームを立ち上げ、メンバーを学内公募したところ、総勢48名の職員がいろいろな思いを持って集結しました。

国立大学法人東北大学 鈴木氏:本プロジェクトでは窓口フリー、印鑑フリー、働き場所フリー、経営の見える化という4つの領域に分かれて検討を行いました。

窓口フリーは、窓口に来なくともほぼ全ての手続きをオンラインで実現することを目指し、2021年3月に国立大学法人で初となる全学を対象とした多言語AIチャットボットを導入しました。現在学内では14台のチャットボットが稼働し、24時間365日国内外を問わず問い合わせ対応を行っています。また、AIなど先端技術を活用した業務のイノベーションについても積極的に推進してまいりました。

印鑑フリーでは、学内に存在する押印を3種類に大別して整理し、効率化を推進。加えてノーコード・ローコードツールの活用によって、従来の紙での申請からデジタルへの置き換えを推進しました。

働き場所フリーでは、クラウド型デスクトップサービスやクラウド型PBXを2021年に導入し、ハード面(自宅と職場のパソコン・電話環境)とソフト面(テレワークフレックスタイムの制度)での環境整備を同時に進めていき、柔軟で効率的な働き方の実現に取り組みました。また2021年に全学展開したRPAの活用により、年間約10万時間もの業務削減を達成。定常業務に充てていた人員をより戦略的な業務にシフトさせることで、日々高度化かつ複雑化する業務へシームレスに対応できるようになりました。

経営の見える化では、学内にあるあらゆる情報を集約・統合し、データ活用による大学経営の高度化の実現を目指しました。その核となる経営戦略データベースを2020年3月に構築。本学の138の経営目標値や実績値を見える化・学内公開にすることで学内会議や評価において定量的な指標に基づく的確な判断を行うことが可能となりました。学外に対しては、2021年11月に開設したWebサイト「東北大学DXナビゲーション」にて、各ステークホルダーへ本学のDXの取り組みをお伝えできるようになりました。また、名刺を戦略的に一元管理するSanSan、各職員データに基づく戦略的人材マネジメントが可能なカオナビを導入しました。

プロジェクトを推進するのは人。熱意ある人材が活躍できる環境を管理職が整備

国立大学法人東北大学 藤本氏:プロジェクトは2020年、この4つの領域を担当する4チームから始まりました。テレワークフレックス制度が正式に就業規則に盛り込まれたことを機に、整えた制度をより実体の伴った運用に落とし込むために必要な要素を洗い出してそれぞれをチームとして独立させることで14チームに拡大。2022年には、守りのDX(デジタル活用による業務の効率化)に加えて、攻めのDX(デジタルを活用し、より強い社会とのつながりを持つ)に挑戦することも加えた16チームに拡大しました。プロジェクトは平均年齢34.4歳の若きチームリーダーたちが、DX推進の中心的な役割を果たすことで、アジャイルかつスピーディーな対応を可能としています。

プロジェクトを推進するのは人です。関わる人みんながやりやすいと感じられる環境が整っていることが非常に重要です。だからそうした環境を整備することにしました。プロジェクトに参加した成果は本部所属の管理職にきちんとフィードバックし、人事評価に反映される仕組みを構築しました。

本学ではDXを推進する上で最適なツールを自ら選択できるスキルが必要となるため、マルチベンダーで用意された情報基盤を活用してそれぞれの機能を比較検討できるようにしました。コロナ禍に際して在宅勤務、押印廃止などの説明会を実施しました。その後も運営側で研修を進める予定だったんですけれども、「教えることこそが最大の学び」と直感したチームのメンバーによって自発的に研修などが企画・実施され、3年間で87件にも上ったんですね。

私たちは業務のDXを推進していく中で蓄えたスキルやノウハウを、積極的に社会に還元しています。2023年6月には東北地区の各国立大学と新潟大学の職員により、東北地区業務DXチームを発足。大学の枠を越えて連携し、国立大学法人に共通する課題に対してDXでの解決を目指しています。毎年実施しているインターンシップでは、これまで43名の学生を受け入れました。大変ありがたいことに参加者からは高い評価をいただいております。また職員採用試験の志願者のうち、20%が東北大学でDXに携わりたいと回答しています。

社会価値創造の中心が急速にデジタル領域に移行している中で、未来のある学生の皆さんにDXの魅力をDXで提案しています。

DX推進が目的だったが、いつしか人材育成も大きなテーマに

国立大学法人東北大学 藤本氏:私たちがこれまでDXを推進してきた道のりは決して平坦ではなく悩みもしましたし、本当に苦しいときもありました。このプロジェクトはDX推進が目的ですが、人材育成も大きなテーマになっています。プロジェクトのメンバーはDXをきっかけに課題意識を持って、変革を主体的に推進しようというマインドが育ったことで、これからの大学経営の中核を担う人材になったといえるでしょう。

東北大学は「失敗してもいいからまずはやってみようじゃないか、アジャイルに」というトップの強いコミットメントのもと、熱意のある職員が主体的に集まって取り組みやすい環境を管理職が整備しています。それぞれが自身の立場で適切な役割を果たし、組織が一丸となってDXを推進してまいります。この成果を積極的に発信することで、私たちは東北大学の一員として社会に貢献していきたいと考えています。

「失敗してもいいからやってみよう」――DX推進におけるマインドが学内で醸成

岩本(審査員):大学経営では個人事業主みたいな感覚を持つ教員が多くて、いろんなことにトライしたくてもなかなか賛同を得られないみたいなことがあるんですけども、東北大学さんはどんな取り組みをされてるのでしょうか。

国立大学法人東北大学 藤本氏:東北大学ビジョン2030の中に全方位のDXというキーワードがあったかと思います。そこの根幹にある「社会価値創造の中心が急速にデジタルに移行してきている中で、その変革に対応できない大学は競争の敗者になっていくだろう」といった強い危機感に対して、執行部の皆様がいろいろな強いコミットメントを出されています。おかげで東北大学はDXを非常に進めやすい環境が整っていますし、職員、学生、教員といったさまざまな立場の皆さんが協力しながらDXを推進している状況です。だからご質問されていることはないと聞いております。

野水(審査員):事務仕事がなくなるぞって言うと、自分の仕事を奪われるんじゃないかっていう危機感が逆にネガティブ方向に行くことが結構あります。その辺り、どんな言葉をかけてらっしゃるんですか。

国立大学法人東北大学 藤本氏:国立大学法人を取り巻く状況は日々すごく変化していて、それに合わせて大学側も変化しなきゃいけないんですね。仕事は増えても人が増えないので、やはり機械ができることは機械に任せて、企画系とかいった仕事は人がしようといった話をしています。事務系職員の人事マネジメント改革を進めていきながらだんだんシフトしていった状況です。

志水(審査員):非常に明確にスコープを分けられて取り組んでこられたのが、多分成功要因なのかなと思っています。で今後、第2ステージで藤本さんたちが目指しているビジョンがあるんでしたら差し支えない範囲で教えていただきたいのと、今日聴いてらっしゃる皆さんに、DXを継続していくための何かアドバイスなどがありましたら是非お願いします。

国立大学法人東北大学 藤本氏:これまでは学内とか今ある仕事をどうにかしようとしていたんですけれども、昨年の途中ぐらいから社会の中での東北大学の立ち位置、社会との関わりを意識しはじめ、そこに対してのDXの役割にだんだんシフトしています。トップがコミットメントを出して環境を構築し、実際に危機感を持っている現場の人たちが主体的に手を挙げて組織を構成しているところに継続性を感じています。若手がこの後の企画をどんどん進めていくでしょうし、東北地方などにある国立大学も巻き込んだプロジェクトも進行しているので、徐々に広がりながら今後も続いていくっていう印象です。

司会:ここでYouTubeの方にご質問をいくつかいただいておりますのでご紹介していきます。プロジェクトチームの年齢層が気になります。

国立大学法人東北大学 藤本氏:2020年の編成チームの平均年齢は36.1歳です。一番上が50歳ぐらいで一番下は25歳ぐらい、いろんな年齢の方が男女関係なく集まっています。多様性に対応できるっていう意味では年齢層の幅広さは非常にいい構成かなと思っています。

司会:ツールや業者の選定はどのように行われたのでしょうか。

国立大学法人東北大学 藤本氏:基本的にそれぞれのチームが持ついろいろなテーマに沿って、実際にPoCをやってみたり試しに使ってみたりしながら本学に一番マッチするものを選定していきました。

司会:DXを推進している東北以外の地域の大学と何か情報交換をされたのでしょうか。また推進する上でこういうところに苦労したなどの話があれば教えてください。

国立大学法人東北大学 藤本氏:東北以外での交流もございます。コロナでオンラインでの打ち合わせが主流になったこともあり、北は北海道、南は沖縄までいろんな地域の大学様と打ち合わせの機会を持てたことは良かったなって思っています。あと正直、このプロジェクトに関わっていてあんまり苦労したことはないんですよ。もしかしたらあったのかもしれないですけど今パッとは思いつかない感じです。

国立大学法人東北大学 鈴木氏:失敗してはいけないっていう雰囲気ですと、そこがかなり障壁になるかもしれませんが、本学に関してはそういう調整がすごく上手くいってると思います。業務が増えて大変だと感じることはいっぱいあるんですけれども、本学の管理職、上層部含め失敗してもいいからDXを推進していいと。そういう環境を作っていただいているので特段苦労したことはないです。