DX事例

三菱UFJ信託銀行が実現した、6,200名をつなぐ社内アプリ

企業と従業員のエンゲージメントが問われる時代。コロナ禍でのリモートワーク普及に伴い、社内コミュニケーションの希薄化が懸念される中、三菱UFJ信託銀行が打ち出した一手が、社員向けモバイルアプリ「Kakehashiアプリ」の開発・運用です。

同社は、このアプリを起点に、社員と会社を結ぶ「架け橋」となる情報ポータルを構築。社内情報の民主化を進め、組織の一体感醸成に取り組んでいます。アプリを通じて実現する、新しい社内コミュニケーションとは。同社経営企画部インターナルコミュニケーション室長の大瀧昌之氏に話を聞きました。

高まる社内エンゲージメントへの問題意識

「当社では以前から、会社と社員のつながりの希薄化を重要な課題と捉えてきました」と大瀧氏。背景にあるのは、同社特有の課題認識です。幅広い金融サービスを手がける総合金融グループの中核企業として、事業の専門性が高く、部門の「サイロ化」が進行。部門をまたぐ横のつながりが希薄になりつつあったのです。

加えて、新サービス開発、コンプライアンス・情報セキュリティ強化などによって一人当たりの業務量が増加する一方で、働き方改革のために勤務時間の抑制が求められるように。「効率重視の余裕のない働き方」を余儀なくなされる社員が多くなっていきました。さらに育児中の社員の増加や出向者の拡大など、会社と物理的に離れた環境に置かれる社員も増えていました。

こうした状況の中で、会社と社員の”つながり”をいかに維持・強化していくか。その具体策を検討する中で生まれたのが、社内アプリの開発というアイデアだったといいます。

実践事例の紹介: 「知りたい情報」を「いつでもどこでも」

2023年4月にリリースした「Kakehashiアプリ」。社内報の情報をデジタル化し、役員メッセージ、社員の活躍、社内ニュース、キャリア関連情報、福利厚生の案内など、”従業員に届けたい情報”と”従業員が知りたい情報”を掲載しているのが特徴です。

アプリを通じ、社員はいつでもどこでも、欲しい情報にアクセス可能。「忙しくて社内情報に触れる機会が少ない社員でも、通勤中やランチタイムなど隙間時間に気軽に閲覧できる」と大瀧氏は言います。実際、リリース後のアンケートでは、回答者の約8割が「経営の考え方や全社的な取り組みを知るきっかけになった」と回答。会社の情報の周知に大きな手応えを得ているそうです。

また、育休中や出向中の社員など、「社内システムへのアクセスが制限される社員にとっても、会社との距離を縮める重要なツールとなっている」(大瀧氏)とのこと。自宅などプライベートな環境からも、社内の最新動向を把握できるのは心強い味方となっているようです。

加えて注目すべきは、退職者(OB・OG)や内定者にもアプリを解放している点です。アプリが社員の”ライフサイクル全体”に寄り添う、エンゲージメントプラットフォームへと進化しつつあります。

アプローチ: 情報発信から社員参加型コミュニケーションへ

現時点の「Kakehashiアプリ」は、どちらかと言えば会社から社員への一方通行の情報発信ツールの色合いが濃いと大瀧氏は言います。今後は、社員同士のコミュニケーションが生まれるような仕組みを増やし、組織の垣根を超えた活発な交流を生み出していく考えです。

具体的には、アプリの機能拡充を踏まえて、「いいね!」やコメント機能の追加を検討中だと大瀧氏。「社員同士の積極的なコミュニケーションを促し、さらなるエンゲージメントの向上につなげていきたい」と展望を語ります。

さらに、こうした施策を通じて、「役員にも変化が見られるようになった」(大瀧氏)とのこと。日頃接点の少ない部署の情報に触れる機会が増え、組織を横断した理解が深まっているそうです。「Kakehashiアプリ」は、トップと現場の”架け橋”としても機能し始めているようです。

まとめ: 新時代の”社員エンゲージメント経営”の先駆けに

三菱UFJ信託銀行の事例は、社内アプリの可能性を示す先進事例と言えるでしょう。重要なのは、単なる「情報伝達ツール」に留まらない点。経営と社員、社員同士の”つながり”を育み、一体感のある組織文化を醸成する”エンゲージメント・プラットフォーム”を目指している点です。

「Kakehashiアプリ」という名は、まさに役員と社員、社員同士をつなぐ”架け橋”となり、新時代の”社員エンゲージメント経営”を牽引するツールへと進化を遂げようとしています。リモートワークの普及などで希薄化しがちな組織のきずなを、テクノロジーの力でいかに強固なものにしていくか。三菱UFJ信託銀行の取り組みは、同様の課題を抱える多くの企業にとって、一つの道標となるはずです。